スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
私は年間で20名前後のアスリートの方々と長期契約を結び、メンタル面からのサポートを行っています。毎年3月頃から選手たちと一緒にシーズンを戦い始め、日々の練習から重要な試合に至るまで、彼らが抱えるあらゆる心の動きに寄り添い続けています。
練習でのタイムやスコアといった結果、思い通りに身体が躍動する感覚、そして周囲からのポジティブな評価。「今日の動き、すごく調子良さそうだね!」とコーチやチームメイトから声をかけられると、選手自身も本番での素晴らしい結果を期待してしまうのは、決して無理のないことです。
しかし、スポーツの現場はそれほど単純ではありません。現実には、どれだけ調子がよくても結果が伴わないことが多々あります。また、プロセスとしては素晴らしい動きを見せているのに、最終的な実績が伴わないという残酷な局面に立たされるアスリートも数え切れないほど見てきました。
その都度、深く落ち込んだり、どうして報われないのかとイライラしたり。焦る気持ちをどうしても抑えられなくなり、フォームや戦術をあれこれと変えて試行錯誤した結果、さらに泥沼にはまって結果が出なくなってしまう。競技レベルを問わず、真剣にスポーツに向き合っているアスリートであれば、誰もが一度はそんな苦しい経験をしたことがあるはずです。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

歯痒い現実に直面するアスリートたち
私がサポートしているプロ野球選手の中にも、まさに「調子は絶好調なのに結果が出ない」という時期を経験した選手がいました。
打撃練習では素晴らしいスイングをしており、試合でも完璧なタイミングで捉えている。それにもかかわらず、いい当たりを打ってもことごとく野手の正面を突いてしまう。抜ければ長打になるはずのライナー性の打球を、相手の信じられないようなファインプレーで止められてしまう。あるいは、完璧に捉えたホームラン性の当たりが、風に流されてほんの数十センチの差でファールになってしまう。
調子がいい時に限って、あと少しで、あと一歩で手が届くという場面で結果を逃し続ける苦しみは計り知れません。
私自身も彼らをすぐそばでサポートしていて、その都度、言葉にできないほどの歯痒い気持ちを一緒に味わってきました。だからこそ、調子がいいのに結果が出ない時、アスリートの心の中に「なぜだ」「どうして自分だけ」と、色んな感情がドロドロと湧き出てくるのは当然のことであり、少しも不思議ではないと感じています。
心理学から紐解く「焦り」と「外的帰属」
このような状況に陥った時、多くの選手との対話の中で頻繁に出てくるのが、「自分のこれまでの積み重ねが本当に正しかったのか気になって仕方がない」という言葉です。
心理学の分野に「認知不協和理論」というものがあります。これは、自分の持つ認識(自分は調子が良い、正しい努力をしている)と、現実の事実(結果が出ていない)の間に矛盾が生じた時、人は強いストレスや不快感を感じるという理論です。アスリートはこの不快感を解消しようと無意識に思考を巡らせます。
その結果として起こりやすいのが、心理学でいう「外的帰属」です。これは、物事の起きた原因を、自分の能力や努力といった内的なものではなく、環境や運、他者などの外的な要因に求める心の働きです。
調子がよくても結果が出ない期間が続くと、人は徐々に周りの環境や道具、あるいは判定などに原因を求め始めてしまいます。最終的には「ただ運が悪かっただけだ」と言い出してしまうこともありますが、心がそれ以上傷つかないようにするための自己防衛機制が働いている状態とも言えますので、私としてはその言葉が出てくるのも無理はないと受け止めています。
結果思考の罠と向き合う
しかし、ここで周囲のせいや運のせいにして片付けてしまうことは、一時的な心の平穏をもたらすかもしれませんが、根本的な解決にはなりません。それこそが、スポーツメンタルにおいて最も注意すべき「結果思考」の罠なのです。
結果思考とは、文字通り「目に見える結果や実績だけを追い求め、そこだけで自分自身の価値や取り組みの正しさを測ってしまう状態」を指します。結果思考に陥ると、結果が出ないことへの恐怖心から身体が硬直し、本来持っているパフォーマンスを発揮できなくなってしまいます。
だからこそ、調子がよくて結果が出ない苦しい時期にこそ、アスリートの皆さんにある一つの確固たる考えを持つようにして欲しいと私は伝えています。
それが、「調子=結果にはならない」という事実を受け入れることです。
調子に左右されないプロセスの重視
もちろん、高いレベルでスポーツをしていると、コンディションや調子を整えることは非常に大事です。ピーキングの技術はアスリートの必須スキルと言えます。
しかし、調子が大事だと思うこと以上に、
- 「調子次第で結果が左右されない自分」
- 「調子が悪くても一定のパフォーマンスを発揮できる自分」
になれたとしたら、いかがでしょうか?
結果が出ない理由を、ただ「調子が良かったのに運がなかったから」と片付けるのではなく、調子以外の部分に求めることが大事になります。スポーツ心理学では、これを結果目標からプロセス目標への転換と呼びます。
勝敗や他者の評価という「自分ではコントロールできない結果」に執着するのではなく、自分の技術の精度、戦術の遂行、メンタルの状態といった「自分でコントロールできるプロセス」に集中するのです。結果が出なかった時こそ、このプロセスを冷静に見直し、どこに改善の余地があるのかを探求することが、次なる進化へのヒントになります。
トップアスリートが見ている「成長」の世界
調子にとらわれない自分になることは、一朝一夕で達成できるものではありません。しかし、日々のプロセスに目を向け、確実に成長していくことで、その成長に応じた結果をいずれ期待することができるようになります。
心理学者のキャロル・ドゥエックが提唱した「成長マインドセット」という概念があります。これは、自分の能力は経験や努力によって向上させることができるという信念です。このマインドセットを持つアスリートは、結果が出ない時期を「失敗」ではなく「学習と成長のためのフィードバック」として捉えることができます。
厳しい勝負の世界において、私たちは最終的に、自分自身の成長に比例した結果しか手に入れることができません。一時的な調子の良し悪しやラッキーな出来事で得た結果は、決して長くは続かないのです。
「運」や「人のせい」にせず、目先の結果にとらわれる結果思考から抜け出し、自身のコントロールできる成長のみにフォーカスする。それこそが、トップ選手だけが見据え、そして実践している本物のスポーツメンタルの世界なのです。
あなたが今、どれだけ調子が良くても結果が伴わない暗闇の中にいたとしても、その試行錯誤と葛藤は必ずあなたを成長させています。結果を焦るのではなく、今日の自分に何ができたのか、その確かな一歩を積み重ねていってください。




