対面の時間を大切にするのがスポーツメンタルコーチ
長くこの活動をしていると、時に素敵な偶然が起きます。 アスリートの心をメンタル面からサポートする、スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
先日、知り合いと一緒に神奈川県の辻堂へ焚き火をしに訪れた時のことです。かれこれ2年前に約束した焚き火の会が、やっと実現しました。当日は場所の選定から焚き火台の用意まで色々と準備してくれていて、本当に嬉しかったです。私自身キャンプによく行くので、新たな焚き火スポットを見つけられて非常にハッピーな時間でした。
そして、そんな1日の終わりに驚くべき偶然がありました。なんと近くに実家があるアスリートから突然連絡があったのです。神奈川県も広いですが、まさか一時帰国中のタイミングでこんな近くにいるとは思わず、すぐにお会いしてきました。
焚き火の余韻が残る中、競技のこと、将来のこと、さらにはパリオリンピックに向けた想いなど、時間を忘れてジックリとお話を伺うことができました。
長年、スポーツメンタルコーチとして活動していると、こういった偶然が重なることが多々あります。共通の知り合いがいてあっという間に仲良くなったり、遠征先でたまたまお会いして意気投合したり。ほんのわずかな時間であっても、やはり直接お会いしてお話しすることでしか分からない、言葉以上の「何か」があるのです。
オンライン全盛期の現代において、リモートでいつでも繋がれるのは素晴らしいことです。しかし、だからこそ私は、こうしたアナログな繋がりやリアルの場が持つ価値を強く感じる日々を送っています。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

なぜ人の心はデジタル回線で伝わりきらないのか?
「古い人間だ」と言われるかもしれませんが、人のメンタルという深く繊細な領域は、デジタル回線だけでは到底伝わりきらないと痛感しています。これには、明確な心理学的な理由が存在します。
心理学において有名な「メラビアンの法則」によれば、人がコミュニケーションにおいて受け取る情報のうち、言語情報である話の内容はわずか7%であり、残りの93%は視覚情報である表情や仕草や、聴覚情報である声のトーンやテンポなどの非言語情報から得ているとされています。画面越しでは、画角の外にある手足の微細な動き、全身から発せられる緊張感、そして同じ空間を共有しているからこそ感じ取れる「空気感」といった重要な非言語情報が大幅に削ぎ落とされてしまうのです。
また、脳科学・心理学の領域では、他者の行動や感情を見聞きした際に、まるで自分が同じ体験をしているかのように反応する「ミラーニューロン」という神経細胞の存在が知られています。対面で同じ空間を共有することで、このミラーニューロンが強く働き、無意識レベルでの深い共感や、強固な信頼関係を築きやすくなります。
どうしても場所や時間の制約がある場合はオンラインを活用しますが、できる限り契約選手とは対面でお会いしたいというのが私の理想です。それだけ、直接選手から伝わってくるものは圧倒的に違います。そこには画面越しでは得られない、息を呑むような迫力、臨場感、そしてリアリティーがあるのです。
スポーツ現場におけるメンタルコーチングの真の役割
そもそも、なぜアスリートにとってメンタルコーチングが必要なのでしょうか。その理由は年々広く認知されてきています。
- パフォーマンスの圧倒的な向上
心理状態が安定していると、本番の試合や厳しい練習において「ゾーン」と呼ばれるような最高のパフォーマンスを発揮しやすくなります。逆に不安やプレッシャーに飲まれると、認知の視野が狭くなり、普段なら絶対にしないようなミスを犯してしまいます。 - 過酷なストレスの適切な管理
スポーツの世界は常に勝敗や怪我のリスクと隣り合わせであり、過度なストレスがかかります。コーチングを通じて、アスリートは自らの感情を客観視し、プレッシャーをエネルギーへと変換するストレス対処のコーピングの技術を学びます。 - 目標設定と自己効力感の醸成
