アスリートとして活躍する現役時代は、多くの人が夢に見て憧れる世界です。しかし、その華やかなキャリアの終わりには、「セカンドキャリア」という新たな挑戦が待っています。
残念ながら、トップアスリートが引退後に自己破産などの経済的困窮に陥るケースが後を絶たないのは、金銭感覚のズレやマネーリテラシーの不足など、様々な要因が絡み合っているからです。この記事では、アスリートが引退後に破産する具体的な理由と、その対策について事例を交えて詳細に解説します。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

なぜ?引退後に破産するアスリートが少なくない理由
アメリカのスポーツ誌『スポーツ・イラストレイテッド』の過去の調査によれば、「NFL(プロアメリカンフットボール)選手の約78%が引退後2年以内に自己破産や経済的苦境に陥る」という衝撃的なデータが存在します。日本でも同様に苦しむ元選手は少なくありません。その主な理由は以下の5つです。
現役時の生活レベル(金銭感覚)を下げられない
現役時代、アスリートは高額な給与を得て、華やかなライフスタイルを享受することが多いです。このため、引退後もその生活レベルを維持しようとする傾向があります。しかし、収入が激減したにも関わらず、一度身についた金銭感覚を修正し、生活水準を下げることは非常に困難です。 例えば、元プロ野球選手の中には、引退後も高額な支出を続けた結果、経済的な困難に直面した事例が多々あります。豪華な住宅の維持費や高級車、贅沢な旅行など、現役時代の生活スタイルを無意識に続けることで、あっという間に経済的な破綻が招かれるのです。
【最重要】前年度の高額な「税金」が払えない
多くのアスリートが引退直後に陥る最大の落とし穴が「税金」です。日本の税制度(所得税や住民税)は、前年度の所得に対して計算されます。 現役最後の年に数千万円、数億円を稼いでいた場合、引退して無収入になった翌年にもかかわらず、莫大な税金の支払いを求められます。この「確定申告」や「予定納税」の仕組みを正しく理解しておらず、手元の資金をすでに使ってしまっていた結果、税金が払えずに自己破産に追い込まれるケースは非常に多く見られます。
知識がない状態でビジネスを始めてしまう
引退後のセカンドキャリアとしてビジネスを始めるアスリートは多いですが、その多くが経営の知識や経験に乏しく、結果的に失敗することが少なくありません。 元MLB選手のカート・シリング氏は、ゲーム開発会社を設立しましたが、経営のノウハウが不足していたために大きな負債を抱え、破産に至りました。日本でも、引退後に飲食店やアパレルブランドを立ち上げた元プロ野球選手が、経営不振で破産した事例があります。マネーリテラシーやビジネスの基本知識がないまま事業を始めると、失敗するリスクは飛躍的に高まります。
リスクの高い投資案件で資産を減らしてしまう
アスリートが引退後に資産運用を考えるのは自然なことですが、投資に対する知識や経験が不足していると、大きな損失を出すことがあります。 例えば、元MLB選手のレニー・ダイクストラ氏は、不動産投資で成功を収めたかに見えましたが、リーマンショックの影響などで過信した投資戦略が裏目に出て、最終的に破産に至りました。日本でも、甘い言葉で近づいてくる人間からリスクの高い投資案件(未公開株や怪しい不動産など)を勧められ、退職金や生涯賃金を失う例があります。
メンタル面の準備不足
現役時代にメンタル面の準備を怠ると、引退後の生活に悪影響を及ぼすことがあります。アスリートは、競技中のプレッシャーに対処するために高度なメンタルスキルを持っていますが、引退後の「目標を失った状態(燃え尽き症候群)」に対するメンタルの準備が不十分だと、正常な判断力が鈍ります。精神的な問題に対処できず、そこに経済的なストレスが重なることで、破産するリスクがさらに高まるのです。
アスリートが引退後に破産しないためのセカンドキャリア対策
現役時代から堅実な収入源を構築する
引退後の経済的安定を実現するためには、現役時代から堅実な収入源を確保する準備が重要です。例えば、元プロ野球選手の井端弘和氏は、引退後にスポーツ解説者や指導者として活動し、安定した収入を得ています。 メディア出演や講演活動、指導者としての活動は、引退後の収入源として有力です。現役時代から人脈を築き、話すスキルや指導スキルを磨くことで、引退後もスムーズに安定した収入を確保することができます。
ビジネスや投資の知識(マネーリテラシー)を高める
ビジネスや投資に関する知識を身に付けることは、セカンドキャリアの成功にとって不可欠です。成功したアスリートの多くは、現役時代にビジネススクールで学んだり、投資の専門家からアドバイスを受けたりしています。 例えば、元MLB選手のアレックス・ロドリゲス氏は、ビジネスについて深く学び、現在では成功した実業家として知られています。長期的な視点で資産を運用し、リスク管理を徹底するマネーリテラシーを養うことが、経済的な成功の鍵となります。
専門家(税理士やFP)を活用した資金管理
前述した「税金による破産」を防ぐためには、プロの力を借りるのが一番確実です。現役時代から税理士やファイナンシャルプランナー(FP)と契約し、「翌年の税金支払いのためにいくら残しておくべきか」「引退後の生活費は月にいくらまで可能か」を客観的な数字で把握しておくことが重要です。
メンタルの勉強をしておくことが有利に働く
現役時代にメンタルの勉強をしておくことで、引退後の生活においても大いに役立ちます。メンタルスキルを身に付けることで、引退後の心理的な変化(アイデンティティの喪失など)やストレスに対処しやすくなり、投資やビジネスにおける甘い誘惑にも冷静に対応できます。 元プロサッカー選手の中田英寿氏は、引退後も自身の軸をしっかりと持ち、実業家・文化人として成功しています。自己管理能力を高めることは、健全なセカンドキャリアを維持する大きな武器になります。
人脈を活用して、信憑性の高い情報を手に入れる
引退後の生活を安定させるためには、アスリートとして築いた人脈を活用することが重要です。ただし、近づいてくる人すべてを信用するのではなく、「業界内で実績と信頼がある人脈」を厳選することが求められます。 ビジネスや投資の経験が豊富な人とのネットワーキングを行い、実績のあるアドバイザーからの助言を受けることが、成功への近道です。正確な情報を入手することで、詐欺や破産のリスクを大幅に低減することができます。
まとめ
アスリートが引退後に破産する原因は、金銭感覚の維持、税金への無知、マネーリテラシーの不足、リスクの高い投資、メンタル面の準備不足など、様々な要因に起因しています。
しかし、これらの問題に対処するためには、現役時代から堅実な収入源の構築を目指し、専門家を交えた資金管理、そして信頼できる人脈の構築を行うなどの対策が極めて有効です。アスリートとしての素晴らしい成功を、引退後の豊かなセカンドキャリアにつなげるためには、現役時代からの計画的な生活設計を実践することが不可欠と言えるでしょう。




