こんにちは。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
今日のテーマは、「引退後。一つのことしかやってこなかった不安とどう向き合うべきか?」です。
ずっと一つの競技に没頭し、青春のすべてを捧げてきたアスリートにとって、引退後は不安しかありません。私自身もかつては野球に打ち込み、プロを夢見たそのうちの一人でした。10年以上も好きで続けてきた競技から離れるのは、言葉では言い表せないほどとても不安なものです。
ましてや、それでずっとプロの世界で生きてきた選手や、日の丸を背負うオリンピック選手として戦ってきたトップアスリートにとっては、「これからの人生をどう生きていくか」について深く考えさせられる、非常に重く苦しいテーマとなります。
引退後のキャリアやメンタルについて悩む選手たちを支える機会も多いのですが、そんな中で私の主張は常に一貫しています。
それが、「何とかなる!!」という言葉です。
親しい人からは「鈴木さん、それちょっと他人事すぎませんか?(笑)」と言われることもあります。それでも私が「何とかなる!!」と心の底から信じ、強くお伝えしているのには、明確な理由があります。今回はその理由について、心理学的な視点も交えながら綴っていきたいと思います。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

アスリートの引退に潜むメンタルの危機
アスリートの引退は、単なる職業の変更やライフステージの変化ではありません。心理学的に見ると、引退は「アスリート・アイデンティティの喪失」を意味します。アスリート・アイデンティティとは、「競技者としての自分こそが自分である」という強い自己認識のことです。
幼い頃からスポーツにすべてを捧げ、生活の中心を競技に置いてきた選手ほど、このアイデンティティが強固になります。そのため、引退によって「競技者としての自分」を失うと、心の中にポッカリと大きな穴が空いたような強烈な喪失感に襲われます。「自分にはスポーツしかない」「競技をとったら自分には何の価値も残らないのではないか」という強い自己無価値感に苛まれるのです。
実際に、引退後に次の目標を見失い、うつ状態に陥ってしまうアスリートは少なくありません。あの輝かしい舞台で活躍したオリンピック選手でさえ、引退後の深刻なうつや燃え尽き症候群に苦しんだと告白するケースが世界中で増えています。引退という未知で真っ暗な世界に足を踏み入れる不安は、当事者にしかわからない、想像を絶する恐怖なのです。
周囲の励ましが逆に心を折る?隠されたメッセージ
その競技以外の社会経験がない。アルバイトの経験すらない。そんなアスリートにとって、競技がない人生は不安だらけです。この不安に向き合い、なんとか乗り越える方法を模索して日々悩んでいる選手たちがいます。
世間一般では、引退する選手に対して「〇〇は今まで厳しい世界で頑張ってきたから、次も絶対に大丈夫だよ」「競技での過酷な経験が、社会に出てもどこかで必ず生きるよ」といった励ましの言葉がよくかけられます。
スポーツメンタルコーチである私自身は、心の底から本当にそう思っているのですが、言われた当事者であるアスリートがそのままポジティブに捉えられるとは限りません。なぜならば、一見優しい励ましの言葉に見えるそのフレーズも、メンタルが不安定になっている引退直後の選手にとっては、裏を返すとこう聞こえてしまうからです。
それが、「〇〇は今までスポーツという一つのことしかやってきていないから、世間のことは何も知らないよね」という強烈なネガティブメッセージです。
実際、引退後にそういった言葉の裏を勝手に読み取り、深く傷ついている選手の話を何度も聞いてきました。もちろん、そんなに深く傷つき悩んでいる選手の相談に対して、私が無責任に「どうにかなる!」とは言っていませんのでご安心ください。
一つのことを突き詰めた「過程」こそが最強の武器
しかし、その裏で私自身は、野球を通じて一つのことを最後まで貫けなかった挫折があるからこそ、アスリートの皆さんに強く言いたいことがあるのです。
それは、「一つの競技をとことんまで突き詰められる『心の強さ』と『時間』が、当時の私は喉から手が出るほど欲しかった!!!!」という痛切な事実です。きっと、99%の元アスリートやスポーツ経験者が同じように感じているはずです。
だからこそ、スポーツメンタルコーチとして活動してきて思うのは、アスリートが100%全力で目の前の競技に向き合える「現役の今この瞬間」というかけがえのない時間を、何よりも大切にしてほしいという思いで溢れています。
私が一番伝えたいこと。それは、「一つのことしかやってきていないから何も知らない」と言われた気がしても、決して傷つく必要はないということです。むしろ、堂々と胸を張ってほしいのです。
