坂本勇人選手から学ぶ、バッティングで常に一定の調子を保てるメンタルの秘密
こんにちは、スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。日々多くのアスリートと向き合う中で、特に野球のバッティングにおいて「どうしても打てない」「スランプから抜け出せない」という深い悩みを抱える選手からの相談を数多く受けます。スポーツにおいてメンタルの状態はパフォーマンスに直結します。ピッチャーと1対1で対峙し、コンマ何秒の世界で結果を求められるバッターにとって、心の保ち方や思考の整理は、技術の向上と同じくらい極めて重要です。
今回は、読売ジャイアンツの坂本勇人選手の事例を交えながら、バッティングで常に一定の調子を保つためのメンタルの秘密について、心理学的な根拠も添えて詳しくお伝えしていきます。
坂本勇人選手の安定したバッティングの裏側について、当時非常に興味深い記事がありました。井端弘和内野守備走塁コーチ(当時)は、坂本選手の凄さについて次のように語っています。
「自分の打撃の狂いに気づくのが早い。それと、普通は狂いが生じると直したくなるし、それが原因でさらに悪化することもあるけど、勇人は本当に悪くなるまで我慢して、打てなくなったらすぐに修正する」
この言葉には、トップアスリートが持つ非常に高度な「自己認知能力」と「感情コントロール」の真髄が隠されています。人間は本能的に「不確実性」や「違和感」を嫌う生き物です。そのため、バッティングで苦しむ選手の多くは、少しでも感覚がズレると不安になり、すぐにバッティングフォームをイジリ過ぎてしまう傾向があります。しかし坂本選手は、その違和感を「我慢」できるメンタルを持っています。
結果を残せない打者には共通した心理的・行動的特徴があります。それが「バッティングをイジリ過ぎてしまう」ことです。フォームをイジリ過ぎて迷路に迷い込んでしまう理由を、3つの視点から心理学的に解説します。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

客観的な「検証」ができない(メタ認知の欠如)
結果が出せない選手の多くは、「自分が今、どのような状態に陥って、なぜ打てないのか」を客観的に把握できていません。心理学の用語で言えば「メタ認知(自分の思考や行動をひとつ上の視点から客観的に捉える能力)」が不足している状態です。
数学のテストに例えると、答え合わせの際に「バツだった」という結果だけを見て、どの計算式で間違えたのかという「プロセス」を振り返らないのと同じです。間違った原因やプロセスを見ていないため、また次の打席でも同じミスを繰り返します。結果(ヒットかアウトか)のみに感情を支配されると、ミスの根本原因を特定できません。
野球は3割打てれば一流と言われる確率のスポーツです。一時的な結果に一喜一憂するのではなく、自分の動作や思考プロセスをメタ認知し、冷静に検証する能力がなければ、打率という確率を長期的に上げていくことは非常に難しくなります。
周囲のアドバイスに左右される(統制の所在の外部化)
自分自身で適切な振り返りができないと、選手は不安を打ち消すために「何か即効性のある特効薬」を求めすぎます。結果を焦るあまり、すぐに結果を出してくれそうな安易なアドバイスに次々と耳を傾けがちになります。
これを心理学では、「統制の所在(ローカス・オブ・コントロール)」が外部に向いている状態と解釈できます。自分の結果をコントロールする要因を、自分自身の努力やプロセスの改善ではなく、他人の新しい理論や道具など「外部」に求めてしまっているのです。
ある意味では素直さの表れでもありますが、運動学習の観点から言えば、新しい動作が脳の「運動スキーマ(動作の記憶のネットワーク)」として定着し、無意識レベルで実行できるようになるまでには、最低でも1ヶ月以上の反復継続が必要です。それくらいの期間を置いて一つのことに取り組む覚悟がなければ、本当にそのアドバイスが自分に合っていたのかどうかの検証すらできません。
打撃理論を固定できない(ホメオスタシスと認知的不協和)
上記の1、2の行動を繰り返すことで、最終的に「自分の打撃理論が固定できない」という致命的な事態に陥ります。検証もできず、他人のアドバイスに一つ一つ左右されていれば、結果が出にくいのは当然です。
競技を5年以上続けていれば、選手の体には必ず過去の習慣が無意識のレベルで染み付いています。つまり、現在結果が出ていない人は「結果が出ない習慣を長年持ち続けている」ということを意味します。長年培った習慣を変える際、人間の脳と体は現状を維持しようとする「ホメオスタシス(恒常性)」という強力な防衛本能を働かせます。
また、新しい理論を試してすぐに打てないと「やっぱりこの理論は間違っているのではないか」という「認知的不協和(自分の行動と結果の矛盾による不快感)」を抱き、慣れ親しんだ元のフォームに戻りたくなります。これだけ長い間続けてきた習慣を変えるのですから、一筋縄にいかないのがバッティングです。この心理的抵抗を乗り越える強い意志が必要になります。
スランプを抜け出し、揺るぎない信念を作る方法
だからこそ、しっかりとした技術における「信念」が大事になります。かつてイチロー氏も、プロ入り当初は特徴的な振り子打法を指導者から否定されました。それでも、周囲の声に流されず振り子打法を信じて続けた結果、今では世界を代表する大打者になりました。
結局のところ、何が正解なのか。それは「結果を出した時に初めて正解になる」のです。その時が来るまで、来る日も来る日も試行錯誤と忍耐が必要になります。
そして、それを支える信念には必ずあるものが必要になります。それが「自信」です。信念を支えるのは、自分自身への深い信頼です。心理学の巨匠アルバート・バンデューラは、この「自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると信じている感覚」を「自己効力感(セルフ・エフィカシー)」と呼びました。
自己効力感を高めるためには、いきなり大きな目標を掲げるのではなく、まずは本当に簡単なことでいいので「小さな成功体験」を積み重ねるところから始まります。人間の脳はとても面白くて、小さな成功や目標達成を感じると「ドーパミン」という神経伝達物質が出るということが分かっています。ドーパミンとは、やる気やモチベーションを高め、望ましい行動を習慣化するために不可欠な脳内物質です。
そんな脳内物質が分泌されると、たちまち自信が高まってくるように感じます。なかなか思うように結果が出なくても、まずは「今日はボールをしっかり見極められた」「素振りで理想の軌道が1回できた」など、目の前のことからコツコツと成功体験を積み重ねることが、結果的にスランプを抜け出す最大のキッカケになるのです。
ご参考までに。スポーツの現場で苦しむあなたにとって、この記事が少しでも前に進むための力になれば幸いです。




