アスリートの皆さん、こんにちは。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
試合前ほど強烈な緊張を感じる瞬間はないと思います。だからこそ、私たちスポーツメンタルコーチの出番です。私は月に1〜2回のセッションに加え、試合前にも15分ほどの電話サポートをしています。
一般的に緊張を解く方法として深呼吸や筋弛緩法などがありますが、私はそういった一時的な対処療法ではなく、根本的な解決を提案したいのです。会話を通じて選手の気持ちを根底から整えていきます。
今回は、私が実際に行うアプローチと、その裏付けとなる心理学的な理由をお伝えします。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

心理学と生理学から読み解く緊張のメカニズム
試合前になると動悸や額の汗が止まらず、極端な早口になる選手がいました。呼吸が浅くなり思考も狭まります。その緊張感は試合中にも影響し、自分の不甲斐なさから涙を流すことも。過度なプレッシャーで自分を見失うことは誰にでも起こります。
理由は大きく2つあります。
- 1つ目は「脳内物質の分泌」です。
強いストレスを感じると、脳内でノルアドレナリンやドーパミンが分泌されます。前頭前野でこれらが高まりすぎると、神経細胞間の活動が弱まり知的行動が停止します。さらに、副腎からストレスホルモンのコルチゾールが放出され、自制心が崩壊していくのです。 - 2つ目は「自律神経の乱れ」です。
活動時に働く交感神経と、リラックス時に働く副交感神経のバランスが重要です。心理学の「ヤーキーズ・ドットソンの法則(逆U字理論)」が示す通り、適度な緊張と興奮はパフォーマンスを最大化させるために不可欠です。しかし、交感神経が過剰に優位になると、最適な覚醒レベルを超えて強い不安やパフォーマンス低下を招きます。
自分の「心のクセ」を知ることが最大の武器
食事や栄養面からもアプローチできますが、私が重視するのは自分の「心のクセ」を知ることです。
私自身、現役時代は非常に緊張しやすい人間でした。自信もなく、試合前は心臓がバクバクでした。当時の私は、試合の結果を「最初に投げた1球目の感覚」で決めていたのです。1球目が思い通りにいかないだけで、「今日はダメだ」と自分の調子を勝手に決めつけていました。
これは心理学でいう「全か無かの思考(白黒思考)」と呼ばれる認知の歪みです。サッカーのファーストタッチ、バレーやバスケの最初のプレーなど、スポーツにおいて最初は確かに重要です。しかし、最初の出来次第で自分の良し悪しを勝手に決めつけるのは、無意識の心のクセに過ぎません。
自己理解から生まれる「自己効力感」
心のクセを知るとは、無駄な着色なしに自分を正しく理解することです。自分を客観的に理解できている人ほど、パニックにならず「今すべき行動」がわかります。
過度な興奮状態になると、脳の血流は本能的な感情を司る扁桃体に集中し、司令塔である前頭前野が機能しなくなります。前頭前野を正常に機能させるため、私は物事の「捉え方(認知)」を少しだけ変えたいのです。
あるプロ野球選手は、投球練習の1球目から全力で投げ込むスタイルでした。しかし、マウンドに足が慣れていないとボールが荒れ、自信を失いやすかったのです。そこで、メンタルコーチングを通じて本人なり考えた結果、1球目の入り方を「全力」から「5割の力」に変えました。5割の力なら、確実にある程度のコントロールができます。
心理学的には、この小さな成功体験が「自分は状況を制御できている」という自己効力感(セルフ・エフィカシー)を高めます。脳は安心感を得て、この小さな自信の積み重ねが気持ちを落ち着かせるのです。最初の入り方をどう準備するか、そこを二人三脚で構築するのが私の仕事です。
ルーティンに頼らず、脳の「ごきげん」を取る
これらはルーティンかもしれませんが、意図的にガチガチのルーティンを作ろうとは思っていません。その時々で最適な答えは変わるからです。ルーティンに頼るのではなく、自分の「無意識の習慣」を少し変えたいのです。
脳は体の中で一番エネルギーを消費する器官であり、心理学的な「現状維持バイアス」が働くため、急激な変化は大きなストレスになります。うまくいかない選手ほど劇的な変化を望みますが、脳に負担をかけると「嫌だ」と感じ、モチベーションが続きません。
だからこそ、脳にストレスを感じさせないレベルから始め、脳の「ごきげん」をとってほしいのです。負担のない行動から始めれば、脳は変化に気づかず自然と習慣が変わります。無意識の習慣が変われば、試合前のメンタルコントロールも定着し、無意識に結果を出せる自分になっていくのです。
試合前のメンタルコントロールを定着させる「3行ノート」
無意識の力を借りて緊張を解くために一番効果的なのが、ノート・日誌をとることです。スマホではなく手書きがポイントです。心理療法の「エクスプレッシブ・ライティング(筆記開示)」でも実証されている通り、手書きのアウトプットは自分を客観視するメタ認知能力の向上に繋がります。
日誌というと「1ページ書かなきゃ」と思う人がいますが、少しでもストレスを感じてはNGです。脳にストレスを与えないためにも、私は「たった3行でOK」と伝えています。1行でも構いません。必ずアウトプットすることが大事です。
字が汚くて人に見られるのが嫌だという選手もいましたが、日誌は自分のためのもの。自分のためだと腑に落ちれば、人は嫌なことも自然と行動できます。これも心のクセです。
スポーツにおけるメンタルは、鋼のように鍛え上げるとポキッと折れやすくなります。私自身がうつ病を経験し、心を鍛える以上に「心のクセ」を知ることがどれほど大事か身を持って知っています。鋼ではなく、植物のように心を育てる感覚を多くの人に知ってほしいと思います。最後までお読み頂きありがとうございました。




