こんにちは。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
日々、多くのアスリートやプロを目指す選手たちと向き合う中で、私は常に「心と脳の仕組み」をいかにパフォーマンスの向上に結びつけるかを伝えています。競技のレベルが上がれば上がるほど、フィジカルや戦術だけでなく、スポーツにおいてメンタルが勝敗を分ける大きな要因になることは、アスリートの皆さんならすでに肌で感じていることでしょう。
今回は、雑誌『Number』979号の独占インタビューに掲載されていた、あるトップ選手の言葉を引用しながら、アスリートにとって不可欠な「コミュニケーション能力」と「言語化の力」について、心理学的な視点を交えて深く解説していきたいと思います。
その言葉の主は、日本サッカー界の至宝とも言える久保建英選手です。彼はインタビューの中でこのように語っていました。
「サッカー選手ってよく言えばコミュニケーション能力が高い、悪く言えば生意気な存在なんだと思います。言葉にする能力はみんなありますし、トップチームの選手はやっぱり、すらすら言葉が出てきます」
この独占インタビュー内で語られた言葉に、私は強く目を奪われました。「いい選手は話が上手である」という真理を、久保選手自身がしっかりと理解し、言語化しているからです。今回は、この言葉の裏にある心理学的な意味と、アスリートが心を整える上でなぜ「伝える力」が重要なのかを紐解いていきます。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

トップアスリートに共通する「伝える力」とメタ認知
久保選手の言葉にある「トップチームの選手はすらすら言葉が出てくる」という事実は、競技の現場において非常に重要な意味を持ちます。一見すると、足元の技術と言葉を話す能力は別物のように思えるかもしれません。しかし、心理学的な観点から見ると、これらは極めて密接にリンクしています。
言葉がすらすら出てくるということは、自分の頭の中にある思考や感覚、そしてその瞬間の状況を客観的に捉え、整理できている証拠です。これを心理学では「メタ認知」と呼びます。メタ認知とは、自分自身の認知行動(考える、感じる、判断するなど)を一段高いところから客観的に把握し、制御する能力のことです。
トップアスリートは、試合中の極限のプレッシャーの中でも、「今、自分が何をすべきか」「なぜそのプレーを選択したのか」「チームメイトはどのような動きをしているか」を瞬時に言語化できるメタ認知能力が非常に高い傾向にあります。言葉にする能力が高い選手は、自分自身の心理状態を正確に把握し、不安や焦りを感じた際にも即座に修正を加えることができるため、結果としてスポーツの現場でメンタルの波に飲み込まれにくくなるのです。久保選手のピッチ上での華やかなプレーや冷静沈着な判断の裏には、この高度なメタ認知と、それを支える確かな言語化能力が存在しています。
技術だけでは生き残れない?コミュニケーション能力と人間関係
私は普段、プロサッカー選手になりたいと願う子供たちに向けて、月に1回「Football Tryout Academy(FTA)」という体験型のセミナーを通じて、プロに必要な知識や考え方をお伝えしています。ゲーム形式の実践を交えながら、10代から20代前半の彼らにもわかりやすい言葉で、脳や心の仕組みを指導しています。
この活動を通じて私が痛感しているのは、人と人とのコミュニケーション能力、すなわち「自分が思うことを言葉で伝える能力」と「相手の意図を正確に汲み取る能力」の圧倒的な重要性です。極端な言い方をすれば、時にはスポーツにおけるメンタルトレーニングそのもの以上に、このコミュニケーション能力が選手生命の鍵を握っているのではないかとさえ感じます。
なぜなら、10代から20代前半の若い年代において、心が崩れてしまう原因の多くは「人との関係性」にあるからです。監督やコーチの厳しい言葉に過剰に反応してしまったり、チームメイトとの戦術的な連携がうまくいかずに孤立してしまったりと、対人関係のストレス(ストレッサー)が競技パフォーマンスを著しく低下させます。
心理学においても、人間関係における「心理的安全性」の確保は、最高のパフォーマンスを発揮するための絶対条件とされています。自分の意図を誤解なく伝え、相手の意図をしっかりと汲み取ることができれば、無用なストレスやチーム内での摩擦を未然に防ぐことができます。人間関係の不安が取り除かれれば、選手は競技そのものに100%のエネルギーと集中を向けることができるのです。
