アスリートの成長力を飛躍させる「知る」と「出来る」の壁とは?
こんにちは、スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
私は年間を通して30回ほど、全国各地のセミナーや講義、講演会に登壇しています。地方の学校やスポーツチームに直接出向き、日々限界に挑むアスリートたちに向けて、心と体の関係性や、目標達成に向けた心の鍛え方についてお話しさせていただくのが私の主な活動です。
現場で多くのアスリートにお会いすると、誰もが共通して熱い思いを抱いていることがわかります。
- 「レギュラーになって試合に出れるようになりたい」
- 「大事な試合で最高のパフォーマンスを発揮して活躍できるようになりたい」
という思いです。その根本にあるのは、「今よりもっと上手くなりたい」という、アスリートとして非常に純粋な欲求に他なりません。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

「センス」の正体と、最短距離で上達したいという葛藤
スポーツにおいて、自分が目指している技術をいかに早く習得できるかどうかが、結果を出すための大きなキーポイントになります。一般的に、この技術習得が早い状態、つまり新しい動きや理論をスムーズに体現できる状態を、人は「センスがある」と表現します。
センスとは、指導者から一度教えられたことや、自分が見て学んだことを、いとも簡単に無意識レベルで実行できてしまう状態を指します。もし簡単に技術を吸収し実践することができれば、もっともっと色々な高度な技術を上達させていくことが可能になります。そうなれれば、当初は遠く感じていた叶えたい夢や高い目標だって、気付いた頃には手の届く現実的なものになっていくでしょう。
しかし、現実は決してそう簡単なものではありません。日々の過酷な練習を積み重ねてみても、すぐには上達の兆しが見えないのがスポーツの常です。1回だけ奇跡的に上手く出来たとしても、2回目、3回目と同じクオリティで再現できるとは限りません。だからこそ、本物の技術の習得というのは、非常に泥臭く、果てしない根気がいる作業なのです。
改めて「技術の習得」というプロセスを考えると、それは「意識してできること」を「無意識でも完璧にできる状態」へと昇華させることだと言えます。そして、この状態を作り上げる上で、すべてのアスリートがしっかりと理解しておかなければならない「ある法則」が存在します。
知識の罠に陥った名門野球選手の事例
ここで、私が以前サポートしていた、ある選手の事例をご紹介したいと思います。その選手は野球をしており、高校、大学と誰もが知る名門校でプレーしてきたエリートでした。客観的に見ても非常に上手な選手であったことは間違いありません。しかし、彼はある時期から深いスランプに陥り、完全に伸び悩んでいる状態にありました。
彼の大きな特徴であり、同時にネックとなっていたのは、「知識が非常に豊富である」ということでした。彼は並外れた向上心を持っており、最先端の打撃理論や投球フォームの技術を、動画サイトや専門書籍から四六時中学ぶような熱心な選手でした。
だからこそ、私がメンタルの話をしても、あるいは現場のコーチや周りの人間が技術的なアドバイスをしたとしても、
- 「ああ、それ知っています」
- 「その理論はこういうことですよね」
と、すぐに返答ができる状態でした。まさに「何でも知っている」のです。
もちろん、現代のスポーツにおいて知識が豊富であることに越したことはありません。無知であるよりも、体の構造や最新の理論を知っている方がはるかに有利に働く場面も多いでしょう。しかし、彼には1つ、アスリートとして非常に残酷で大きな悩みを抱えていました。
どれだけ素晴らしい知識を頭に詰め込んでいても、それを自分の技術として筋肉や神経の動きに落とし込み、習得することが出来ずに深く悩んでいたのです。実は現代のスポーツ界において、彼に限らずこのような状態に陥っている選手は非常に多いのではないのでしょうか。情報が簡単に手に入る時代だからこその弊害とも言えます。
