現場主義への回帰:スタジアムだからこそ見える心の世界
こんにちは。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
アスリートのメンタルを支えたい、彼らの本当の力を引き出すサポートがしたい。そんな熱い想いを持つ皆さんに向けて、今日は私の現場での気づきと、その裏にある心理学的なメカニズムについてお話ししたいと思います。
先日、味の素スタジアムで行われたサッカーの試合視察に行ってきました。天候にも恵まれ、最高のコンディションの中での素晴らしい試合でした。私が日頃からサポートしている選手が所属するチームも見事に勝利を収め、良い流れを保てていることにホッと胸をなでおろしています。
実は、新型コロナウイルスの影響が大きかった期間、私はあえて試合観戦を控えていました。サポートしている大切な選手たちに万が一の迷惑をかけてはいけないという想いから、スタジアムへ足を運ぶことを我慢し、私自身も自宅で過ごす時間を増やし、積極的な外出を控えていたのです。
しかし、世の中の状況もようやく落ち着きを取り戻しつつあります。ここからまた、現場での試合視察の回数をどんどん増やしていこうと決意を新たにしています。
なぜなら、アスリートの心理を深く理解するためには、やはり「現場」が一番だからです。テレビ画面越しでは決して感じ取れない空気感、選手の細かな息遣い、視線の動き、そしてスタジアム全体の熱気。これらは現場に足を運ばなければ得られない貴重な情報です。
心理学的な観点から言えば、人間には「ミラーニューロン」と呼ばれる共感に関わる神経細胞が存在します。現場で実際に選手の動きや感情の起伏を目の当たりにすることで、このミラーニューロンが強く刺激され、選手の心理状態をより深く、直感的に理解することができるのです。データや映像だけでは補いきれない非言語コミュニケーションの領域にこそ、メンタルをサポートする上で極めて重要なヒントが隠されています。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

チームの「雰囲気」を生み出す心理学的背景
今回のサッカーの試合視察を通して改めて強く感じたのは、両チームが醸し出す「雰囲気の違い」です。
雰囲気が良いチームというのは、ピッチに立っているだけで「何かやってくれそう」という期待感を抱かせます。私たち観る側も、安心感を持ちながらプレーを見守ることができます。逆に、雰囲気が悪いチームは、どこかギクシャクしており、「何かミスが起きそう」「セットプレーなどでやられてしまいそう」という嫌な予感を漂わせています。
非常に曖昧な表現に聞こえるかもしれませんが、この予感は心理学的に見ても決して気のせいではありません。これには「情動伝染」という心理現象が深く関わっています。
人間の感情は、言葉を交わさずとも、表情や姿勢、ちょっとした仕草を通じて周囲のメンバーへ無意識のうちに伝染していきます。ピッチ上で一人の選手が焦りや不安を感じれば、それがチーム全体に波及し、逆に一人が自信に満ちた振る舞いをすれば、ポジティブなエネルギーが連鎖していくのです。雰囲気が悪いチームのセットプレーで失点しそうな気がするのは、守備陣全体に不安の情動伝染が起きており、一瞬の判断の遅れや連携ミスが生じやすくなっている状態を、観る側が無意識に察知しているからだと言えます。

日常のチームビルディングと個人のメンタルトレーニング
そして忘れてはならないのは、チームの雰囲気の良し悪しは、試合という極限のプレッシャーの中で突発的に作られるものではないということです。チームの雰囲気は、日々の練習やコミュニケーションといった「日常」から生まれます。
チームの日常がどのような心理状態にあるのか、どれだけお互いを信頼し合えているのか。それがそっくりそのままピッチ上に現れます。近年、心理的安全性という言葉が注目されていますが、スポーツの世界でも全く同じです。失敗してもチームメイトがカバーしてくれるという心理的安全性が確保されているチームは、試合中の想定外の事態にも崩れることなく、強い結束力を発揮します。
だからこそ、サッカーのような集団競技においては、組織力を高めるチームビルディングが非常に効果的になります。お互いの価値観を共有し、コミュニケーションの質を高めるアプローチが不可欠です。
その上で、チームとしての強固な土台を活かし、選手一人ひとりの能力を爆発的に引き出すために、個別のスポーツメンタルトレーニングが極めて有効になってきます。チームとしての調和と、個としての揺るぎない自信や集中力。この両輪が揃って初めて、最高の結果を生み出すことができるのです。
無音のスタジアムが選手に与えるプレッシャーの正体
また、今回の試合視察では、スタジアムの観戦環境が選手に与える影響についても深く考えさせられました。現在は有観客での試合が戻りつつありますが、かつてのように満員の観客が声を枯らして応援する状況とは異なり、無音や制限された中でのプレーを強いられる場面も少なくありません。
実は、声援がない無音の中でのサッカーというのは、選手にとって非常に大きなプレッシャーとなります。心理学には「社会的促進」という概念があります。これは、他者が存在し、見られていることによってパフォーマンスが向上する現象を指します。多くのアスリートは、大歓声というポジティブな刺激をエネルギーに変換し、自分の限界を超える力を発揮してきました。
しかし、無音状態ではそのエネルギー源が絶たれるだけでなく、自分の息遣いやボールを蹴る音、ちょっとしたミスに対するため息などが過敏に耳に入ってしまいます。これが逆に「社会的抑制」を引き起こし、過度な緊張や集中力の低下、プレーの萎縮を招く原因となるのです。
そのうち慣れるだろうと考える人もいるかもしれませんが、環境の変化に対する適応力は選手によって大きく異なります。慣れそうでなかなか慣れない、見えないプレッシャーと孤独に戦い続けている選手が、トップレベルの世界にも大勢いるのが現実です。
アスリートのメンタルを支えたいと願うあなたへ
だからこそ、アスリートの心を支える存在が今、これまで以上に求められています。技術や戦術の指導だけでなく、選手の心の機微に寄り添い、共に壁を乗り越えていく伴走者が必要です。
これから選手のメンタルをサポートしていきたいと考えている方には、ぜひ彼らの「日常」に目を向け、どんな環境で、どんな重圧と戦っているのかを深く理解してほしいと思います。機会があれば積極的に現場へ足を運び、自らの肌で空気を感じてください。そこで得た感覚と、心理学的な根拠に基づいたアプローチを組み合わせることで、あなたのサポートはより確かで、選手にとってかけがえのないものになります。
私もスポーツメンタルコーチとして、見えない重圧の中で戦う選手たちをこれからも全力で支え続けていきます。これから更にスポーツ界が盛り上がり、選手たちが心置きなく最高のパフォーマンスを発揮できる環境が完全に復活することを、心から祈っています。
アスリートの未来を切り拓くために、共に学び、現場の空気を大切にしながら歩んでいきましょう。