技術さえあればプロになれる、良い選手になれると思い込まされている現実は確かに存在します。しかし、年上のベテラン選手や外国人選手たちに囲まれても臆することなく自分の意見を伝える能力や、誰に対しても動じない姿勢というのは、久保選手が普段からコミュニケーションの質を大切にしているからこその結果だと言えます。
意見を言えない「YESマン」が伸び悩む心理学的な理由
私が指導している選手たちの中には、極端に自分の意見を話せない子が少なくありません。高校を中退した子、大学で試合に出られずにアカデミーに通う子など、彼らは様々なバックボーンを持っています。しかし、一つの共通点として「集団というコミュニティの中でうまく馴染めなかった傾向」が見受けられます。
もちろん、集団に馴染めないこと自体が悪いわけではありません。それによって培われた独自の視点や、一人で黙々と課題に向き合える素晴らしい能力を持っていることも多いからです。しかし、チームスポーツ、ひいてはプロという厳しい世界では、技術力だけでは生き残っていけません。
現場を見ていると、指導者やチームメイトの意見に対して、自分の考えをしっかりと「言い返せる子」は確実に伸びていきます。一方で、自分の意見を言えず、ただ言われたことに頷くだけの「YESマン」のままでは、いずれ成長の壁にぶつかってしまいます。
これには、「自己決定理論」という心理学のモチベーション理論が深く関係しています。人が高い意欲を維持し、困難を乗り越えて成長するためには、「自律性(自分自身で選択し、決定しているという感覚)」が必要不可欠です。言われた通りに行動するだけのYESマンは、この自律性が著しく奪われた状態にあります。常に他人の指示に従っていると、心からのやりがいである「内発的動機づけ」が低下し、「自分にはこの状況を打破する力がある」という「自己効力感」も育ちません。結果として、自発的に物事を考え、主体的に行動することができなくなってしまうのです。
指導者のあり方と、アスリートが磨くべき「言語化」の習慣
このような「自分の意見を言えない選手」が生まれてしまう背景には、その子自身の性格的な問題よりも、周りの大人たちの影響が非常に大きいと私は考えています。「言われた通りに行動することが正しい」「指導者に口答えをしてはいけない」という環境で育ってきた選手は、自然と思考を停止し、意見を飲み込む癖がついてしまいます。言われた通りに行動することが「良いこと」とされ続けてきた彼ら自身には、何の非もありません。
だからこそ、この現実を変えていくために、私たち指導者のあり方が強く問われています。選手が安心して自分の意見を言える環境を作り、失敗を恐れずに言語化する機会を日常的に提供しなければなりません。久保選手は幼少期をバルセロナの下部組織で過ごしましたが、そこでは年齢や立場に関係なく、ピッチ上で自分の意見を激しく主張し合う文化が根付いていたのでしょう。その教育環境の違いが、現在の彼の堂々とした振る舞いに繋がっていることは間違いありません。
そして、アスリートの皆さん自身も、受け身になるのではなく「伝える力」を特に意識して磨いていく必要があります。スポーツにおいてメンタルをコントロールし、最高の自分を引き出すためには、自分が今何を感じ、どう動きたいのかを明確に言葉にするトレーニングが欠かせません。
まずは、日々の練習ノートに自分の感情やプレーの意図を詳しく書き出すこと(ジャーナリング)から始めてみてください。そして、勇気を出してチームメイトとプレーの意図をすり合わせる対話の機会を増やしましょう。これらはすべて、あなたの思考を整理し、プレッシャーに負けない強靭な心を作るための最高のメンタルトレーニングになります。
「伝える力」と「言語化能力」は、生まれ持った才能ではなく、日々の意識と訓練で必ず高めることができるスキルです。自分の内面と深く向き合い、それを適切な言葉で外に発信できるようになれば、あなたの競技人生はさらに豊かで、無限の可能性に満ちたものになるはずです。久保建英選手のように、自分の言葉を持ち、ピッチの内外で堂々と輝けるアスリートを目指して、今日から「伝える力」を磨き続けていきましょう。皆さんの今後の飛躍を、心から応援しています。