「知る」と「出来る」を分かつ心理学的メカニズム
そこで皆さんに深く理解してほしいのが、「知る」ことと「出来る」ことの決定的な違いです。アスリートとしての成長力を極限まで高め、上達スピードを加速させるためには、この2つのフェーズの違いを明確に区別し、理解する必要があります。
まず、「知る」とは一体どういう状態でしょうか。「知る」と言っても、スポーツにおいては様々なレベルがあります。フォームの「やり方」を知る。トレーニングの「方法」を知る。成功した時の「イメージ」を知る。スポーツで技術を高めようと志せば、自然と知るべき項目が山のように出てきます。
しかし、その次の段階にそびえ立っているのが「出来る」という大きな壁です。いくら知識を知っていても、実際に体を動かして「出来る」とは全く別の次元の話なのです。
心理学や運動学習の分野では、人が新しい運動技術を獲得するプロセスには段階があるとされています。初期段階は「認知段階」と呼ばれ、頭で動きの手順や理論を理解するフェーズです。これがまさに「知る」段階です。しかし多くの人は、この認知段階で脳内が満たされると、すでに「出来る」と思い込みがちになってしまいます。心理学における「ダニング・クルーガー効果」のように、少し知識を得ただけで自分の能力を過大評価してしまうのです。
- 「俺なら出来る!」
- 「これって理屈さえ分かれば簡単でしょ!」
そうやって気持ちを前向きに持っていくこと、自信を持つことはスポーツにおいてとても大事です。しかし、それ以上に重要なのは、客観的かつ冷静に現在の自分を判断し、頭と体のギャップを埋めるための地道な行動を継続することの方が、もっともっと大事になってきます。
この「知る」と「出来る」という2つの学びの段階を理解し、自分の現状を受け入れることは、口で言うほど簡単なことではありません。
成長を飛躍させる「適切な失敗」というプロセス
では、頭で知っている状態から、無意識に「出来る」状態へ移行するためには、一体何が必要になるのでしょうか?
誰だって失敗は嫌なものです。ミスをして恥をかきたくありませんし、できれば一度も失敗せずに、最短距離で右肩上がりに成長したいと思います。しかし、心理学的な観点から見ても、失敗というプロセスを経ない成功などあり得ないのです。
スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックが提唱した「グロースマインドセット(しなやかなマインドセット)」という概念があります。これは、人間の能力や才能は、生まれつき固定されたものではなく、努力や経験によって後天的に伸ばすことができると信じる心のあり方です。
この思考を持つアスリートは、失敗を「自分には才能がない証拠」とは捉えません。失敗を「今のやり方が間違っていると教えてくれる、成長のための貴重なデータ」として処理するのです。頭で描いた理想の動き(知る)と、実際の体の動き(出来る)のズレを確認するためには、実際に動いてみて、失敗するしか方法はありません。脳は失敗によるエラー信号を受け取ることで初めて、運動神経の回路を修正し、最適化していくのです。
チャレンジを続けることの本当の価値
もしスポーツが、頭で理解しただけで誰でもその日のうちに完璧にこなせてしまうような簡単なものだったらどうでしょうか。きっと、誰もそんな競技を長く続けようとは思わないはずですし、何の面白みも感じないでしょう。
思い通りにいかず、何度も何度も失敗するからこそ、スポーツは奥深く、楽しいのです。そして、失敗を乗り越えようとするからこそ、私たちの心には「次こそはやってやる」という強い挑戦の意欲が湧き上がってくるのです。
恐れることなく果敢にチャレンジし続けること。それこそが、あなたが本来持っている潜在能力を引き出す唯一の鍵です。「知る」ことと「出来る」ことの間に横たわる深い溝を理解し、その溝を埋めるための失敗を歓迎できるようになった時、あなたはこれまでにないスピードでどんどん成長できる自分に変貌していくでしょう。
知識を本物の技術に変え、自分自身のセンスを極限まで磨き上げるための挑戦を、今日から共に始めていきましょう。




