アスリートを悩ませる「苦手」の正体とは?
こんにちは。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
日々、多くのアスリートと向き合っていると、避けては通れないある相談を受けることが多々あります。それは、選手自身のパフォーマンスを大きく左右する「苦手意識」についての悩みです。
スポーツの現場において、苦手意識の形は本当に多種多様です。 たとえば、試合会場の雰囲気が自分と合わない、特定のプレースタイルを持つ対戦相手との相性が悪いといった対人・環境の悩み。さらに具体的に言えば、テニス選手なら「人工芝は得意だけれど土のコート(クレー)はどうも苦手だ」という声や、野球選手なら「神宮球場では打てるのに、東京ドームに入るとバッティングの感覚が狂う」といった悩みもあります。
さらには競技そのものの技術面だけでなく、
- 「冬の大会は得意だが、梅雨時期の試合は体が動かない」
- 「日本国内でのプレーはリラックスできるが、海外遠征になると実力が発揮できない」
- 「全国大会などの大舞台よりも、負けられない地区大会の方がプレッシャーを感じて苦手だ」
など、数え上げればきりがありません。
これらはすべて、その選手本人にしか理解できない非常に繊細な感覚の世界です。だからこそ、コーチや指導者が
- 「とにかく〇〇の練習をすれば克服できる!」
- 「気合で乗り切れ!」
といった一律のアドバイスをしたところで、それが必ずしもすべての選手に当てはまるわけではありません。もちろん、技術的なアドバイスがピタリとハマって解決する人もいますが、根本的な解決に至らないケースの方が多いのが現実です。
では、私はスポーツメンタルコーチとして、どのようにして選手たちの心に巣食う苦手意識を取り払っているのでしょうか。私が選手たちに真っ先に意識してもらうこと、それは自分自身の心に蓋をしている「思い込み」の存在に気づくことです。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

苦手意識はどこから来るのか?心理学が解き明かす「思い込み」のメカニズム
結論から言いましょう。私がアスリートの皆さんに一番伝えたいことは、「苦手意識の正体は、単なる思い込みに過ぎない」ということです。
ここで少し、皆さんの過去を振り返って考えてみてほしいのです。あなたの中に特定のプレーや環境に対する苦手意識が芽生えたのは、一体どんな時だったでしょうか。 おそらく、最初から「自分はこれが苦手だ」と確信していた人はいないはずです。過去の試合や練習の中で、何となく上手くいかなかった経験があり、そこでちょっとしたミスをしてしまった。そして、そのミスの直後に、指導者やチームメイト、あるいは親から「お前は本当に〇〇が苦手だな」「いつもそこで失敗するよな」と、何気なく言われた言葉が心に引っかかったのではないでしょうか。
自分ではそこまで深く考えていなかったはずなのに、周囲からの言葉を浴びることで、次第にその言葉を意識するようになります。これを心理学では「ラベリング効果」と呼びます。他者から「あなたは〇〇な人だ」とラベル・レッテルを貼られることで、無意識のうちにそのラベル通りの行動をとってしまう、または自分自身をそのように評価してしまう心理現象です。
さらに恐ろしいのが「確証バイアス」と呼ばれる心理的な働きです。一度「自分は〇〇が苦手だ」と思い込み始めると、人間の脳はその思い込みを証明するための情報ばかりを集めようとします。上手くいった時のことは「たまたま運が良かっただけ」と無視し、少しでもミスや失敗をすると「やっぱり自分はこれが苦手なんだ」と、否定的な事実ばかりを記憶に強く刻み込んでしまうのです。
あるサーファーの気づき アドバイスゼロで壁を越えた瞬間
先日、私のところに相談に来たあるアスリートも、まさにこの心理的な罠に陥っていました。彼はプロを目指すサーファーなのですが、「自分はどうしても小さな波が苦手なんです」と深刻な顔で話してくれました。
