野球選手におけるメンタルコーチの役割とは?

アスリートの皆さん、はじめまして。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。私は現在、プロ野球選手をはじめ、サッカー、水泳、柔道、卓球など、競技の枠を超えて、一流を目指す多くのアスリートたちの心に寄り添い、パフォーマンスを最大限に引き出すためのサポートを行っています。

私がなぜスポーツメンタルコーチという道を選んだのか。それは、私自身の幼少期からの経験と、人生における大きな挫折が深く関わっています。私は1983年、イギリスで生まれました。生後間もなく日本に移住してきたものの、幼い頃は日本語をうまく話すことができず、言葉の壁にぶつかりました。自分の思いを周囲に伝えられないもどかしさから、周囲と衝突してしまうことも少なくありませんでした。

そんな私が、言葉に頼らずに自分自身を表現できる場所として出会ったのが「野球」でした。7歳から本格的に野球を始め、グラウンドの上では実力さえあれば自分の存在価値を示すことができました。野球は私にとって、社会とのつながりであり、自己表現の全てだったのです。

中学時代にはピッチャーとしてある程度の活躍を見せ、高校は私立の強豪校にスポーツ推薦で入学しました。しかし、そこで私を待っていたのは厳しい現実でした。理不尽な指導や指導者との人間関係の悪化、そしてケガや故障が重なり、私は思い描いていたような結果を全く出すことができず、深い挫折を味わうことになりました。

大学卒業後、一度は一般企業に就職しましたが、激務の中で心と体のバランスを崩し、休職を経験しました。なぜ自分はあの時、マウンドで実力を発揮できなかったのか。なぜ社会に出てからも心のバランスを崩してしまったのか。その原因を突き詰めたいという強い思いから、私は脳科学や心理学、スポーツ科学を貪るように学び始めました。そして、トップアスリートたちと結果を出せない選手たちの間にある「決定的な違い」に気づき、独自のメンタルコーチングのメソッドを構築するに至ったのです。

【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属

プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら

【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから

【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

CONTENTS

メンタルは「鍛える」ものではなく「育てる」もの

スポーツの現場では、いまだに「メンタルが弱いから負けた」「もっと精神を鍛え直せ」といった言葉が飛び交うことがあります。しかし、私はアスリートの皆さんに、まずこの誤解を解いていただきたいと強く願っています。メンタルとは、決して筋肉のように厳しい負荷をかけて「鍛え上げる」ものではありません。

物理的な法則を考えてみてください。硬いもの、つまり鋼のように鍛え上げられたものは、想定外の強い衝撃を受けたときにポキッと折れてしまいます。スポーツという不確実性の高い舞台において、ガチガチに固められた精神は、予想外のトラブルやプレッシャーに直面した瞬間に崩壊しやすいのです。

私が提唱しているのは、メンタルは水のように「しなやかなもの」にしていくべきだという考え方です。そして、メンタルは鍛えるのではなく「育てるもの」です。植物に水をやりすぎるとなじんで枯れてしまうように、無理やりポジティブな思考を詰め込んだり、過剰なプレッシャーを与えたりしても、心は育ちません。毎日の小さな習慣を通じて、少しずつ、しかし確実に育てていくものなのです。

心理学的な視点から見ても、人間の心にはもともと「うまくいく」ための機能が備わっています。しかし、過去の失敗体験や周囲からのネガティブな言葉の蓄積によって、私たちの脳には「思い込みのフタ」が作られてしまいます。この無意識の思い込みが、本来発揮できるはずの潜在能力に制限をかけてしまっているのです。メンタルを育てる第一歩は、この「どうせ自分には無理だ」「失敗してはいけない」という思い込みのフタに気づき、それを取り払うことから始まります。

野球におけるメンタルコーチの役割とは?

