野球における「投手」の孤独と責任感。マウンドで戦うアスリートへ贈るメンタル論

投手のメンタル

いつもTwitter(現X)や各種SNS、そしてこのブログをお読みいただき、本当にありがとうございます。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。

今回は、普段のメンタルノウハウの解説とは少し趣向を変えて、私自身の「過去の体験」を交えたお話を綴っていきたいと思います。日々プレッシャーと戦い、時に孤独を感じているアスリートの皆さんに、少しでも届くものがあれば嬉しく思います。

【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属

プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら

【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから

【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

CONTENTS

報われなかった3年間。スポーツメンタルコーチの原点

私は高校を卒業するまで、人生のすべてを野球に捧げてきました。スポーツ推薦で強豪校に入学し、希望に胸を膨らませていたものの、待っていた現実は決して甘くありませんでした。なんと、高校の3年間でただの一度も「背番号」をもらうことができなかったのです。

朝から晩まで泥だらけになって練習し、誰よりもバットを振り、ボールを投げ込みました。それでも結果が出ない。レギュラーメンバーがグラウンドで躍動する姿を、私はいつもベンチ外から、あるいはスタンドから声を枯らして応援していました。「なぜ、どれだけ努力しても報われないのか」。あの時の悔しさ、もどかしさ、そして深い絶望感は、今でも私の胸の奥に深く刻み込まれています。

しかし、その圧倒的な挫折があったからこそ、私は「心」の重要性に気づくことができました。心が折れそうな時、どう自分を立て直すのか。プレッシャーに押し潰されそうな時、どう平常心を保つのか。かつての私のように苦しんでいるアスリートを一人でも多く救いたい。その強烈な想いと、野球を通じて経験した数々の出来事が原動力となり、現在のスポーツメンタルコーチという道へと繋がっていったのです。

「投手」とは、この世で最も孤独な生き物である

そんな私の現役時代のポジションは、「投手」でした。

スポーツメンタルコーチとして数多くのアスリートと接する今でも、私は「投手とは、本当に孤独なポジションだ」と強く感じています。ふと、中学1年生の時の記憶が蘇りました。それはチーム内の紅白戦での出来事です。

私は最終回のマウンドを任されました。状況はツーアウト、ランナー二、三塁。一打逆転の大ピンチです。そしてバッターボックスには、私たちの代で最も打撃力のある4番打者が入りました。

一塁ベースは空いている。私はマウンド上で瞬時に状況を計算し、キャッチャーを呼び寄せました。 「ここは勝負を避けよう。次のバッターと勝負したい」 そう伝えて敬遠を選び、満塁策をとる決断をしたのです。結果として、私の判断は功を奏し、次の打者を打ち取ってチームを勝利に導くことができました。

しかし、試合後に待っていたのは称賛ではなく、周囲からの厳しい声でした。

  • 「あそこは4番と勝負する場面だろ!」
  • 「紅白戦なんだから、逃げずに投げろよ」
  • 「お前はそれでも男か!」

チームを勝たせるための最善策を選択し、実際に結果を出したにもかかわらず、容赦ない批判を浴びせられる。今振り返っても、投手というポジションの特異性、そして圧倒的な「孤独」を痛感した原体験でした。

マウンド上で背負う重圧と、強すぎる「責任感」

あのマウンドという小高い丘に一人で立った人間にしか、絶対にわからない感覚があります。

野球は9人で行う団体競技であり、チームスポーツです。しかし、試合のテンポ、空気感、勝敗の行方……そのすべてを、投手はたった1人で作り上げなければなりません。投手がボールを持って、キャッチャーミットに向けて投げ込まなければ、試合は1秒たりとも動かないのです。

ピンチの場面でマウンドに集まる野手たちは、「俺たちがついているぞ!」「周りを信じて打たせていけ!」「バックを活かせ!」と励ましの声をかけてくれます。もちろん、その言葉は本当にありがたいものです。

しかし、厳しい言い方をすれば、それらはすべて「結果論」で片付けられてしまう残酷さを持っています。打たれれば投手の責任、抑えればチームの勝利。結局のところ、マウンド上でボールを手放した瞬間、自分一人しか頼るものはないのです。

投手次第で試合が決まってしまう。それが、野球というスポーツの面白さであり、同時にあまりにも残酷な側面でもあります。

だからこそ、投手は人一倍「責任感」が強くなります。チームの運命を背負っているという重圧から、「自分が絶対に抑えなければならない」「絶対に点を与えてはいけない」という、強迫観念にも似たメンタルに陥りがちです。

