アスリートの心を救う。私がスポーツ領域でメンタルコーチングの後任育成に力を入れる理由

アスリートの望む結果をメンタル面からサポートするスポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。

2013年ごろから、私は自分自身の活動と並行して後任育成に力を入れてきました。「One athlete, One mental coach 1人のアスリートに、1人のメンタルコーチを」という協会のビジョンを掲げ、今日まで走り続けています。

日々の活動の中で、「世界チャンピオンやオリンピック選手、さらにはプロ野球選手を何人も生み出してきたのだから、現場を離れて講師業に専念するのが一般的ではないか」「なぜスポーツメンタルコーチとして現場に出ながら、後任育成のための活動を続けるのか」といったご質問を頂くことがあります。

たしかに、監督が自ら選手としてプレーしたり、先生が生徒を兼任しているような状況に近いのかもしれません。以前、ビジネスの世界でもプレイングマネージャーという言葉が流行りましたが、両立させることは決して簡単なことではないからこそ、通常であればどちらか一方の役割に振り切るのが大切なのだと思います。

しかし、私はアスリートたちが心の奥底で求めているニーズや、時代とともに変化するプレッシャーの質をいち早く感じ取るために、常に第一線で戦う現役アスリートと時間を共有することが必要不可欠だと思っています。現場の空気を吸い、彼らの息遣いを感じてこそ、本物のサポートができると信じているため、今なおスポーツメンタルコーチとして現役を続けているのです。

現場と講座を掛け持ち、最前線で得た生きた知見を講座で伝える。その結果として、アスリートのパフォーマンス向上にも、資格講座で学ぶ受講生の成長にも、非常に良い循環を作ることが出来ていると実感しています。

私がこのスポーツメンタルコーチングという道を切り拓いた原点には、ある強い思いがありました。それは、アスリート自身の発する言葉や、彼らの周りにいる指導者や保護者など、周囲の人の言葉によってメンタル面に深い不安を抱えてしまっている人を支えたいという思いです。

スポーツの現場では、厳しい指導やプレッシャーから自信を喪失してしまう選手が後を絶ちません。心理学的な観点から言えば、パフォーマンスを発揮するためには「自分ならできる」という自己効力感や、失敗しても受け入れてもらえるという心理的安全性が非常に重要になります。心が萎縮してしまえば、どんなに素晴らしい身体能力や技術を持っていても、試合本番でそれを発揮することはできません。

だからこそ、私は上から目線で「メンタルを教える」というティーチングのスタンスではなく、彼らの内面にある不安や葛藤をありのままに受け止め、共感する「メンタルに寄り添う」ことを何よりも大切にしたいと思っています。心理学者のカール・ロジャーズが提唱した来談者中心療法にも通じますが、指示をするのではなく徹底的に寄り添い、アスリート自身が自らの内なる力で答えに気づくプロセスを伴走することが、結果的に最強のメンタルを作り上げるのです。

このような信念を貫き、一人ひとりのアスリートと本気で向き合ってきた結果、有難いことに多い年には年間契約を50名と結ぶほど、多くのアスリートに支持していただくことができました。なかには、沖縄や福岡、北海道など、遠く離れた場所からわざわざ飛行機に乗って東京の私の元まで来てくれる方もいらっしゃいました。彼らのスポーツにかける情熱と覚悟に触れるたび、私も持てるすべての力を注ぎ込んでサポートしてきました。

しかし、正直なところを申し上げますと、これ以上はもう1人もアスリートを抱えられないというくらい、毎日が限界ギリギリの忙しい日々でした。朝から晩までセッションが続き、自分自身の体力や集中力、パフォーマンス、さらには大切な家族との時間さえもすり減らしている状態でした。

もちろん、自分自身が心の底からやりたいと願った仕事ですから、自分が疲労するだけならそれでもいいのかもしれません。しかし、私が無理をして体調を崩したり、万全のパフォーマンスでセッションに臨めなくなったりして一番迷惑をかけてしまうのは、他でもない、私が全力で支えたいと願っている目の前のアスリートたちだという事実に気付きました。

