高い目標と現実のギャップに苦しむアスリートたち
- 「プロ野球選手になって活躍する」
- 「日本代表として世界大会に選ばれる」
- 「世界の舞台でメダルを取る!」
スポーツに取り組むアスリートであれば、誰もが一度はこのような大きく輝かしい目標を胸に抱いたことがあるはずです。しかし、日々の厳しい練習に耐え、己の限界に挑み続けているにもかかわらず、未だにその目標を達成できずに苦しんでいる人が大勢いるのもまた事実です。
現実は、私たちが思い描く理想のストーリー通りには進んでくれません。
- 「度重なる怪我で練習すら満足にできない・・・」
- 「必死に努力しているのに、試合で結果が出ない日々が続く・・・」
- 「調子が良かった前年よりも、明らかにパフォーマンスも結果も落としてしまった・・・」
このような逆境に直面したとき、強い気持ちを保ちたくても、どうしても保てなくなってしまう瞬間があると思います。
- 「このまま私はこの競技を続けていていいのだろうか?」
- 「あんなに練習しているのに、どうして結果が出ないのか?」
- 「周りのライバルたちは成長しているのに、どうして自分だけ上達しないのか?」
そんなネガティブな自問自答が、夜眠る前や練習のふとした瞬間に、頭の中を駆け巡っている選手も少なくないでしょう。だからこそ、頭の中を支配するネガティブな気持ちをなくしたい。その上で、本来の大きな目標に向かってモチベーションを保ちたい、ブレないメンタルを手に入れたいと願うアスリートが非常に多いのだと、日々のコーチングを通じて感じています。
ではなぜ、これほどまでに
- 「モチベーションを保ちたい」
- 「やる気を出して頑張りたい」
と強く思いながらも、多くの選手はモチベーションを維持することができないのでしょうか?スポーツメンタルコーチとして、年間で1000人以上のアスリートと接する中で、モチベーションを高められない人たちには「ある共通した特徴」があることが分かってきました。
本日は、私が実際にサポートをおこなった、ある卓球選手の事例と、心理学的な根拠を交えながら、その真実をご紹介できればと思います。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

なぜモチベーションは低下するのか?陥りやすい「行動の罠」
私がサポートをしたある卓球選手は、一時期、試合で全く勝ち続けることができず、どん底の状態にありました。
試合に出ても結果が出ない。負けが続くから、気持ちが上がらない。メンタルが落ち込んでいるから、日々の練習に向かうやる気すら起きず、練習場に行くことすらためらってしまう状況でした。
このような負のスパイラルに陥っている選手たちを観察していると、ある一つの明確な特徴が浮かび上がってきます。それは、「行動するまでに圧倒的に時間がかかること」です。
モチベーションが低くなっている人は、頭の中では立派な目標を立てていても、実際の行動に全く移せていないことが多々あります。
たとえば、
- 「ノートに明確な目標まで立てたけど、そこから全く行動していない・・・」
- 「頭ではやらなきゃいけないと分かって行動しようとするけれど、いつも言い訳ばかりを探してしまう・・・」
- 「本を読んだり動画を見たりして、知識として知っている事は多いのに、実際に自分の身体を動かしてやっている事が極端に少ない・・・」
このような状態が続くと、心理的にも大きなダメージを受け始めます。頭では「やらなければならない」と分かっているのに、実際には行動できていない自分自身がどんどん嫌になり、自己嫌悪に陥ってしまう傾向があるのです。これでは、自分が思い描いた夢や目標に近づいている実感など、到底持てるはずがありませんよね。
実は、心理学的に見ても、自分が立てた高すぎる目標や大きすぎる期待が、かえって自分自身を苦しめる原因になることが分かっています。心理学には「学習性無力感」という言葉がありますが、これは長期にわたってストレス、この場合は「結果が出ない」「目標に届かない」という挫折感に晒され続けると、「何をしても無駄だ」と脳が学習してしまい、自発的な行動を起こす意欲そのものが失われてしまう状態を指します。
大きすぎる目標だけを見つめ、現在地とのギャップに打ちのめされ続けると、この学習性無力感に似た状態に陥り、スポーツへの情熱ややる気を根こそぎ奪われてしまうのです。
「やる気」の正体は脳科学と心理学が証明している
では、どんな状況でもモチベーションを高く保ち、結果を出し続けているトップアスリートたちは、一体どのような特徴を持っているのでしょうか?強靭なメンタルを持っているからでしょうか?