一つのことを極限まで突き詰めることができるメンタルを持っていること。そして、その目標のために費やしてきた膨大な時間は、今後の人生において誰にも奪えない確固たる「自信」になります。これは紛れもない事実であり、他人が簡単に真似できることではありません。生きている間はもちろん、死んでからも自分の中で語り継ぐことができる、かけがえのない財産です。
結果を出したか、出していないかは関係ありません。突き詰めたその「過程」こそが、誰が何と言おうと、自分自身の内なるゴールを達成している証なのです。
この事実をもっともっと心に刻んでおいてほしいのです。「そんなことをしたら、ただの無駄なプライドになるのでは?」と心配する方もいるかもしれません。しかし、私は突き詰めたことで得られた「結果」を評価したいのではありません。「一つのことを突き詰めた」という、その尊い「過程」を評価したいのです。
結果だけで評価されるのが競技の世界かもしれませんが、実社会で本当に評価され、人の心を打つのは「生き方」だと私は思っています。だからこそ、テレビで異色の経歴を持つ人を特集する番組が流行ったり、プロフェッショナルの生き様や情熱を追うドキュメンタリーを見る人が多いのだと思うのです。一つのことを突き詰めた過程を、どうか胸を張って大事にしてください。
心理学が証明する「何とかなる」理由
引退後のアスリートとしての道のりは、長く険しいものに感じるかもしれません。しかし、この不安と真正面から向き合い、ご自身の新たな可能性を信じてみてください。ここで、私が「何とかなる!」と言い切れる心理学的な根拠をご紹介します。
キャリア理論の世界に、「計画された偶発性理論(プランド・ハプンスタンス・セオリー)」という有名な言葉があります。これはスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らが提唱したキャリア論に関する考え方です。
キャリアの約8割は予期せぬ偶然によって決まるとし、好奇心、持続性、柔軟性、楽観性、冒険心の5つの行動で偶然をチャンスに変える考え方です。つまり、どんなに綿密に将来の計画を立てても、人生はその通りには進まないということです。だからこそ、その偶然をポジティブに受け入れ、柔軟に計画を設計し直し、自分のキャリアをより良いものにしていこうという前向きな考え方です。
アスリートは現役時代、状況の変化に即座に対応する柔軟性や、失敗から立ち上がる持続性をすでに身につけています。引退後のキャリアに対して最初から完璧な計画を立てる必要はありません。行動を起こし、様々な人に出会い、目の前のことに全力で取り組むことで、予期せぬチャンスや出会いが必ず訪れます。だから、人生は本当にどうにかなるものなのです。
思い通りにならないからこそ、未来はもっと面白い
もしお時間がありましたら、人生がどうにかなった私のプロフィールをぜひ読んでみてください。「あ、本当にどうにかなるんだね…」と、きっと感じていただけると思います。
実は、私自身も自分が思い描いていたような人生を歩んでいるわけではありません。子どもの頃はプロ野球選手になりたかったですし、飛行機のパイロットを目指して猛勉強したこともありました。しかし、現在の私のキャリアは、過去の自分がまったく想像してこなかった道を歩んでいます。
まさか、プロ野球選手のメンタルをサポートする日が来るなんて夢にも思いませんでした。まさか、オリンピック選手を精神面で支える立場になるなんて、想像すらしていませんでした。そして、今こうして引退や未来に悩むアスリートに向けてブログを書いている自分がいるなんて、まったく想像してきませんでした。
そうなんです。未来って、なかなか自分の思い通りにはなりません(笑)。もし未来に人格があったら、きっとこう言うでしょう。「思い通りにならなくてごめんね!」と。そして、こう付け加えるはずです。「思い通りにはならないと思うけど、あなたが想像するよりもずっと面白い未来が待っているよ!」と。
私は、人生をそのように受け取ってきました。いや、そう受け取らざるを得なかったのかもしれません。過去には、夢破れてうつ病になったこともあります。人生はもう終わりだ、真っ暗闇だと思った時期もありました。
それでも今、私がこうして笑って前を向いていられるのは、私の人生の要所要所で「何とかなる!」と笑って背中を押してくれる人たちに出会ってきたからです。彼らとの出会いが、「人生は何とかなるよ」という真理を私に教えてくれました。
この教えてもらった大切な気づきを、私の中だけにとどめておくわけにはいきません。だからこそ、今現在、未来に対して少しでも不安を抱えているアスリートに、「何とかなる!」と信じて力強く生きている人たちの存在を知っていただき、少しでも参考に、そして希望を持ってもらえたら幸いです。
引退という大きな節目を迎え、同じような道を歩む時が訪れたら、ぜひ私の経験やこの言葉を思い出してください。あなたの新しい旅路での幸せと、次なるステージでの成功を心から願っています。