だからこそ、私は勇気を持って、自分が担当する年間契約者の数を絞るという決断をしました。しかしその結果として、今度は目の前にメンタルで困っているアスリートがいるのに、サポートをお断りしなければならないという残酷な現実に頭を悩ませることになりました。

自分という人間一人だけにアスリートが集中してしまう状況は、スポーツ界全体を見渡したとき、本当の意味でアスリートのためになっていない。救いを求めている手を振り払わなければならない現実に、何度も心が張り裂けるような思いをしました。

そこで私は、自分が担当できない選手たちを安心して任せられる、信頼できるメンタルコーチが他にいないかと探してみました。しかし、見えてきたのは理想とは程遠い現実でした。

心理学や脳科学の知識だけを一方的に伝えているような人。マニュアル通りにメンタルトレーニングのワークだけをこなしているような人。本当にアスリートの心に寄り添い、苦しい時も共に伴走してくれるような真の理解者は、果たして存在しているのか。理想のコーチ像を探し求めれば求めるほど、私の心の中にある強い想いが芽生えてきました。

それが、「スポーツメンタルコーチを自らの手で増やすこと」でした。

つまり、私がいなくてもアスリートが救われるように、私の「寄り添う」という想いとスキルを継承してくれる後任育成に力を入れることにしたのです。知識を伝えるだけのトップダウン式な指導者や、従来のメンタルトレーナーのような役割ではなく、徹底的に選手の心に寄り添う在り方を追求した、私なりのスポーツメンタルコーチングの理想を体系化し、作り上げました。

バスケットボールの神様と呼ばれたマイケル・ジョーダンは、「才能で試合に勝つことはできる。だが、チームワークと知性(メンタル)がチャンピオンシップを勝ち取るんだ」という言葉を残しています。トップレベルになればなるほど、勝敗を分けるのは強靭でありながらもしなやかなメンタルです。その大切なメンタルを預かるにふさわしい人材を育てるため、私は資格講座を開催し、自信を持ってアスリートにご紹介できるメンタルコーチを少しずつ増やすことができるようになりました。

この後任育成の取り組みによって、サポートを受けられるようになったアスリートは喜び、また資格を取得してファーストクライアントの紹介を通じて経験を積むことができた受講生からも喜んでもらえるという、素晴らしい好循環が生まれました。

今振り返ってみると、思い切った決断だったなと思います。私がこの後任育成を本格的に決意した当時、私はまだ30歳でした。自分自身がもっと現場で研鑽と経験を積むべき時期ではないかと悩んだこともありました。

しかし、私がサポートしていた大学生がプロ野球のドラフト会議で指名されたり、世界大会で優勝して金メダルを手にする選手が立て続けに現れたりしたことで、私のメソッドと在り方が間違っていないことが証明されました。そして、これからはスポーツメンタルコーチの次の世代を育成し、継承していくことが何よりも大事なのだと、力強く気持ちを切り替えることができたのです。

もし自分自身の利益や名誉といった、自分だけの目線で考えていれば、わざわざ時間と労力をかけて資格講座などやる必要はありませんでした。けれども、当時まだ日本にスポーツメンタルコーチとして名乗る人がほとんどいない中で、アスリートのメンタルを支えるために本当に必要なことは何かを真剣に追求した結果、やはり同じ志を持つ仲間を増やしていくことが日本のスポーツ界にとって大事だと心から思えたのです。

「One athlete, One mental coach 1人のアスリートに、1人のメンタルコーチを」

すべてのスポーツ選手が、自分専用の心の拠り所を持てる世界。この理想の世界を現実のものとするためにも、私はこれからもアスリートと共に現場に立ち続けながら、後任育成のための資格講座を開催し続けていきたいと思っています。

最後までお読みいただき、本当に有難う御座いました。

【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属

プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら

【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから

【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

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