アスリートの望む結果をメンタル面からサポートする、スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
私は2011年11月からスポーツメンタルコーチとして活動を始め、これまで競技レベルや年齢を問わず、数多くのトップアスリートからアマチュア選手まで、彼らの心と向き合い続けてきました。日々の活動の中で、選手のパフォーマンスが劇的に変化する瞬間に立ち会えることは、この仕事の最大の醍醐味だと感じています。
現在、私は「スポーツメンタルコーチ入門講座」を定期的に開催しているのですが、その際に受講生の方から必ずと言っていいほどいただく質問があります。
これからアスリートを支える職業に就きたい、資格を取りたいと意気込んでいる方にとって、自分に適性があるのかどうかは非常に気になるポイントなのだと思います。
私個人としては、根本に「人の気持ちを支えたい」という純粋な思いがあれば、誰もが向いている仕事だと思っています。当然のことながら、「この選手を心から支えたい」という大前提がなければ絶対に務まらない仕事です。もし、自身の抱えるストレスや嫌々な気持ちを押し殺してアスリートのメンタルを支える仕事に就いた人がいたとしたら、それは間違いなく「向いてない人」になります。
結局のところ、本人のやる気や情熱次第なのかなと思う一方で、長くこの業界にいて様々な方を見てくると、やはり「資質として向いてない人」がいるのもまた事実なのかなと私は思っています。
今回は、アスリートのメンタルサポートを志す皆さんに向けて、私が考える「適性」について、心理学的な観点や実際の事例、そして偉大なアスリートたちの名言を交えながら深くお話ししていきたいと思います。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

最大の分かれ道。「教えたい」と思う人は向いていない?
これは決してネガティブな意味合いや批判として申し上げているわけではありません。ただ純粋に、職業としての「適性」の違いのお話をしています。ですので、フラットな気持ちで読み進めていただけたら嬉しいです。
「支えたい」と「教えたい」。 言葉にすると似たようなニュアンスに聞こえるかもしれませんが、実際の現場でのアプローチやコミュニケーションの在り方においては、この両者は全く異なってきます。
例えば、コミュニケーションの流れを観察しているとよくわかります。会話の中で、常に「自分主導」で話が始まってしまう人は、メンタルコーチには向いていないのかなと思います。相手の話を最後まで聞く前に、「それはこうだよ」「こうするべきだよ」と、自分の持っている知識や経験則を当てはめて解決策を提示してしまう人です。
SNSなどの発信を見ていても、その違いは顕著に表れます。専門的な知識を声高に伝える人、自分がどれだけ素晴らしいサポートをしてきたかという実績や理論を強調して載せる人がいます。そういった発信の背景には、無意識のうちに「自分の知識を教えたい」「自分の凄さを認めてほしい」という承認欲求が見え隠れしています。
沢山の人に注目されたい、カリスマ的な存在として尊敬されたいと思う人ほど、選手を裏方として支える気持ちとは逆の「教えたい」という矢印が自分に向いてしまっているのです。もしご自身の中に「指導者として上に立ちたい」「知識を授けたい」という思いが強いのであれば、それはコーチではなく、先生やメンタルトレーナーの方が向いているサインなのかもしれません。
求められる資質は「調和性」と「協調性」
他の職業に例えるなら、看護師、保育士、介護士、あるいはチームのマネージャーさんと同じような資質が求められます。それは「調和性」や「協調性」です。
チームのマネージャーさんを想像すると非常に分かりやすいと思います。どんなに優秀なマネージャーであっても、表舞台に立つ芸能人やプロスポーツ選手よりも目立っているマネージャーさんなんて、世の中にはいないですよね。マネージャーの喜びは、自分が輝くことではなく、自分が支えている存在が最高のパフォーマンスを発揮し、スポットライトを浴びて輝くことです。
メンタルコーチもそれと全く一緒だと思うのです。 主役はいつだってアスリート本人です。なのに、世の中を見渡してみると、サポートしている選手よりも前に出て、目立つような行動をしてしまう「自称・メンタルコーチ」が多いなと感じてしまうのは私だけでしょうか。
「私がこの選手を勝たせました」「私のメソッドのおかげで優勝しました」とアピールしてしまう人は、アスリートの心に寄り添うメンタルコーチよりも、専門技術を指導するメンタルトレーナーやコンサルタントの方が圧倒的に向いていると思うのです。
「メンタルコーチング」と「メンタルトレーニング」は似て非なるもの
ここで明確にしておきたいのは、「メンタルコーチング」と「メンタルトレーニング」は全く似て非なるものだということです。
言葉が似ているため世間ではよく混同されがちですが、その人の持つ資質や性格に合わせて、選ぶべき手法は異なってくると私は思っています。
先ほども少し触れましたが、この二つは「医者」と「看護師」の関係性に似ています。 医者(メンタルトレーナー)は、患者(選手)の症状を診断し、「この症状にはこの薬を飲みなさい」「こういうリハビリをしなさい」と具体的な解決策やトレーニング手法を処方し、教え導きます。 一方で看護師(メンタルコーチ)は、患者の痛みに寄り添い、日々の些細な変化に気づき、患者自身が本来持っている自然治癒力(内発的な力)を引き出すための環境づくりやメンタルケアを行います。
医者と看護師、両方の役割を一人で同時に完璧にこなすことなんて無理だと思っています。求められるマインドセットも、アプローチのベクトルも全く逆だからです。
選手側から見たら、「結果が出るならどっちでもいいじゃん」と思われがちです。しかし厳密には、選手自身がその時々のフェーズにおいて「メンタルに求めていること」は大きく変わってきます。新しい武器を求めている時はトレーナーが適していますが、自分の中にある答えを見つけ出し、迷いや葛藤を整理したい時は、絶対にコーチングが必要なのです。
こうした理由から、弊社では事前に資格講座にお申し込みいただく際、必ず「適性検査」をさせていただいております。そして、大変心苦しいことではありますが、適性検査を通じて「不合格」をお伝えすることも少なくありません。
なぜなら、私たちは「真にメンタルコーチに相応しい人を輩出すること」を何よりも大切にしているからです。適性検査の結果、「この方は教えることや指導することに長けている」と判断したメンタルトレーナーに相応しい方には、弊社の講座ではなく、優れたメンタルトレーニングのスクールをご紹介するようにしています。それが、その方自身の未来にとっても、ひいてはサポートを受けるアスリートにとっても最善の選択だと信じているからです。
心理学が証明する「自己決定感」の絶大な力
その上で、私たちスポーツメンタルコーチは、とにかく「選手の話を聞くこと」を一番に大事にしています。「教える」こと以上に「寄り添う」ことに重きを置くのには、明確な心理学的な理由が存在します。
それは、選手の意思決定を尊重することで生まれる究極のモチベーション、「自己決定感」を引き出すことを目的にしているからです。
心理学の世界において非常に有名な「自己決定理論」というものがあります。アメリカの心理学者であるエドワード・デシとリチャード・ライアンによって提唱されたこの理論では、人間の内発的動機づけを高めるためには、3つの心理的欲求が満たされる必要があるとされています。それが「有能性」「関係性」、そして最も重要なのが「自律性」です。この自律性こそが「自己決定感」にあたります。