答えは非常にシンプルです。 彼らは、「思い立ったら即行動!」を徹底している人たちなのです。
ここで、多くのアスリートが勘違いしている決定的な事実をお伝えします。多くの人は、「モチベーションが高まったから、行動できる(練習できる)」と思っています。つまり、「やる気」という感情が先にあって、その後に「行動」がついてくると信じているのです。
しかし、心理学や脳科学の世界では、これは完全に逆だと証明されています。 正しくは、「行動するから、モチベーションが上がる」のです。
ドイツの精神科医エミール・クレペリンは、この現象を「作業興奮」と名付けました。人間の脳は、実際に身体を動かして作業・行動を始めることで、脳の側坐核という部分が刺激されます。この側坐核が刺激されると、ドーパミンと呼ばれる意欲や快感を生み出す脳内ホルモンが分泌され、そこで初めて「やる気」や「モチベーション」が湧き上がってくるメカニズムになっているのです。
つまり、部屋でじっと座って「やる気が出ないかな」と待っていても、一生モチベーションは上がりません。ウェアに着替える、シューズの紐を結ぶ、まずはグラウンドに出る、ラケットを握る。そうした具体的な「行動」を起こすことでしか、モチベーションを高めるスイッチを入れることはできないのです。
小さな成功体験が最強のメンタルを創り出す
この「作業興奮」のメカニズムを活かし、先ほどの卓球選手に行動を起こしてもらうために、私はある提案をしました。それは、「小さな目標を達成する」ことを何よりも大切にしてもらうことです。
心理学ではこれを「スモールステップの原理」と呼びます。最終的な大きな目標に向かう道のりを、極めて細かく小さな階段・ステップに分割し、一つずつ確実にクリアしていくアプローチです。
この卓球選手も、最初の頃は「全国大会で優勝する」「次の大会で全勝する」といった大きな目標ばかりを立ててしまい、それが達成できない日々に苦しんでいました。アスリートは総じて意識が高いからこそ、無意識のうちに目標を高く設定してしまうんですよね。その高い志や気持ち自体は決して悪いことではありません。
しかし、高い目標を達成するためには、例えば、「今日は素振りを50回だけ必ずやる」「試合の動画を10分だけ分析する」など足元にある極めて小さな目標を確実にクリアしていく堅実さも兼ね備えておく必要があるのです。
小さな目標を達成すると、脳は「自分はできた!」という達成感を感じます。これを心理学では「自己効力感(自分ならできるという自信)」と呼びますが、この自己効力感が高まることで、さらに次の行動への意欲が湧いてくるのです。
行動できるからこそ、そんな頑張っている自分が好きになる。 そして、行動し続けるからこそ、技術が向上し、結果も必ず後から得られる。
そんないい循環(ポジティブ・スパイラル)を、日々の小さな行動の積み重ねによって自分で作り出しているのが、常にモチベーションが高いと言われるトップアスリートたちの正体なのです。
今日から始める「即行動」の習慣
逆に、モチベーションが低いと悩んでいる人のサイクルをもう一度振り返ってみましょう。
行動しないから、脳が刺激されずモチベーションが下がる。 行動できていない怠惰な自分が嫌いになる。 そして、行動しないから当然スポーツの技術も上がらず、結果も出ない。
これらは生まれ持った才能の差などではなく、脳の仕組みと行動パターンの「単純な差」に過ぎないのだと私は思います。ただ、多くの選手はそれに気づいていないだけなんです。むしろ、「今はモチベーションが低い状態だから、行動できないんだ」と、思い込んでいるだけなんですよね。
もしあなたが今、思うような結果が出ず、前に進む気力を失いかけているのなら。 スポーツの世界で、自分の限界を突破し、理想の自分に出会いたいと強く願うのなら。
ぜひ、今日からこの言葉を合言葉にしてみてください。
どんなに小さな一歩でも構いません。ストレッチを1分するだけでも、道具の手入れをするだけでもいいのです。その小さな行動が必ずあなたのメンタルに火をつけ、大きな夢へとつながる原動力になります。あなたの挑戦を、心から応援しています^^




