学んだ「知識」で過信?すぐに結果に繋げるスポーツメンタルの極意

知っていると出来ているは紙一重

こんにちは。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。

日々、数多くのトップアスリートや、これからプロを目指す若い選手たちと向き合っています。現代はインターネットやSNSの普及により、トレーニング方法、栄養学、リカバリー術、そして私が専門とする心理的なアプローチに至るまで、ありとあらゆる情報が簡単に手に入る時代になりました。

YouTubeを見れば一流選手のフォーム解説があり、専門書を読めば最新のスポーツ科学の理論を学ぶことができます。向上心の高いアスリートにとって、これほど恵まれた環境はありません。しかし、情報が簡単に手に入る時代だからこそ、多くのアスリートが陥りやすい「見えない罠」が存在しているのも事実です。

今回は、日々厳しいトレーニングに打ち込む皆さんが、インプットした情報をどのようにして自身の圧倒的なパフォーマンスへと昇華させていくべきかについて、心理学的な視点を交えながらお話ししていきたいと思います。

【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属

プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら

【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから

【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

CONTENTS

「知っている」と「出来ている」は紙一重の罠

皆さんは、何か新しい理論や画期的なトレーニング方法の本を読んだ直後に、まるで自分がその技術をマスターしたかのような万能感に包まれた経験はありませんか。

実は、「知っている」ことと、「実際に出来ている」ことの間には、皆さんが想像するよりもはるかに深く、大きな溝が存在します。しかし、人間の脳は非常に錯覚を起こしやすい性質を持っています。知識として頭に入った瞬間に、身体的なスキルやメンタルのコントロール能力までもが向上したと勘違いしてしまうのです。まさに、知っていると出来ているは紙一重の錯覚と言えるでしょう。

心理学において、これを説明する理論の一つに「ダニング=クルーガー効果」というものがあります。これは、ある分野について少しだけ知識を得た初心者が、自分の能力を実際のレベルよりも高く見積もってしまうという認知バイアスの一種です。「なんだ、そういうことか。自分にもできるぞ」と過信してしまう状態ですね。

スポーツの世界において、この過信は非常に危険です。頭で理解した気になっていても、実際の試合における極度のプレッシャーの中で、無意識レベルでその技術や思考法を引き出せるようになるには、途方もない反復練習と実践でのトライアンドエラーが必要不可欠だからです。

知識を得たことに満足せず、それを血肉にするための地道なプロセスを踏めているか。一流の選手は、このギャップを誰よりも理解し、埋める努力を怠りません。

それ過信?学んだことを他人に教えることの落とし穴

本を読んだり、セミナーに参加したりして素晴らしい学びを得たとき、人は無意識に

  • 「この素晴らしい情報をチームメイトにも教えてあげたい」
  • 「後輩の指導に役立てたい」

という衝動に駆られます。

自分が感銘を受けた理論であればあるほど、他人に教えることでその人のパフォーマンスも上がるに違いないと善意で考えてしまうのです。しかし、ここにもう一つの大きな落とし穴があります。

それは、「相手がその情報を今、本当に望んでいるかどうか」という視点が抜け落ちてしまうことです。

心理学には「心理的リアクタンス」という概念があります。人は、自分の行動や思考の自由を他者から制限されたり、何かを一方的に押し付けられたりすると、無意識のうちに強い反発心を抱くという心理メカニズムです。

あなたがどれほど最新で効果的なスポーツ科学の知識やメンタルコントロールの手法を持っていたとしても、相手が悩みを抱えておらず、アドバイスを求めていないタイミングでそれを伝えてしまえば、相手の脳はそれを「有益な情報」ではなく「自由を奪う説教」や「押し付け」として処理してしまいます。

場合によっては、

  • 「理論は立派だけど、お前自身は結果を出しているのか?」
  • 「お前はどうなんだ?」

と、反感を買ってしまうことさえあります。もちろん、相手がまさにスランプに陥っていて、その情報を喉から手が出るほど欲していた場合には、大きな感謝と共に喜ばれることもあるでしょう。しかし、自分が良いと思った情報だからといって、万人が、そしてあらゆるタイミングでそれを求めているとは限らないという事実を、私たちは冷静に認識しておく必要があります。

知識は誰のために、いつ使うべきなのか?

では、時間と労力をかけて得た貴重な知識や学びは、いつ、誰のために使えば良いのでしょうか。

私がアスリートの皆さんに強くお勧めし、私自身も日々実践していることは、「徹底的に自分のためだけに使う」ということです。

新しいトレーニング方法を知ったなら、誰かに語る前にまず自分の身体で試してみる。新しいメンタルコントロールの術を学んだなら、次の試合のプレッシャーがかかる場面で自分自身に適用してみる。無理に知識を見せつけたり、他者を変えようとしたりする必要はありません。

心理学的に見ても、人間の動機づけには「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があります。知識を他人にひけらかして「すごい」と思われたいという承認欲求(外発的)を満たすために使うのではなく、自分自身の技術向上や人間的成長という純粋な喜び(内発的)のために使う方が、長期的に見て圧倒的に高いモチベーションを維持することができ、結果として競技力向上に直結します。

知っているからといって、必ずしもそれを言葉にして伝える必要はないのです。

実践から滲み出るものこそが人を動かす

言葉で相手を説得し、教え込もうとしなくても、あなたがその知識を自分自身のために使い、黙々と実践し、結果を出し続けていれば、必ずそこから「滲み出るもの」があります。

姿勢、表情、試合中の立ち振る舞い、そして何よりも目に見える結果。それらが合わさったとき、周囲の人間はあなたから目を離せなくなります。

心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した「モデリング(観察学習)」という理論があります。人は、他者から直接言葉で教えられなくても、他者の行動やその結果を観察するだけで、新しい行動を学習し、自らを変化させることができるというものです。

あなたが言葉で

  • 「このトレーニングが良いらしいよ」
  • 「こういうメンタルでいくべきだ」

と教えるよりも、あなたが黙々と実践して劇的にパフォーマンスを上げている姿を背中で見せる方が、チームメイトや後輩に何百倍も強烈な影響を与えるのです。彼らが本当にその情報を必要としたとき、自らあなたに「どうやっているのか教えてほしい」と尋ねてくるはずです。その時初めて、あなたの言葉は相手の心に深く響く最高のアドバイスとなります。

まさに「知行合一」。知識と行動は一体であって初めて真の価値を持つという東洋の教えの通りです。

最強のアスリートは「自己省察」ができる

他人に教える前に、まずは自分自身はどうなのか。自分は得た知識を正しく実践できているのか。

自分を客観的に見つめ直し、顧みることができる能力を、心理学用語で「メタ認知」と呼びます。自分の思考や感情、行動を、まるで斜め上からもう一人の自分が見ているかのように客観視する能力です。

試合中に「あ、今自分は焦っているな」と気づくことができる。練習中に「今、自分はインプットばかりでアウトプットが不足しているな」と軌道修正ができる。このメタ認知能力が高く、自分自身を常にセルフ・リフレクション(自己省察)できるアスリートこそが、私が考える「最強のアスリート」です。

知識は、あなたの可能性を広げるための強力な武器です。しかし、その武器を外に向けて振り回すのではなく、まずは自分自身の内面と向き合い、自らを研ぎ澄ますための砥石として使ってください。

「知っている」という段階から、血の滲むような努力の末に「出来ている」という次元へ到達したとき、あなたの見ている景色は間違いなく変わっているはずです。私、鈴木颯人は、そんな本物のアスリートを目指すあなたの挑戦を、心から応援しています。

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