しかし、その残酷さの裏を返せば、投手は間違いなくグラウンド上で一番の花形ポジションです。自らの腕一本でゲームを支配し、観客の視線を一身に集める。前に出ていきたい、自分の力で運命を切り拓きたいと強く願う人ほど、これほど相応しい仕事はありません。あのマウンドから見渡す景色。孤独だからこそ見える、研ぎ澄まされた世界。それが、多くの人を惹きつけてやまない投手の魅力なのだと思います。

孤独と向き合うアスリートのための思考法

「孤独である自分、未熟である自分に胸を張れ」 「自分の中に孤独を抱け」

これは、「芸術は爆発だ」の名言で知られる世界的アーティスト、岡本太郎さんの言葉です。孤独を否定するのではなく、むしろ自らの内に抱き、力に変えていく。トップアスリートのメンタルにも通じる、非常に深く力強い言葉だと思います。

現在、私はプロ野球の第一線で戦う選手たちともコーチングを行っていますが、やはり投手陣からは特有の悩みが打ち明けられます。「結果が出ても、出なくても、周囲から何か言われてしまう」。それが投手という生き物です。今日もまた、圧倒的なプレッシャーと孤独が支配するマウンドへ登っていく彼らの背中には、心からの尊敬の念しかありません。私自身も心の底からわかる感覚であり、心の底から知っている孤独だからです。

上手くいっている時はいいのです。心身が充実し、投げること自体が楽しく、孤独すらも心地よい緊張感に変わるからです。問題は、上手くいっていない時です。スランプに陥った時、批判を浴びた時、思い通りのプレーができなくなった時、その孤独とどう向き合い、どう乗り越えていけばいいのか? アスリートにとって、そこが最も気になるポイントでしょう。

執着を手放す「諦観(割り切り)」の境地

メンタルコーチとして、苦境に立たされたアスリートにオススメしている一つの思考法があります。それは、「割り切り」という境地に至ることです。

私がここで皆さんにお伝えしたいのは、「諦観(ていかん)」と呼ばれる境地です。 「割り切り」や「諦観」と聞くと、多くの人は「諦めること」「逃げること」というネガティブなイメージを持つかもしれません。しかし、私が伝えたい「あきらめる」には、全く別の深い意味が込められています。

それは、「明らかになる(明らめる)」ということです。

物事の本質を見極め、自分にとって本当に必要なものとそうでないものを明確にする。もっと簡単に言えば、物事への「執着」をなくすことで、初めて見えてくる新しい世界があるということです。

わかりやすい例を挙げてみましょう。あなたが街中を歩いている時、立ち並ぶ電信柱の数を一本一本数えながら歩くことはないはずです。それは、あなたの意識が電信柱に向いていないからです。 では、もし「電信柱を数えること」に強く意識を向け続けたらどうなるでしょうか?

確かに、正確に電信柱を数えることはできるでしょう。しかし、その代償として、重大なことを見落としてしまいます。 「今日はどんな美しい街並みだったか?」 「どんな素敵なお店があったのか?」 電信柱に執着するあまり、それ以外の豊かな情報がすべて視界から消え去ってしまうのです。

つまり、人間は「何か一つに執着している限り、それ以外の世界が見えなくなる」という性質を持っています。 だからこそ、苦しい時ほどその執着を手放してほしいのです。それを、私は「割り切る」「諦める(明らかにする)」と呼んでいます。執着を手放した瞬間、ガチガチに固まっていた視野が広がり、自然と別の解決策や新しい世界が見えてくるのです。

答えは、あなたの中にある

読者の皆さんも、一度自分自身で思考実験をしてみてください。

  • 「目の前の打者を絶対に三振に抑えること」に執着していたとして、それを手放すとどうなるか?
  • 「ストレートの球速や質の高さ」ばかりに執着していたとして、それを手放すとどうなるか?
  • 「監督やコーチ、周囲の評価」に執着していたとして、それを手放すとどうなるか?

執着を手放した先に見える景色。その答えは、一人ひとり違って当然です。どんな答えが出ても、それがあなたにとっての正解です。

その選手の中に眠っている答えを引き出し、孤独なマウンドで戦い抜くための強靭なメンタルを共に創り上げていくこと。それが、私が誇りを持って取り組んでいるコーチングです。

これからも、私は常に「選手の目」で世界を見ることを決して忘れません。そのためにも、私自身の泥臭い体験や孤独な記憶も、包み隠さずこのブログで発信し続けていきたいと思います。

日々プレッシャーと戦うすべてのアスリートへ。あなたの孤独と責任感は、必ずあなたを強くします。一緒に乗り越えていきましょう。

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