適切な目標設定はモチベーションの源泉です。心理学者バンデューラが提唱した「自己効力感」をコーチと共に高めていくことで、どんな困難なステップでも力強く踏み出すことができます。
これはトップアスリートに限った話ではなく、中高生の部活動においても非常に有効です。チーム全体の心理的安全性が高まることでコミュニケーションが活性化し、結束力が向上します。また、個々の部員が自己理解を深めることで、自発的に成長する強いチームへと進化していくのです。
オンライン完結の弊害と、失われる「余白」の心理学
場所と時間の制約がなくなるリモート環境は一見するとメリットばかりに思えますが、メンタルを扱う上では以下のような大きな弊害も存在します。
まず、強固な信頼関係の構築が圧倒的に難しい点です。画面を通したコミュニケーションでは、どうしても互いの間に物理的・心理的なフィルターがかかり、アスリートが心の奥底にある本当の弱みを開示しにくくなります。
次に、環境による集中力の低下です。オンライン環境では、自宅の自室などリラックスしすぎる空間で行うことが多く、家族の生活音が聞こえたり、スマートフォンの通知が目に入ったりと、自分自身の内面と深く向き合うための「非日常的な没入感」を作り出すことが困難です。技術的な接続不良などが起きれば、せっかく思考が深まっていたタイミングが台無しになるリスクも孕んでいます。
そして何より大きいのが「偶然の喪失」です。直接会っていれば、セッションが終わった後の帰り際の雑談や、ふと立ち寄ったカフェでの何気ない会話が生まれます。実は心理療法やカウンセリングの世界でも、ドアノブに手をかけた瞬間に本音をこぼす「ドアノブ・セラピー」と呼ばれる現象があるように、本題から外れた余白の時間にこそ、選手が本当に抱えている悩みのヒントが隠されていることが多いのです。
選手のメンタルを支えたいと願う、未来のサポーターへ
最近では「コロナ世代」という言葉もあるように、オンラインでの生活にすっかり慣れきってしまい、リアルな場での他者との距離感やコミュニケーションの取り方に戸惑う人が増えていると言われています。
スポーツメンタルの分野でも、オンラインだけで完結するスクール、講座、セミナーが増えました。コーチングにおいてもオンラインで完結するコーチ・指導者が増えてきました。しかし、学ぶ目的は「受講者自身が効率よく知識を得て満足すること」ではないはずです。その学びの先には、あなたが本気で支えたいと願う、血の通った生身のアスリートがいるはずです。
だとしたら、サポーターを目指すあなた自身が、直接人と会うことのエネルギーや、他者の人生の重みを肌で感じる「本物の時間」を経験しておく必要があると私は強く思います。受講者同士が同じ空間で熱気を感じ合い、講師のリアルな息遣いや情熱に触れることで得られる気付きは、画面越しに得る情報の何倍もの価値を持っています。
講演やチームサポートを検討されている方へ
もし、学校やチームのために講演依頼を検討されている場合は、ぜひ「現場の空気」を大切にしてくれる講演者を選んでください。
実績や口コミの確認はもちろん大切ですが、最初からパッケージ化された決まりきったテーマしか話せない講師よりも、事前の打ち合わせの段階から現場の指導者や選手の悩みに寄り添い、現状を深くヒアリングしてくれる講師を選ぶことが成功の鍵です。参加者の現在の心理状態に合わせた実践的なアドバイスが盛り込まれることで、初めてその講演は血の通った価値あるものになります。
直接人と会うこと、同じ空間を共有すること。
そこには、信頼関係の構築、微細な非言語情報のキャッチ、そして心を動かす圧倒的な熱量など、計り知れないメリットが存在します。
アスリートにとって、メンタルコーチングはパフォーマンスを引き出し、厳しい世界を生き抜くための強力な武器になります。だからこそ、表面的な効率化にとらわれず、人と人が向き合う生身の繋がりを大切にしなければなりません。これから誰かのメンタルを良くしたい、深く支えたいと願う方は、ぜひ「直接会うこと」が持つ本当の力を、あなた自身で体感し、探求し続けてみてください。



