こんにちは。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
大坂なおみ選手、ケンブリッジ飛鳥選手、鈴木武蔵選手、八村塁選手など、近年、日本のスポーツ界では数多くのハーフアスリートが目覚ましい活躍を見せています。海外に目を向ければ多様なルーツを持つ選手がいることは当たり前の光景ですが、日本国内においても、ハーフのアスリートが身近な存在として認知される時代が確実に到来しました。
しかし、華々しい活躍の影で、ハーフだからこそ抱える深い悩みや葛藤があることをご存知でしょうか。今回は、同じくハーフとしてのルーツを持ち、現在はプロのスポーツメンタルコーチとして活動する私の視点から、ハーフアスリートが直面する壁と、それを乗り越えて自分自身の才能を最大限に発揮するためのメンタル術についてお話しします。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

ハーフだからこその悩みを体験した10代のコンプレックス
私自身、フィリピン人の母親を持つハーフです。小学生時代、「ハーフであること」を周囲に伝えると、まるで異質な存在のように扱われた記憶が今も鮮明に残っています。いじめの標的にされたり、仲間外れにされたりといった痛みを伴う経験もしました。「生まれも育ちも日本なのに、日本人として扱ってもらえない」「日本人のはずなのに、どこか日本人になりきれない」という強烈な違和感と疎外感を常に抱えて生きていたのです。
特に心に深く突き刺さっているのが、学校の保護者会の翌日の出来事です。日本語がまだ拙かったフィリピン人の母親が学校に来たことで、同級生から「お前のお母さんは外人なんだな」と心無い言葉を投げかけられました。それが堪らなく嫌で、悔しくて仕方がありませんでした。「みんなと同じ『普通』でいたい」。その思いから、自分のルーツであるハーフという事実に対し、とてつもなく大きなコンプレックスを抱くようになりました。20歳になる頃までは、自分の素性を隠すために「沖縄生まれなんだ」と嘘をついてごまかしていた時期すらあったほどです。
過去の出来事や、自分の生まれ持ったルーツを変えることは誰にもできません。10代という多感で繊細な時期に、強烈な孤立感と孤独感を抱えていた私には、心から信頼できる友達を作ることも容易ではありませんでした。しかし、その分、一度心を許し合えた相手とは底知れぬ深い絆で結ばれるようになりました。この「他者の痛みを理解し、心底寄り添う」という当時の経験そのものが、現在、アスリートの心に寄り添うスポーツメンタルコーチ・鈴木颯人としての揺るぎない土台を作ってくれたのは間違いありません。
心の拠り所をどう作っていくか
大人になり、スポーツメンタルコーチとして現場に立つようになると、驚くほど多くのハーフアスリートたちがアイデンティティの悩みを抱えて私の元へ相談に訪れる現実を目の当たりにしました。肌の色、髪質、目の色、あるいは言語の壁など、表面的な違いによる無意識の差別や偏見に苦しんでいる選手は、現代においても決して少なくありません。
また、海外生活が長く日本の文化に馴染みがないにもかかわらず、日本国籍を持っているため日本の大会に出場できることを、周囲から理不尽に僻まれるケースもあります。そうした選手たちからメンタルコーチングの依頼を受けた際、私が最も重要視しているテーマが「彼らの『心の拠り所』をいかにして構築していくか」という点です。
そこで今回は、競技に打ち込むハーフアスリートのメンタル面を強固に支え、コンプレックスを強みに変えるために私が意識して伝えている「3つの重要な視点」をご紹介します。
1. 競技を続ける「本当の理由」を明確にする
まず1つ目は、「なぜ自分はアスリートとしてこのスポーツを続けているのか?」「どうしてこの競技で結果を残したいのか?」という、競技に対する純粋な目的意識を明確にすることです。
前述の通り、ハーフの選手は「自分は何者なのか」というアイデンティティの欠如や揺らぎに苦しむ傾向があります。多国籍国家であれば気にならない違いも、日本の特殊なスポーツ環境下では「どう振る舞うべきか」を見失う原因となり得ます。その葛藤の中で、心無い言葉を浴びせられ、メンタルを病んでしまう事例も後を絶ちません。
