誰にも理解されない痛みと、チームから置いていかれる焦り
こんにちは。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
日々限界に挑み続けるアスリートにとって、怪我ほど辛く、心をえぐるものはないと思います。外からは見えない、誰にも理解されない痛み。一日でも早く復帰したいのに、思うように身体が動かないもどかしさ。そして何より、グラウンドやコートで汗を流すチームメイトの姿を見るたびに襲ってくる「自分だけが置いていかれるのではないか」という強い焦り。
- 「ちょっとくらいの痛みなら大丈夫だ」
- 「休んでいる暇なんてない」
そう自分に言い聞かせ、無理をして練習を続けた矢先に、何度も同じ箇所を痛めてしまう。その負のスパイラルに陥り、「自分はこの痛みとずっと付き合っていくしかないんだ」と絶望感や無力感を抱いてしまう選手を、私はこれまで数多く見てきました。
実際、私が開催しているセミナーには、深刻な状態にある選手が何人も相談に訪れます。 前十字靭帯を断裂し、復帰は半年後と宣告された選手。 左足首を脱臼骨折し、復帰まで1年以上を要する選手。 顔面陥没骨折により、今シーズンが絶望的になってしまった選手。
彼らの話を聞いていると、その表情や声のトーンから、痛いほどの無念さが伝わってきます。時には大粒の涙を流しながら、心の奥底にあるやり場のない想いを私に語ってくれます。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

痛みを誤魔化し、中途半端に終わった私の過去
実は私自身は、即座に手術を要するような突発的な大怪我の経験はありません。しかし、高校時代は「慢性的な痛み」にずっと苦しめられてきました。
ひざ痛のオスグット氏病、腰椎分離症からの椎間板ヘルニア、そして野球肘。 どれも今すぐメスを入れる必要こそない症状でしたが、常に痛みを騙し、ごまかしながらプレイするしかありませんでした。朝起きるたびに「今日は痛くないだろうか」と不安になり、練習中も患部をかばうあまり、本来のフォームを見失っていく日々。
そんな中途半端な身体の状態では、当然ながら思うような結果は出ませんでした。それでも、
- 「ここで休んだら、もう二度とレギュラーには戻れない」
- 「チームに自分の居場所がなくなる」
という恐怖心から、中途半端でも無理をしてやり続けるしかありませんでした。大好きなはずの野球が、いつの間にか嫌いになってしまう気がして、それが凄く怖かったのです。
だからこそ、痛みを押して走り続けるしかない、治しながらプレイするしかないと思い込み、現役生活最後の1年はあっという間に過ぎていきました。
結果として、何もかもが中途半端なまま、私の競技生活は終わりました。これほど悔しい経験はありませんでした。二度と味わいたくない、深く暗い挫折感でした。
- 「もしあの時期に、もっと真剣に自分の身体と向き合えていたら」
- 「もっと自分の本当の気持ちをごまかさずに休む勇気を持てていたら」
と、今でもたらればの話をすれば尽きません。
アイデンティティの喪失という心理的危機
心理学の視点から見ると、アスリートが怪我をした際に深く落ち込み、立ち直れなくなるのには明確な理由があります。それは競技者としての自己同一性という「アスレチック・アイデンティティ」が脅かされるからです。
幼い頃からスポーツ中心の生活を送ってきた選手にとって、「競技をしている自分」こそが自分自身の価値そのものになっています。そのため、プレイができない状態に陥ると、「スポーツができない自分には、人間としての価値がないのではないか」という心理的な危機に直面します。これが、怪我の際にメンタルが著しく不安定になる大きな原因です。
だからこそ、いま苦しんでいる選手たちには、私と同じような後悔をしてほしくないのです。しっかりと治しさえすれば、絶対に活躍できる素晴らしい素質を持った選手は山のようにいます。だからこそ、「これからは痛みとうまく付き合っていく」などと、自分の可能性に対して妥協しないでほしいのです。
目標は「怪我を治すこと」ではない
リハビリに取り組むにあたって、怪我を乗り越えて「自分史上最高のボディーを手に入れること」、そして「夢を叶えるための強靭な肉体を手に入れること」。これこそが、本来あるべき目標です。
少し厳しい言い方かもしれませんが、私は皆さんに「マイナスをゼロに戻すこと」「怪我を治すこと」を目標にしてほしくないのです。怪我を乗り越えた、さらにその先にある「ゼロをプラスにする状態」「最高の自分」を目標にしてほしいと強く願っています。それほどまでに、未来を見据えた目標設定は重要であり、目標が人間の心身にもたらす力は偉大なのです。
そして、未来の目標を定めた皆さんに、今だからこそ必ず確認してほしいことがあります。 それは「あなたが競技を続ける理由」です。
あなたはどうして、その競技を続けているのでしょうか?
さらには、競技を続けたい「目的」は何でしょうか?
「目標」と「目的」の違いを心理学から考える
心理学において、人が困難を乗り越えて行動を起こす動機づけには、大きく分けて「外発的動機づけ」と「内発的動機づけ」があります。報酬や他者からの評価を求める外発的なものに対し、「ただその競技が好きだ」「自分自身の限界を超えて成長したい」という、心の内側から湧き上がる「内発的動機づけ」こそが、厳しいリハビリを乗り切る最強のエンジンになります。
しかし、多くの選手が「目的」と「目標」を混同してしまっています。本来、目標とは「目的を達成するための手段・通過点」に過ぎません。ところが、いつの間にか目標自体がゴール・目的になっているケースが非常に多いのです。
例えば、
- 「オリンピックでメダルを取りたい」
- 「プロ野球選手になりたい」
- 「有名になりたい」
これらはすべて、素晴らしいものですが目的ではなく「目標」です。
では、
- メダルを取ってどうしたいのか?
- プロ野球選手になってどんな影響を与えたいのか?
- 有名になって、誰に何を伝えたいのか?
この「その先」にあるものこそが、あなたの真の目的です。ここを深く、深く突き詰めて言語化する必要があります。
立ち止まる時間が、あなたを強くする
怪我をして身体が動かせない今だからこそ、生まれた時間を使って、是非とも自分の心と向き合い、考え抜いてください。 どうして、自分は競技を続けたいのか? 競技を通じて成し遂げたい、本当の目的は何か?
怪我は、あなたの競技人生における終わりではありません。己の心と向き合い、より強く、より高みへ飛躍するために与えられた貴重な準備期間です。あなたがこの壁を乗り越え、自分史上最高の状態で再びフィールドに立つ日を、心から応援しています。




