こんにちは、スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
日々、プロからアマチュアまで数多くのアスリートと向き合い、彼らの心とパフォーマンスをつなぐサポートをしています。このコラムを読んでくださっている皆さんも、同じようにアスリートのサポートに情熱を注ぐスポーツメンタルコーチ、あるいはこれからその道を志す方々だと思います。
私たちが日々行っているコーチングやカウンセリングのセッションは、アスリートが抱える課題を紐解き、目標に向けたマインドセットを構築するための非常に重要な時間です。しかし、セッションルームやオンラインの画面越しで対話をしているだけでは、どうしても見えてこない「真実」があります。
それが、今回のテーマである「見てないことは語れない」という絶対的な事実です。
結論から申し上げます。スポーツのメンタルサポートにおいて、現場での試合視察は決して省くことのできない最重要プロセスであり、それがアスリートの結果に直結します。今回は、なぜスポーツメンタルコーチにとって試合視察がそれほどまでに重要なのか、そして現場で何を読み取り、どのように結果へと結びつけていくべきなのかを、私の実体験と信念を交えて詳しくお伝えしていきます。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

1. 対話だけでは見抜けない「言葉」と「事実」のギャップ
アスリートとの1対1のセッションは、彼らの内面を知るための大切な入り口です。しかし、選手が言葉で語る「試合での自分」と、実際の「試合での自分」が完全に一致していることは稀です。
例えば、「試合になると極度に緊張してしまい、体が動かなくなるんです」と語る選手がいたとします。セッションルームでの対話だけを聞いていれば、「過度なプレッシャーに対するリラクゼーション技法や、フォーカスを整えるメンタルトレーニングが必要だ」と判断するでしょう。
しかし、実際に試合視察に行ってみると、全く違う事実が浮かび上がることがあります。
現場でその選手の動きを観察していると、実は「緊張して動けない」のではなく、「チームメイトのミスをカバーしようと周囲ばかりを見てしまい、自分のプレーに集中できていない」というケースがあるのです。選手本人は、その状態を「緊張」という言葉でしか表現できていなかっただけなのです。
もし、この状況を現場で見ずに、言葉通り「緊張をほぐすアプローチ」だけを続けていたらどうなるでしょうか? 根本的な原因にアプローチできていないため、当然ながら結果は変わりません。
「見てないことは語れない」。選手が自己認識できている世界には限界があり、無意識の癖や環境要因は、私たちスポーツメンタルコーチが第三者の専門的な目で直接見て初めて見抜けるものなのです。
2. 現場の「空気」と「文脈」がメンタルに与える影響
スポーツの現場には、目には見えない独特の「空気感」が存在します。スタジアムの歓声、天候、ピッチのコンディション、審判の傾向、そして対戦相手の威圧感。これらはすべて、アスリートのメンタルに多大な影響を及ぼします。
さらに重要なのは、チーム内の「文脈」です。監督がどのように指示を出しているのか、ベンチからの声かけはポジティブなのかネガティブなのか、選手同士のコミュニケーションは円滑か。こうした外部環境のストレス要因は、面談室で聞く話だけでは正確に把握できません。
試合視察を通じて、選手がどのような環境下でプレーしているのかを肌で感じることで、初めて「なぜそのメンタル状態に陥るのか」の背景が見えてきます。
例えば、ミスをした直後に選手がベンチをチラッと見る癖があることに気づいたとします。それは、監督の評価を過度に気にしてプレーしている証拠かもしれません。こうした些細な視線や振る舞いなどの非言語の情報は、現場に足を運ばなければ絶対に拾うことのできない宝のような情報です。現場を知っているからこそ、アスリートの心に本当に響く言葉をかけることができ、それが望む結果を引き寄せるのです。
3. スポーツメンタルコーチが試合視察で見るべき3つのポイント
