アスリートが悩むスランプを一緒に乗り越えるには?
スランプの暗闇を抜け出し、大活躍する晴れ舞台に立ち会える喜び。私は日々、スポーツの現場でその瞬間に胸を熱くしています。
アスリートが望む結果をメンタル面からサポートするスポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。今回は、本気でアスリートのメンタルを支えたい、彼らの力になりたいと願うあなたに向けて、私の現場での経験と心理学的な視点を交えながら、最も大切なことをお伝えしたいと思います。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

スランプに苦しむアスリート。共に歩んだ7年間の軌跡
とある選手で、国際大会の第一線で戦っている方がいます。よくよく考えたら、彼とはもう7年目のお付き合いになります。彼にとって、今年は現役生活の集大成となるような重要な1年になるかもしれません。
この数年間の彼の活躍には、本当に目を見張るものがありました。素晴らしい成績で個人賞を獲得し、その勢いのまま海外への移籍も果たしました。順風満帆に見えたキャリアでしたが、迎えた重要な国際大会で、思うような結果を得ることができない深刻なスランプに陥ってしまったのです。
数ヶ月間、私たちは一緒に悩み、模索し、今できることの全てをやり抜く強い気持ちを持ってサポートを続けました。そして中盤に差し掛かった大会で、ついに彼は大活躍を見せました。スランプの苦しみを抜け出し、本来の力以上に大きく成長した姿をピッチで証明してくれたのです。
毎回、こういったアスリートの絶対に諦めない姿勢には深く感銘を受けます。そして、「何とかその熱い想いを結果に結びつけたい」という思いで胸が一杯になります。
支援者に求められる「でーーん」と構える力と徹底した準備
最後までやり抜きたいという強い意志があるからこそ、彼らはメンタルコーチングを依頼してくるのだと思います。では、そんな極限状態で悩む選手を支える私は、普段どんな気持ちで接しているのでしょうか。
実は、非常にラフな気持ちで「でーーん」と構えています。
内心では「大丈夫!絶対に乗り越えられる!」と強く信じていますが、目の前で深く葛藤しているアスリートに対して、ただの気休めを言うことはありません。心理学において、自分には目標を達成する能力があるという「自己効力感」を高めることはパフォーマンス発揮に直結しますが、根拠のない励ましは時に選手を孤独にしてしまいます。
だからこそ、「〇〇さんなら大丈夫!」と心の底から送り出せる想いになるまで、考えられるあらゆる準備を徹底して一緒に行うのです。アスリートが安心感を持って競技に向かえるよう、まずは心理的安全性を提供し、絶対的な味方として寄り添うことが、コーチとしての第一歩となります。
心理学が示す「成長マインドセット」の重要性
そんな過酷な状況下でも、私がことあるごとに選手に伝えている言葉が一つだけあります。
それが「成長しよう」です。
どんなに結果が出なくても、試合に出られなくても、誰にでも「成長」を目指すことはできます。心理学者のキャロル・ドゥエックが提唱した「成長マインドセット」という概念があります。これは、自分の能力は努力や経験によって必ず伸ばすことができると信じる心のあり方です。
アスリートは往々にして「勝たなければならない」という結果目標に縛られ、それがプレッシャーとなって心理的な視野狭窄を引き起こし、パフォーマンスを落としてしまうことがあります。しかし、意識を結果から「今日何を学び、どう改善するか」というプロセスに向けることで、内発的動機づけが維持され、困難な時期であっても前向きな行動を続けることができるのです。
誰に何を言われようが、職人のように一つの技を極めていくのがアスリートの真の姿だと私は思います。そのひたむきな姿勢や過程を通じて、私は彼らに対する深い尊敬と畏怖の念を抱きます。そして、その知られざる努力を想像するからこそ、彼らを応援するファンが自然と増えていくのだと思うのです。
「結果」という名の果実があるのだとしたら、成長を放棄しない限り、それを手にするチャンスは何度となく目の前を通ってくれます。だからこそ、どんなアスリートであっても、結果以上に「成長」を大切にしていければ、必ず困難を乗り越えていけると信じています。