私は多くのアスリートをサポートしていますが、原点である野球というスポーツには特別な思い入れがあります。野球は団体競技でありながら、ピッチャーとバッターの1対1の対決が連続するという、非常に特殊な性質を持ったスポーツです。

ここで皆さんに考えていただきたいテーマがあります。野球におけるメンタルコーチの役割とは?という問いです。

多くの人は、メンタルコーチの役割を「試合で緊張しない方法を教えること」や「気合を注入すること」だと勘違いしています。しかし、本当の役割は全く異なります。メンタルコーチは「こうしなさい、ああしなさい」と解決策を上から教え込む「ティーチング」を行う存在ではありません。選手の内面にある課題や葛藤を対話によって解きほぐし、選手自身が自分の力で壁を打ち破るための方法を見つけ出すよう導く「コーチング」を行う存在なのです。

とくに野球のピッチャーは、マウンドの中心で一人ボールを握り、試合の勝敗を左右する強烈な孤独と責任感を背負っています。かつての私がそうであったように、結果を出さなければならないという重圧は、選手の視野を極端に狭くしてしまいます。心理学では、過度なストレス状態に置かれた人間が、目の前のひとつのことしか見えなくなる状態を「視野狭窄」と呼びます。ストライクを入れなければならない、打たれてはいけないと強く思い詰めれば思い詰めるほど、筋肉は硬直し、パフォーマンスは低下してしまいます。

野球におけるメンタルコーチの役割とは?それは、選手が陥っているトンネルビジョンを解消し、心理的な視野を広げてあげることです。私は選手と1対1で深く対話を重ね、「なぜそのプレッシャーを感じているのか」「本当はどうなりたいのか」という内なる声を引き出します。選手が自分自身の思い込みに気づき、自らの意志で行動を選択できるように寄り添うこと。世間的な一般論や指導者の主観を押し付けるのではなく、その選手にしか合わない独自の正解を共に見つけ出す伴走者となることが、私の果たすべき役割だと考えています。

パフォーマンスを左右する「人生のバランスホイール」

アスリートの悩みを聞き続けていく中で、私はある共通点に気がつきました。それは、競技の成績が行き詰まっている選手の多くが、競技以外の部分でも心に余裕を失っているという事実です。

私は選手たちと向き合う際、「人生のバランスホイール」という考え方を用いて現状を分析します。これは人生を構成する要素を以下の8つの項目に分けたものです。

  1. 仕事・キャリア
  2. お金・経済面
  3. 健康面
  4. 家族・パートナー
  5. 人間関係
  6. 学び・自己啓発
  7. 遊び・余暇
  8. 物理的環境

これらの項目がバランスよく満たされているとき、車輪・ホイールはきれいに回り、人は心理的な安定を感じます。しかし、多くのアスリートはこの車輪が極端に歪な形をしています。とくに点数が低くなりがちなのが「人間関係」と「遊び・余暇」の2つです。

スポーツに人生の全てを懸けているアスリートにとって、「遊ぶ」ことは罪悪感を伴う行為のように感じられがちです。しかし、ここでいう「遊び」とは、単に娯楽に興じることだけを指すのではありません。心に「余白」を持つということです。

心理学において、心の余白が失われると、人間は失敗に対する恐怖心が異常に強くなり、新しいことへの挑戦ができなくなると言われています。四六時中、競技のことばかりを考え、自分を追い込みすぎている選手は、結果を出すことが「願い」から「義務」へと変わってしまいます。「勝ちたい」という純粋な思いが「勝たなければ自分の価値はない」という強迫観念にすり替わってしまうのです。

また、「人間関係」の悩みも競技のパフォーマンスに直結します。指導者とのミスコミュニケーションや、チームメイトとの軋轢は、無意識のうちに選手の脳に大きなストレスを与え続けます。いくら技術を磨いても、この人生のバランスホイールのどこかが大きくへこんでいる限り、真の充足感は得られず、どこかで必ず伸び悩む時期がやってきます。スポーツはあくまで、あなたの人生を輝かせるための要素のひとつに過ぎません。アスリートとしての人生を幸せにするためには、まず一人の人間としての人生全体を見渡し、バランスを整えることが不可欠なのです。

潜在能力を引き出す心理的アプローチと事例

では、具体的にどのようにして選手たちの心をほぐし、潜在能力を引き出していくのか。私が実際に関わった事例を交えてお話ししましょう。

ある全国大会出場を目指す団体競技のチームから、メンタルコーチングの依頼を受けたときのことです。そのチームは個々の選手の能力は非常に高いにもかかわらず、試合になるとなぜか勝てないという悩みを抱えていました。私がチームの内部に入ってヒアリングを行うと、根本的な原因がメンタル面にあることがすぐにわかりました。チーム内に目に見えない派閥が存在し、選手同士が本音を言いたくても言えない、心理的に非常に息苦しい環境になっていたのです。

