練習しても技術面が伸び悩む…スランプを精神面から乗り越えるメンタル術

フィギアスケートのメンタル
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アスリートが技術の壁を越えるためのメンタルアプローチ

スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。 日々、アスリートの皆さんが最高の結果を生み出し続けられるよう、メンタル面からサポートする仕事をしています。

アスリートであれば誰しも、一生懸命練習しているのに技術面が伸び悩む時期を経験するでしょう。いわゆるスランプやプラトーと呼ばれる状態です。身体的、技術的な限界を感じるかもしれませんが、実はこうした場合、精神面のアプローチが現状打破の大きな鍵を握っていることが多々あります。

先日、とあるフィギュアスケート選手の練習にお邪魔しました。その選手はすでに確かな実績を残しており、ミラノ五輪を目指して日々ストイックに努力を重ねている素晴らしいトップアスリートです。

しかし、これから重要な大会が控えているという大切な時期にもかかわらず、思うように技術が向上せず、深く悩んでいました。

  • 「このままで大丈夫なのだろうか…」
  • 「大会まで、もうあまり時間がない…」

焦りと不安が付きまとう中で、それでも自分を信じてリンクに立ち、必死に努力を積み重ねる姿がそこにはありました。新しい技術に取り組んでいるからこそ訪れる、成長過程における一時的な停滞期、すなわちプラトーなのかもしれません。あるいは、結果が出ないことで自信を失いかけているスランプの状態とも言えます。

いずれにしても、練習でイメージ通りにジャンプが跳べないと、アスリートの精神面にはますます強い焦りや不安が募るものです。そうした状況の中で私に依頼があり、初めて練習を見学させていただくことになりました。

「便利さ」に潜むネガティブな罠

リンクサイドで私が見たのは、熱心にコーチの指示に耳を傾ける選手の姿でした。理想とする選手とコーチの信頼関係が構築されており、一見すると非常に良い練習風景です。見ていて安心した一方で、お二人の会話を聞いているうちに、私はある一つの「もったいない点」に気が付きました。

それが「ビデオの活用方法」です。

お二人は、練習中にこまめにビデオを見ながら、技術レベルについて細かく話し合っていました。現代のスポーツにおいて、スマートフォン一つで簡単に録画し、即座にフィードバックを行うのは非常に一般的で、有効な手段です。しかし、便利で手軽だからこそ、その利便性を「心理学的に効果的な形」で使えていないケースが少なくありません。

そこで私が提案したのが、

「効果的なフィードバックへの視点の転換」です。

例えば、試合や練習で「あと少しで跳べそうなジャンプ」があったとします。しかし、何度やっても同じ失敗を繰り返してしまう。そんな時、多くの選手や指導者は「なぜ跳べないのか?」「どこが間違っていたのか?」と、失敗の原因ばかりを熱心に探そうとします。

もちろん、ミスの原因を分析すること自体は間違っていません。しかし、人間の脳の仕組みや心理学的な観点から見ると、ネガティブな要素にばかりフォーカスすることは大きな危険を伴います。

心理学には「ネガティビティ・バイアス」という言葉があり、人はポジティブな情報よりもネガティブな情報に注意を向けやすく、記憶にも残りやすいという特性があります。

  • 「ここがダメだ」
  • 「こうしてはいけない」

というダメ出しばかりを繰り返すと、脳は無意識のうちに「失敗している自分のイメージ」を強く記憶に定着させてしまいます。

これは「シロクマ効果」と呼ばれる心理現象でも証明されていますが、「失敗しないようにしよう」と考えれば考えるほど、逆に失敗のイメージが脳内を支配し、無意識に筋肉を緊張させ、身体の動きを硬くしてしまうのです。

「原因究明」から「未来の改善」へシフトする

だからこそ私が着目したいのは、「原因の究明」ではなく「未来に向けた改善」です。 「何がダメなのか?」という過去へのダメ出しから、「何をもっと良く出来るか?」という未来に向けた建設的な思考へと切り替えるのです。これを心理学やコーチングの領域では「フィードフォワード」と呼んだりします。

ここで重要になるのが、先ほどのビデオの正しい使い方です。 直前の失敗したビデオだけを見て反省するのではなく、「良い感覚で跳べている時の自分のビデオ」と「現在の自分のビデオ」を比較することが不可欠です。さらに、自分が理想とする「お手本となるトップ選手のビデオ」も見ながら練習してほしいとお伝えしました。

心理学者のアルバート・バンデューラは、他者の行動を観察することで学習が成立する「モデリング(観察学習)」を提唱しています。理想の動きを視覚的に脳へインプットすることで、「自分にもできるかもしれない」という自己効力感(セルフ・エフィカシー)が高まります。自己効力感が高まると、脳がポジティブな状態になり、身体が自然とその正しい動きを再現しようと働き始めるのです。

私が現場で行ったアドバイスは、たったこれだけのことでした。しかし、驚くほどに選手のパフォーマンスは劇的に上がりました。 見るべきポイントが変わったことで、脳が「失敗を避けること」から「成功を再現すること」へと向かい、あっという間に選手がイメージ通りにジャンプを跳べるようになったのです。

本当の振り返りに「勇気」はいらない

スポーツ選手が継続的に成長するためには、自分自身のパフォーマンスを客観的に振り返る作業が絶対に必要です。その振り返りを手伝う手段としてフィードバックが存在します。

もちろん、専門性の高い競技に対して、細かい技術レベルのフィードバックや指導は、私たちスポーツメンタルコーチにはできません。それは技術コーチの専門領域です。しかし、選手自身が「自分自身の思考の癖をフィードバックする」ためのお手伝い、つまり精神面を整えるアプローチは、私たちが提供できる最大の価値だと思っています。

振り返りの際に最も大切なこと。それは、「自分に出来ないこと」を数え上げるのではなく、「出来るようになるためにはどうしたらいいか?」を考え抜くことです。

多くの選手が、本当はポジティブに成長したいと願っているのに、気付いたら自分への「ダメ出し」ばかりになっています。そして、ダメ出しをして自分が傷つくのが怖いからこそ、失敗した試合や練習のビデオを見なくなるアスリートが多いのも、心理学的に見れば深く頷ける話です。防衛本能が働き、精神面を守ろうとしているからです。

しかし、それは「自分を守るための逃げ」ではなく、単に「正しい振り返りの見方を知らないだけ」なのです。 正しく成長する方法、脳がポジティブに働くフィードバックの視点を知っていれば、結果の良し悪しに関わらず、過度に傷つくことなく冷静に自分を振り返ることができます。

  • 「負けた試合を振り返る勇気が持てない」
  • 「失敗したビデオを見るのが辛い」

私の元には、そんな相談も数多く寄せられます。しかし、本当の振り返りに特別な勇気はいらないのです。失敗を直視する勇気よりも、

自分が

  • 「これからどうなりたいのか」
  • 「何のためにこの厳しいスポーツをしているのか」

という、もっともっと大きくて大切な「成長していく目的」を見失わなければ、自然と振り返りは出来るようになります。

スランプやプラトーに陥り、技術面が伸び悩む時。それは精神面がさらなる成長を求めている重要なサインでもあります。 心がきつくてたまらない時こそ、ご自身がスポーツに取り組む原点、そして未来の目的を思い出してみてください。視点を少し未来へとずらすだけで、あなたのパフォーマンスは必ずまた輝き始めます。私も全力で応援しています。

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