スポーツメンタルコーチを目指す人が陥りやすいジレンマ
この「成長し続ける」という考え方は、実はスポーツメンタルコーチを目指す方、あるいはアスリートのメンタルを支えたいと願うすべての人にも全く同じことが言えます。
例えば、メンタルサポートに関する資格や検定を取得した途端、そこで満足して学びが終わってしまうことはありませんか?当初は「メンタルに悩む選手をサポートしたい」という熱い想いがあったはずなのに、通信教育のテキストをこなしたり、知識を詰め込んで資格を取ること自体が目的にすり替わってしまうというジレンマに陥る人は少なくありません。
このジレンマを解消するために、ブログやSNSを駆使して選手に向けたアウトプットを積極的に行うコーチを見かけることがあります。これも実践としてとっても大事なことだと思う一方で、同時に「学び続ける環境を、どれだけ自分で用意できるか」が最も重要になってきます。
臨床心理とスポーツ心理学の融合。現場が求めるサポートとは
私自身、スポーツメンタルコーチという肩書きを名乗る人がほとんどいなかった2011年頃、たった一人でスポーツの現場に飛び込みました。
そこで体験したリアルな選手たちとの対話を通じて、
- 「選手が本当に求めていることは何か?」
- 「メンタル面のサポートを依頼する際、彼らはどんな不安を抱え、どんな解決策を望んでいるのか?」
を研究に研究を重ねてきました。
その中で気づいたのは、従来のスポーツ心理学に基づくメンタルトレーニングのように、単に目標設定やリラクゼーションなどの手段を伝えて終わるだけでは不十分だということです。選手の心の奥底にある葛藤に寄り添い、共に歩むためには、臨床心理士が行うような深いレベルでのカウンセリングの要素を取り入れ、心の声に真摯に耳を傾ける傾聴とラポール形成の姿勢が必要不可欠でした。
学び続ける環境が、真のスポーツメンタルコーチを育てる
その後、現場でのサポート実績を重ね、ドラフト指名選手の輩出や、オリンピックメダリストの誕生に携わることができました。そして、自分の想いを紡いでくれる人を増やす必要があると強く思い、2013年に独自の養成・資格講座を設立することにしました。当時私は29歳。比較的早い段階での設立でした。
その背景には、ありがたいことにアスリートからの依頼が集中してしまい、私一人では物理的にコーチングをお断りせざるを得ないケースが増えてきた実情がありました。
最初は、私と同じような結果を生み出せるメンタルコーチを育成するには、かなりの時間が必要だろうと考えていました。しかし、その予想を良い意味で裏切ってくれたのが橋本コーチでした。当時24歳の大学院生だった彼は、プロアスリートのサポートを開始すると、ポンポンと次々に契約を重ねていきました。彼が担当した中からは、全日本で3位に輝いた選手や、海外で活躍するプロサッカー選手も生まれました。
彼のように結果を生み出し続けられる支援者とはどんな人なのか?私なりに研究してみたところ、一つの明確な共通点がありました。それは、彼自身が「常に成長し続ける人」だったということです。最初にお伝えした、困難を乗り越えて大活躍したアスリートと全く同じ姿勢でした。
そこで、もっと現場で活躍できるスポーツメンタルコーチを普及させていくために、私は定期的な勉強会やコミュニティの必要性を痛感しました。
現在では、私だけでなく、第一線で活躍する卒業生が各種セミナーや講演の講師を務める機会も設けています。人に教えることの難しさや、そのための徹底した準備の大切さを学ぶことは、コーチ自身の大きな成長に繋がるからです。講座の開催を通じて、単なる知識の共有にとどまらず、より一層の技量向上を目指せる環境作りに徹しています。そして、確かな技量が高まっている方には、それに応じた独自のライセンスを付与しています。
あなたのその成長し続ける姿勢こそが、アスリートの心に火をつけ、彼らの可能性を最大限に引き出す力となるのです。
「One athlete, One mental coach 1人のアスリートに、1人のメンタルコーチを」



