冬の寒さを肌で刺すように、より一層強く感じる日々になりましたね。毎日厳しい環境の中でトレーニングに励むアスリートの皆さん、本当にお疲れ様です。
アスリートが望む結果を出せるように、メンタル面から競技人生をサポートしているスポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
冬のトレーニング現場や試合会場では、よく「寒さなんて気の持ちようだ」「気合いで乗り切れ」という言葉を耳にすることがあります。日本のスポーツ界には、まだまだこうした精神論や根性論が根強く残っているのを感じます。
しかし、私は身体が発する正直な反応を何よりも大事にしたいと考えています。ですから、私自身も「寒いものは寒い」と素直に思う人間です(笑)。
もちろん、厳しい状況下でも「寒くない」と思い込んで乗り切れる、強靭なメンタルを持っている選手もいるでしょう。しかし、自然環境という圧倒的な力に対して、無理に気持ちだけで対抗する必要は本当に有るのでしょうか。今回は、スポーツの現場におけるメンタルと環境の関係性について、心理学的な視点を交えながらお話ししていきたいと思います。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

「気の持ちよう」がパフォーマンスを下げる心理学的な理由
厳しい環境に対して「気合いで乗り切ろう」とすることには、実は心理学的なリスクが伴います。心理学には「自我消耗(エゴ・ディプレッション)」という概念があります。これは、人間の意志力や自己コントロール力は有限な資源であり、使えば使うほど枯渇していくという理論です。
例えば、氷点下に近い環境で「寒くない、寒くない」と自分に言い聞かせることに意志力を使ってしまうと、どうなるでしょうか。本来、試合での戦術的判断、フォームの意識、相手の動きに対する瞬時のリアクションなどに使うべき脳のエネルギーを、ただ「寒さに耐える」ためだけに浪費してしまうことになります。
スポーツにおいて、メンタルは集中力や判断力を極限まで高めるために使うべきものです。それにもかかわらず、環境の悪さを精神力でカバーしようとすると、いざという重要な局面でメンタルが機能しなくなってしまうのです。
身体化された認知 身体の反応が心を作る
また、心理学には「身体化された認知」という考え方があります。これは、私たちの心や思考が、身体の感覚や置かれている物理的な環境から多大な影響を受けているというものです。
身体が寒さを感じて縮こまっていると、脳はそれを「危機的状況」や「緊張状態」として処理します。すると交感神経が優位になり、筋肉が硬直するだけでなく、心理的にも「不安」や「恐れ」を感じやすくなったり、思考が柔軟性を失って頑固になったりすることが研究で示されています。
つまり、「寒い」という身体の正直な反応を無視してメンタルの力だけで抑え込もうとしても、無意識のレベルではすでに環境からのネガティブな影響を受けてしまっているのです。私たちがどれだけ「良いスポーツメンタル」を作ろうと努力しても、環境が引き起こす無意識への影響は計り知れません。
メンタルを整える前に、環境を整えるという選択
この裏を返せば、非常にシンプルで強力なアプローチが見えてきます。それは、「メンタルの話をする以前に、物理的な環境をどれだけ整えることができるか」に注力することです。
寒ければ、最新の防寒具や機能性インナーを身につける。ウォーミングアップの環境を工夫して体温を下げないようにする。練習後のリカバリーのために、すぐに暖かい飲み物を用意し、室温を適切に保つ。これらは一見するとメンタルとは無関係の物理的な対処に見えますが、心理学的に見れば、脳と心に安心感を与え、意志力を無駄遣いさせないための立派な「メンタルコントロール」の一部なのです。
私は、スポーツメンタルコーチとして選手の心をサポートする上で、この「環境調整」が最も即効性があり、かつ最善のベース作りになると思っています。
指導者やサポートメンバーは、こうした「環境がメンタルに与える影響の大きさ」という事実を知った上で選手に接しているでしょうか。それとも、知らずに「気持ちが足りないからだ」と片付けてしまっているでしょうか。アスリートを取り巻く環境からの影響は、皆さんが想像している以上に大きく、そして深いものです。
スポーツメンタルコーチとしてのリアルな視点と限界
もちろん、私のようなスポーツメンタルコーチが介入できる範囲には、現実的な限界があります。天候を変えることはできませんし、チームの設備や予算を直接的に増やすこともできません。変えられない外的要因は必ず存在します。
しかし、その「変えられない環境」の中で、選手自身が「今、自分に変えられる環境は何か」を見極め、主体的に整えていく思考を育むことは可能です。
メンタルだけで全てをどうにかしようとするのは、ある意味で非常に危険な思い上がりになり得ます。人間は環境の生き物であるという事実を謙虚に受け止め、身体の正直な反応に耳を傾けること。その上で、自分のパフォーマンスを最大化するために、道具、空間、人間関係を含めた「環境」にアプローチすること。
その限界を知り、その中でできる限りのベストを尽くし、アスリートの心と環境の架け橋になることこそが、スポーツメンタルコーチとしての私の仕事なのだと確信しています。
メンタルに行き詰まりを感じているアスリートの皆さんは、一度立ち止まって、自分の周りの「環境」を見直してみてください。心を無理に変えようとするよりも、着る服を一枚変えることが、あなたに思わぬ突破口をもたらしてくれるかもしれません。