ここで多くのアスリートの中に芽生えるのが、「バカにした奴らを絶対に見返してやる!」という強い反骨心です。闘争心を引き出す意味では決して悪いものではありませんが、この「他者への怒り」だけをエネルギー源にしてしまうと、本来自分がスポーツを愛し、楽しんでいたはずの動機を見失ってしまいます。
スポーツ心理学の観点では、他者の評価や見栄などから生まれるモチベーションを「外発的動機づけ」と呼びます。この動機が強すぎると、結果が出ない時のメンタルの起伏が激しくなり、競技そのものが苦痛に変わってしまうのです。だからこそ、怒りやコンプレックスからの脱却を図り、純粋に「この競技が好きだ」「もっと上手くなりたい」という「内発的動機づけ」に立ち返ることが、長く厳しいアスリート人生を生き抜くための強力なメンタルの軸となります。
2. 「日本」という国を客観的・マクロな視点で理解する
2つ目は、日本という国そのものを深く理解することです。これは、良い面も悪い面も含めて、俯瞰的に捉えることを意味します。
日本は島国であり、古来からの伝統や独特の文化、同調圧力が今も根強く残っています。しかし同時に、日本人の精神の奥底には「武士道」に代表されるような、相手を敬い、礼節を重んじる気質も脈々と受け継がれています。
身近にいる心無い一部の人たちの言葉に振り回されるのではなく、「日本という国、日本人の気質全体」をマクロな視点で学んでみてください。武士道などの精神性を知ることで、周囲の人々との接し方や見え方が大きく変わってくるはずです。「郷に入っては郷に従え」という言葉があるように、ハーフである私たちだからこそ、あえて客観的に日本の文化を学び、受け入れる度量を持つことが武器になります。
私自身、この視点を持てたのは20歳の頃にイギリスで生活した経験が大きかったです。海外の友人から「日本人は礼儀正しい」「日本の文化は素晴らしい」と絶賛された時、私は自国の文化をほとんど語れませんでした。かつて日本人に対して少し差別的な感情すら抱いていた私にとって、それは大きなカルチャーショックでした。そこで初めて「日本って素晴らしい国だ。日本で育ったことを誇りに思おう」と心から感じ、自分自身のハーフとしてのルーツを肯定し、受け入れることができたのです。
3. 競技の枠を超えて、ハーフのコミュニティを作る
最後の3つ目は、できる限り「ハーフの知り合い」を作っておくことです。
ハーフのアスリートが抱える最大の敵は「孤独」です。自分の複雑な感情やルーツにまつわる葛藤を、同じ温度感で理解してくれる存在が周囲にいないという経験を、人の何倍も重ねてきているはずです。この深い孤独感を払拭するためには、やはり同じ境遇であるハーフ同士で繋がりを持つことが一番の特効薬となります。
これは同じ競技内にこだわる必要はありません。むしろ競技の枠を超えて、アスリートとしての重圧や、ハーフゆえの共通の悩みを本音で語り合い、共有し合える仲間を持つことが、強靭なメンタルを保つための大きな「心の拠り所」となります。無理をして周りの日本人に100%染まろうとしたり、全員と仲良くしようと気を張る必要はありません。自分を理解してくれるコミュニティを持つことで、心に圧倒的な余裕が生まれるのです。
アイデンティティは最大の武器になる
私自身も、かつてはハーフであることに深く悩み、苦しみました。しかし、時間をかけてさまざまな経験を積んだ今、巡り巡って「ハーフに生まれて本当に良かった」と心から思えるようになりました。
フィリピンの血が流れ、イギリスで生まれ、日本で育った。そのすべてを受け入れた時、どの文化にも属しながら、何かに過度に依存することのない「真の意味で自由なメンタリティ」を手に入れることができました。「日本人だからこうあるべき」といった枠組みにとらわれず、グローバルで柔軟な思考を持てること。これこそが、ハーフアスリートにしか持てない圧倒的な「強み」なのです。
今、自分のルーツやコンプレックスを受け入れられずに苦しんでいる選手もいるかもしれません。しかし、時間をかけて自分と向き合えば、必ずそれを大きな武器に変えられる日が来ます。その過程すらも、アスリートとしての成長の糧としてぜひ楽しんでみてください。
もし、あなたが一人で悩みを抱えているのなら、ぜひ一度私にご相談ください。体験コーチングを通じて、あなた自身の隠された強みを引き出すお手伝いができることを楽しみにしています。




