「良い」チームから「勝てる」チームにするには?

長年、スポーツメンタルコーチとしてチームスポーツに携わる中で、日本一を決める大会で優勝するような素晴らしい経験を何度かさせていただきました。メンタルコーチ冥利に尽きる瞬間です。

一方で、大事な試合の決勝で何度も負け続けるという悔しい経験もしてきました。

では、「勝ち切れるチーム」と「そうでないチーム」には、一体どんな差があるのでしょうか? 私なりの考えを綴ってみたいと思います。

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「良いチーム」と「強いチーム」の差

私が初めて日本一を経験させてもらったのは、ある大学の女子チームからのご依頼がきっかけでした。

部員数60名の大所帯。当時のキャプテンとマネージャーさんから連絡をいただいたのですが、当時の私はすでに40名以上の個人サポートを抱え、さらに都立高校のサッカー部や野球部も定期的にサポートしており、超多忙な日々を送っていました。そのため、理由によってはお断りしようかとも考えていたのです。

約束の日、カフェで私を含めた3人で話をしました。キャプテンのYさんは、チームの現状について2時間近くも熱く語ってくれました。実は彼女自身、キャプテンでありながら試合に出られない悔しさを抱えており、話の終盤はずっと涙を流されていました。

それでも、「自分も試合には出たい。でも、それ以上にチームが優勝するために、どうしてもメンタルコーチをお願いしたい」と訴えかけてくれたのです。

これほどの熱意に心を動かされ、期間限定でメンタルコーチを引き受けることに決めました。監督やコーチの皆様の同意を得ることが条件でしたが、そこはスムーズに進み、メンタルの講習を始めることになりました。

「ヌルい」集団から心理的安全性の高いチームへ

事前に話を聞いていたため驚きはしませんでしたが、現場に入るとさまざまな課題が見えてきました。中でも一番気になったのは、選手間の信頼関係が著しく低いという点でした。

私がチームをサポートする際、ひとつの物差しとしているのが「心理的安全性」のマトリックスです。当時の彼女たちは、一見すると仲は良さそうなのですが、本音をぶつけ合えるような関係性ではありませんでした。つまり、厳しく言えばただの「ヌルいチーム」だったのです。

そこで私が最初に着手したのが、お互いが本音で話し合える環境を作ることでした。

集団になると、人はどうしても特定の仲良しグループ(小集団)を作りたがります。そして、いつも同じメンバーで固まってしまう。まずは、その固定化された関係性を壊すことから始めました。

表現としては強烈かもしれませんが、普段まったく話さない者同士でペアを組み、ある課題について意見交換をしてもらうのです。他にも、お互いを深く知るワークなどを通じて、チーム全体の心理的安全性を高めていきました。

孤独なキャプテンと「3連覇」の軌跡

同時に、どうしても個別で手厚くサポートする必要があったのがキャプテンのYさんです。チームで唯一の立場であり、誰よりも孤独な存在。そんな彼女を心理面から支えるのが私の重要な役割でした。

彼女が本当に凄いのは、本気でチームを思い、行動していることが誰の目にも明らかだったことです。出会った時から感じていたその気概は、大事な大会が近づくにつれてさらに凄みを増していきました。

「キャプテンのために勝ちたい」

下級生の口からそんな言葉が出るようになった時、「このチームは大丈夫だ」と確信しました。

数ヶ月後、彼女たちは見事に日本一を掴み取りました。さらに驚くべきことに、その翌年も、翌々年も優勝し、なんと3連覇を成し遂げたのです。

歴史が証明する「摩擦回避」の恐ろしさ

この経験を通じて感じる事があります。それは、本音で話し合える選手が揃ってるチームは「強いチーム」だな、ということです。

「波風を立てず、厳しい現実から目を背けてしまう」という組織の病理。実はこれ、スポーツの世界だけのものではありません。組織論として歴史を紐解くと、国家の命運を分けた戦争の現場でも、全く同じ「ヌルさ」が原因で大敗を喫した有名な事例があります。

それは1942年5月、戦艦「大和」の艦上で行われた「ミッドウェー作戦」の図上演習(シミュレーション)での出来事です。

当時、連戦連勝で過剰な自信に満ちていた旧日本海軍は、作戦の直前に大規模な図上演習を行いました。その際、敵(アメリカ軍)役を担当した優秀な若手将校が、サイコロのルールに則り、見事な戦術で日本の主力空母に9発の爆弾を命中させ、「空母2隻が沈没した」という判定を下しました。

本来であれば、ここで「空母が沈んだ最悪の状況で、どう立て直すか」を必死に議論しなければなりません。しかし、作戦を主導し、審判長を務めていた上層部は、「敵の爆弾がそんなに当たるわけがない」「作戦の進行に支障が出る」という理由で、その不都合な撃沈判定を強引に覆し、沈んだはずの空母を「復活」させて演習を強行したのです。

周囲にいた将校たちも、「作戦にケチをつけるのは空気が悪くなる」「上官の顔に泥を塗ってはいけない」という同調圧力から、誰一人としてこの理不尽な判定に異論を唱えることができませんでした。

激しい議論や摩擦を避け、楽観的なシナリオだけで「まあ、なんとかなるだろう」とヌルい状態で済ませてしまった結果、わずか1ヶ月後の実際の海戦では、演習で指摘された通りの隙を突かれて奇襲を受けます。対処法を一切考えていなかった日本軍はパニックに陥り、主力空母4隻を一挙に失うという歴史的大敗北を喫しました。

兵器の性能や技量の問題ではなく、「厳しい現実に向き合えない組織のヌルさ」が引き起こした人災だったのです。

本当の試練は「負けた後」にやってくる

一方で、スポーツの現場でも「良いチーム」ほど本音を隠して話さない、または大人やスタッフの介入が多く、選手同士が話す機会が奪われてるケースを多く見ます。ミッドウェーの例と同じように、決定的な破綻が起きるまで不都合な真実から目を背けてしまうのです。

そういったチームに携わる時は、今までとは真逆のアプローチをするわけで非常に大変です。しかし、もっとも大事になるのが大きな大会で負けた後です。1番悔しくて、立ち直るのも困難な時に、選手同士が自発的にミーティングを開ける土台作りをしておく必要があります。

それらすべてが、心理的安全性に集約されます。本当の心理的安全性があれば、厳しい意見をぶつけ合っても関係性は壊れないという信頼があるはずだからです。

理論的には伝えられるのですが、チームは個人の集まりです。生身の人間を扱っているからこそ、普段からの観察や細やかなやり取りが必要だなと思います。

軽い気持ちでは引き受けづらいのがチームであり、スキルトレーニングや知識をただ伝えるだけでいいのであれば簡単にサポートできますが、本気で勝利を目指すのであればきめ細やかな配慮が必要な仕事だなと思っています。

とはいっても、やり甲斐や面白さ、同時に辛いときや悲しい時もありますが。チームのメンタルコーチを引き受ける方がいれば、この話が少しでも参考になったら幸いです。

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【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属

プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら

【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから

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