このような状況で「もっとチームワークを高めよう」「ポジティブに考えよう」と上から指導しても、何の意味もありません。私は一人ひとりの選手とじっくりと対話し、彼らが無意識に抱えている「これを言ったら批判されるのではないか」「自分さえ我慢すれば波風が立たない」という思い込みのフタを一つずつ外していく作業を行いました。

心理学において、人が安心して自分の意見を言えたり、自分らしく振る舞えたりする環境のことを「心理的安全性」と呼びます。私は選手同士の信頼関係を再構築し、チーム内に心理的安全性を確保するためのコミュニケーションの場を徹底的に整えました。お互いの価値観を認め合い、失敗を恐れずに意見をぶつけ合える環境ができたとき、チームの雰囲気は劇的に変わりました。結果として、そのチームは依頼からわずか5ヶ月後の全国大会で見事優勝を果たしたのです。

また、個人競技のアスリートの場合でもアプローチの根幹は同じです。世界的な心理学者であるキャロル・S・ドゥエック氏は、人間の能力は生まれつき決まっていると考える「硬直したマインドセット」と、経験や努力によって成長できると考える「しなやかなマインドセット」があることを提唱しています。

結果が出ずに苦しんでいる選手の多くは、失敗を自分の能力の限界の証明だと捉えてしまう硬直したマインドセットに陥っています。私は対話を通じて、「小さな失敗」に対する捉え方を変えるサポートをします。心理学の用語で「リフレーミング」と呼ばれる手法ですが、失敗を「ダメなこと」から「成長のための貴重なフィードバックデータ」へと意味づけを変えるのです。

プロ野球のある一流選手と対話をした際、彼もまた極度の不振から抜け出せずに苦しんでいました。私は彼に「今、一番恐れていることは何か」を問いかけました。彼は「期待に応えられず、ファンや監督を裏切ること」と答えました。それは非常に立派な責任感ですが、同時に彼自身の心を縛り付ける鎖でもありました。私たちは時間をかけて、彼の本来のプレースタイルや、野球を始めた頃の純粋な楽しさを思い出す作業を行いました。世間の評価や結果というコントロールできないものではなく、自分が今日マウンドで実行する投球フォームや、ボールの指先の感覚といった「コントロールできるプロセス」に集中するように意識を向け直したのです。結果を手放し、プロセスにのみ集中できるようになったとき、彼はかつての圧倒的なパフォーマンスを取り戻しました。

「良い加減」で自分らしい競技人生を

私がアスリートの皆さんをお手伝いするうえで、とても大切にしている言葉があります。それは「良い加減」という言葉です。

日本のスポーツ界には、真面目でストイックであることを美徳とする文化が根強くあります。もちろん、一流を目指す過程での努力や忍耐は必要不可欠です。しかし、完璧を求めすぎるあまり、自分を過度に追い込み、苦しくなってしまっては本末転倒です。「いい加減」という言葉はネガティブな意味で使われがちですが、文字通り捉えれば「良い加減」という意味になります。

お腹が空いていないときに無理やりご飯を食べさせられても苦しいだけのように、メンタルのサポートも、知識の詰め込みも、本人にとって「良い加減」でなければ吸収されません。自分にとってちょうどいい心の状態、ちょうどいい力の抜け具合を知ること。それが、最高のパフォーマンスを発揮するための最大の秘訣なのです。

アスリートである前に、あなたは一人の人間です。競技の成績だけであなたの人間としての価値が決まるわけではありません。どうか、結果ばかりに目を向けて心をすり減らすのではなく、競技に向き合っているプロセスそのものを楽しみ、人生のバランスを大切にしてください。

あなたが心から「これをやりたい」と願い、その道を進む決意をしたとき、私は世間一般の常識にとらわれることなく、あなたの心の伴走者として全力でサポートします。メンタルは、今日からでも育てることができます。しなやかで、どんな状況にも適応できる水のようなメンタルを育て、あなた自身の可能性を100%発揮して、豊かで幸せなアスリート人生を歩んでいけることを心から願っています。

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