では、実際に試合視察に行く際、私たちは何に注目すべきでしょうか。ただ試合を楽しむ観客になってしまっては意味がありません。プロのスポーツメンタルコーチとして、私は常に以下の3つのポイントを徹底的に観察しています。
① ウォームアップ時の表情とルーティン
試合はホイッスルが鳴った瞬間から始まるわけではありません。会場入りした時の表情、チームメイトとの接し方、そしてウォームアップ中の顔つきや行動のペース。普段の練習時や、調子が良い時のルーティンと比べて、どこか違う部分はないか。焦りや過剰な興奮、あるいはエネルギーの低下が見られないかを確認します。試合前の状態が、その後のメンタルとパフォーマンスの波を予測する大きなヒントになります。
② ミスした直後の「リカバリー行動」
誰でもミスはします。重要なのは、ミスをした直後の振る舞いです。天を仰ぐのか、下を向くのか、すぐに切り替えて次のプレーの準備に入るのか。あるいは、味方に八つ当たりするような素振りを見せるのか。困難な状況に直面した時の瞬時のリアクションにこそ、その選手の素のメンタルが如実に表れます。ここを観察することで、その選手のレジリエンス(回復力)の現状を正確に評価できます。
③ プレー以外の時間(オフ・ザ・ピッチ)の態度
交代でベンチに下がった後や、ハーフタイム中の態度も重要な観察対象です。自分が試合に出ていない時に、チームのために声を出せるか。自分のふがいなさに落ち込んで殻に閉じこもっていないか。スポーツというチームダイナミクスの中で、その選手がどういう存在として振る舞っているかを見ることは、個人の結果だけでなく、人間的成長をサポートする上でも欠かせません。
4. 現場に基づくフィードバックが圧倒的な「結果」を生む
試合視察を終えた後のセッションは、その深さが全く違います。なぜなら、コーチ側の言葉に「揺るぎない事実に基づいた説得力」が宿るからです。
「この前の試合の前半20分、ミスした後に一瞬足が止まったよね。あの時、頭の中でどんな言葉がよぎっていた?」
このように、具体的な場面をピンポイントで指摘し、その時の感情や思考を引き出すアプローチは、現場を見ていなければ絶対に不可能です。選手側も「自分のことをそこまで真剣に見てくれているんだ」と強く感じ、コーチに対する信頼感(ラポール)が飛躍的に高まります。
アスリートは、口先だけの理解者を求めているわけではありません。自分の戦っている泥臭い現場を共有し、共に戦ってくれる伴走者を求めているのです。
事実に基づいた緻密なフィードバックは、選手の自己認識を強烈にアップデートさせます。気づいていなかった自分の弱点や無意識の癖を直視させ、次なる明確な課題を設定する。この一連の流れが、スポーツの現場において目に見える結果(パフォーマンスの向上、勝利、自己ベストの更新など)を生み出す最大の原動力となります。
5. アスリートの人生に責任を持つということ
最後に、スポーツメンタルコーチとしての在り方についてお話しさせてください。
「見てないことは語れない」。この言葉は、裏を返せば「語るからには、すべてを見る覚悟を持て」ということです。
休日の時間を削り、遠方の試合会場まで足を運び、炎天下や極寒の中で何時間も選手の動きを見つめ続ける。それは決して楽な仕事ではありません。移動費や時間がかかり、効率だけを考えれば割に合わないと感じる人もいるかもしれません。
しかし、アスリートたちは自分の人生を懸けて競技に向き合っています。彼らの人生の貴重な一部に介入し、メンタルという極めてデリケートかつ重要な部分を預かるプロフェッショナルである以上、現場に赴く労力を惜しんではなりません。
現場で共に喜び、共に悔しがり、泥臭く真実を拾い集める。その積み重ねが、スポーツメンタルコーチとしてのあなたの直感を磨き、アスリートを真の結果へと導く力を育ててくれます。
もしあなたが、選手の成長が停滞していると感じていたり、アプローチに行き詰まりを感じているのであれば、迷わず現場へ足を運んでください。答えはいつだって、面談室ではなく現場に落ちています。
共に、アスリートの未来を切り拓く本物のサポートを追求していきましょう。



