頑張りすぎは逆効果?スポーツにおいて感情の起伏をなくす最適解とは

「自分に期待することではじめて物事は可能になる。」

これは、あの有名なバスケットボール選手、マイケル・ジョーダンの言葉です。アスリートとして高い目標を掲げ、自分自身の可能性を信じることは、すべてのパフォーマンスの源になります。

しかし、アスリートの皆さんは痛いほどご存知だと思いますが、長く過酷なシーズンを戦っていると、当然いい事もあれば、全くうまくいかないダメな時も必ず訪れます。

素晴らしい準備をして、素晴らしい仲間たちと、素晴らしい練習の時間を過ごしたと確信している時ほど、期待した通りの結果が出ない日々には深く悶々とさせられるものです。

モチベーションだって、上がったり下がったりの繰り返し。

  • 「本当にこんなんでいいのか…」
  • 「監督やチームメイト、応援してくれる周りの期待に応えたいのに…」

周りの目が気になれば気になるほど、結果を出せない自分に嫌気がさしてしまう。特に、過去に輝かしい結果や成功体験を持っている選手であればあるほど、理想と現実のギャップに苦しみ、なおさら現状の自分を認められないのだと思います。

心理学の視点から見ると、この苦しみは「認知不協和」と呼ばれる状態から生まれます。「これだけ完璧な準備をした自分」と「結果が出ていない現実」という矛盾する二つの事実を抱えることで、脳は強いストレスを感じます。そして、周りの期待という「自分ではコントロールできないもの(外的統制感)」に意識が向くことで、不安はさらに増幅されてしまうのです。

では、このスポーツにおける避けられないメンタルの波、感情の起伏をどうやって乗り越えたらいいのでしょうか。

【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属

プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら

【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから

【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

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メンタルの波を乗りこなす「サーフィン理論」

そこで私がいつも思い出すのが、「サーフィン」です。

サーファーがどれだけ素晴らしいテクニックを持っていたとしても、いい波に乗るには、そもそも波が来るのをひたすら待つしかありません。沖の方をじっと見て、「あ、波がきたな…」と見極める。自分の力で無理やり波を起こすことはできないのです。

アスリートの「調子」だって、それと全く同じように捉えてみてください。

日々の練習や生活の中で、心と身体、そして環境。何かすべてがうまく噛み合った時に、ポンッと「調子がいい現象」が起きます。しかしプロ競技やトップレベルの世界になると、常に一定の高いパフォーマンスを発揮し続けることが求められます。するとどうしても、無理が生じてどこかで調子の波が崩れる瞬間がやってきます。

あれだけいい波がきていたのに、パタリと止まってしまう。そんな時、その都度慌ててバタバタと海面を叩いても、波は絶対に来ません。無理に気持ちを奮い立たせて「もっと頑張らなきゃ!」ともがいても、ただ体力を消耗し、疲れてしまうだけなのです。

頑張りすぎるアスリートが陥る罠

責任感が強く、頑張り過ぎる選手ほど、この時期にオーバーワークに陥ったり、心の疲れ(うつ病や燃え尽き症候群など)に結びつきやすくなります。

心理学においては「自我消耗」という概念があります。人間の意志力や精神的エネルギーは有限であり、無理に感情を抑え込んだり、極度のプレッシャーの中で過剰な努力を続けると、そのエネルギーは枯渇してしまいます。エネルギーが枯渇すると、集中力は低下し、ネガティブな感情のコントロールも効かなくなってしまうのです。

だからこそ、心が完全に折れてしまってからでは遅いのです。私はスポーツメンタルコーチとして、アスリートの皆さんにそうなって欲しくありません。

現状の苦しみから抜け出し、安定したパフォーマンスを発揮するためには、もう一つ上のメンタルの世界にいく必要があります。

感情の起伏をなくす究極の状態「無(ゾーン)」

そのもう一つの上の状態こそが、「無(ゾーン)」の世界です。

結果がよくても、無っ! 結果が出なくても、無っ!

この「無」とは、感情を押し殺してロボットのようになることではありません。心理療法の一つであるACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)では「脱フュージョン」と呼びますが、自分の感情や思考と距離を置き、それに飲み込まれない状態を作ることを指します。「あ、今自分は焦っているな」「今、喜んでいるな」と、客観的に自分を観察できている静かな状態です。

多くのアスリートが、極限の集中状態であり、すべてがスローモーションのように感じられる劇的な「ゾーン」に入りたがります。しかし、長い競技人生において一番大事なベースとなるゾーンは、日々の些細な出来事や、一時的な結果に対して何事にも動じない「無」の状態そのものなのです。

スポーツにおいて感情の起伏をなくす方法

では、具体的にどうすればその境地に辿り着けるのでしょうか。感情の起伏をなくす方法として私が最も大切にしているのは、「普段からどれだけ力を抜けるか」ということです。

私たちは、特に頑張れば頑張るほど、無意識のうちに身体に力が入り、呼吸が浅くなります。「ヤーキーズ・ドットソンの法則」という心理学の法則が示す通り、人間は適度な緊張感(覚醒レベル)の時に最高のパフォーマンスを発揮しますが、過度な緊張や力みは逆にパフォーマンスを急激に低下させます。

力を抜くためには、まず「今の自分がどれだけ力んでいるか」を知る必要があります。肩が上がっていないか、奥歯を噛み締めていないか。身体の緊張はそのままメンタルの緊張に直結しています(身体的アプローチによる感情制御)。

だからこそ、「頑張るんだけど、力は抜く」というイメージが非常に大切になります。目標に向かって努力はするけれど、心と身体に余白を持たせておく。その為にも、日頃から「頑張りすぎない」勇気を持つことも大事なんですよね。

正解ではなく、いまの「最適解」を見つける

不思議なもので、スポーツの世界はどれだけ血を吐くような努力をしても、必ずしも結果が出るとは限りません。その一方で、傍から見ると全然努力していないように見えるのに、あっさりと結果を出してしまう天才肌の選手も存在します。

そう考えると、結果を生み出す為に本当に必要な事はなんなのでしょうか?

スポーツの世界は、ある意味とても非情な世界です。結果を出した人のやり方が、すべて「正解」のように扱われます。そして、過去の偉大な経験者たちの発言が、あたかも全選手に当てはまる唯一の正解に見えてしまいます。

しかし、時代とともに常識は変わり、正解は必ず変化して行きます。体格も、性格も、育った環境も違うあなたにとって、他人の正解がそのまま当てはまるはずがありません。

大切なのは、絶対的な「正解」を追い求めるのではなく、今の自分にとっての「最適解」を見つけることです。これこそが、長く競技生活を頑張り抜くための最大のコツなのです。

無理に波を起こそうとせず、力を抜いて海に身を委ね、自分の状態を客観視しながら最適な行動を選択していく。頑張り過ぎない為にも、この勝つ為のコツを大事にしてみてください。

そうすれば、結果に振り回されて感情の起伏に深く悩むことも、少しずつなくなっていくはずです。

あなたのこれからの競技人生の、参考までに。

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