私は彼に、どうして小さな波が苦手だと感じるのかを尋ねてみました。すると、彼は少し考えてからこう答えました。 「周りの先輩や仲間に、お前は小波に乗るのが下手くそだな、とよく言われるからです」
彼はその言葉を真に受け、本気で悩んでいました。もちろん、周りの人たちも決して悪気があって彼を傷つけようとしたわけではありません。むしろ、彼を成長させようとして発した言葉だったのかもしれません。
日本のスポーツ文化には、古くから「反省」を重んじる風潮があります。自分のダメなところを見つけ出し、そこにダメ出しをして厳しく向き合うことこそが、前に進むための唯一の方法だと信じられている文化です。 確かに、自分の課題や失敗と真正面から向き合うことで大きく成長できるタイプの選手もいます。しかし、心理学的な観点から見ると、過度な反省やダメ出しは、「自分はダメな人間だ」という無力感を学習させてしまう危険性も孕んでいます。人によっては、反省すればするほど負の感情の泥沼にハマり、抜け出せなくなってしまうのです。
だからこそ、私はメンタルコーチングを行う際、安易なダメ出しや、技術的なアドバイスから入ることはしません。まずは徹底的に選手の話を「聴く」ところからスタートします。
そのサーファーの彼とも、ただひたすらに話を深掘りしていきました。すると、彼自身の口からポツリとある言葉が出たのです。 「もしかして……俺、小さい波が苦手だと思い込んでるだけじゃないですか?」
彼は自らの思考を客観的に整理することで、重要な真実にたどり着きました。 「小さい波に乗れないのは、才能がないからじゃない。単に、小さい波を上手く乗りこなすための『経験』や『知識』、そして『具体的な技術』が、今の自分には足りていなかっただけなんだ!」と。
この事実に気づいた瞬間から、彼の中に劇的な変化が起きました。ただの思い込みに怯えるのではなく、「では、どんな知識や技術を身につければいいのか?」という具体的な課題へと意識が切り替わったのです。結果として、彼のモチベーションは以前とは比べ物にならないほど高まっていきました。
その間、私は「こうやって波に乗ればいい」といった具体的なアドバイスを一切していません。ただ、彼の思考の整理を手伝うために、相槌を打ちながら話を聞いていただけです。
感情と事実を切り離すことが、最強のメンタルを作る
このエピソードからも分かるように、人の「思い込み」ほど恐ろしいものはありません。思い込みは、アスリートの可能性をいとも簡単に奪ってしまいます。
苦手だと感じる感情そのものを否定する必要はありません。大切なのは、その感情に呑み込まれるのではなく、「客観的な事実」と「主観的な感情」をしっかりと切り離して見つめ直すことです。 ミスや失敗をした時、「自分はダメだ」「苦手だ」と感情的に自己評価を下すのではなく、「この状況下で、体の使い方がこうなっていたからミスが起きた」という物理的・客観的な事実にだけ目を向けるのです。
感情に振り回されず、事実を知り、受け入れること。それが、ブレない強靭なメンタルを築くための第一歩となります。
メンタルトレーニングと聞くと、何か特殊で過酷な修行をしたり、魔法のようなテクニックを使ったりするようなイメージを持たれるかもしれません。しかし、私が2017年に出版し、多くのアスリートの方々に手に取っていただいた著書『一流をめざすメンタル術: 勝負ドコロで馬鹿力を出す、3つのステップ』(知的生きかた文庫)でもお伝えしている通り、メンタルを整えるアプローチは、実は拍子抜けするほどシンプルなのです。
今回ご紹介した一つの事例が、皆さんのメンタル面を改善し、本来の実力をいかんなく発揮するためのヒントになれば幸いです。失敗やミスは、あなたを否定するものではなく、成長のための単なるデータに過ぎません。思い込みのフタを外し、あなた自身のスポーツ人生をさらに豊かなものにしていきましょう。