人から「これをやりなさい」「こういう考え方をしなさい」と教え込まれ、やらされている状態では、一時的に行動は変わるかもしれませんが、困難な壁にぶつかった時に心がポッキリと折れてしまいます。しかし、「自分がこうしたいからやるんだ」「自分でこの道を選んだんだ」という自己決定感に満ちている選手は、どんなプレッシャーや挫折の中でも、驚くほどの粘り強さとパフォーマンスを発揮します。
もちろん、私はメンタルトレーニングを否定しているわけでは決してありません。リラクゼーション法やイメージトレーニングなど、確立された理論に基づくトレーニングは非常に有効です。しかし、理論的にどれだけ正しくても、人間の心は機械ではありません。「理論通りにならない時に脆くなりがち」なのが、型にはめるトレーニングの最大のデメリットだと私は思っています。
だからこそ、スポーツメンタルコーチは選手に「正解」を与えません。ひたすら寄り添い、問いかけ、選手自身が自分の内面と向き合い、自らの意思で答えを出し、決断するプロセスを全力でサポートするのです。
事例:スランプに陥った選手を変えた「問いかけ」
ここで一つ、私が過去に関わった事例をご紹介します。
あるプロサッカー選手が、深刻なスランプに陥っていました。彼は真面目で、それまで多くの指導者やメンタルトレーナーから様々なアドバイスを受け、メンタル強化のメソッドも一通り実践していました。
- 「ミスを恐れないようにポジティブな言葉を唱えろ」
- 「深呼吸をしてリラックスしろ」
それらの教えは頭では理解しているものの、いざ試合になると体が縮こまり、本来の動きができなくなっていたのです。
彼に対して、私は一切の解決策を「教え」ませんでした。ただひたすらに、彼の言葉にならない感情に寄り添い、じっくりと話を聴きました。
HAYATO「今、一番怖いものは何ですか?」
「本当は、どんなプレーをしている時の自分が一番好きですか?」
何度も対話を重ねる中で、彼はふと涙を流し、こう言いました。



「ずっと、期待に応えなきゃいけない、周りを失望させちゃいけないって……自分のためにプレーしていませんでした。本当はただ、あの頃みたいに無我夢中でボールを追いかけたいだけなんです」
彼を苦しめていたのは、メンタルの弱さではなく、「他人の期待」という外側からの圧力によって奪われていた「自律性」でした。そこに自分で気づき、「周りのためではなく、自分が楽しむためにやる」と自ら決断した瞬間から、彼の表情は劇的に明るくなり、見違えるようなパフォーマンスを取り戻していきました。
これこそが、教えるのではなく、寄り添い、引き出すコーチングの真髄なのです。
偉大なアスリートの名言に見る「自ら決める」ことの尊さ
世界的な結果を残しているトップアスリートたちの言葉を紐解くと、彼らがいかにこの「自己決定感」を大切にしているかがよくわかります。
例えば、サッカーの本田圭佑氏は、常に自らの意思で困難な道を選び続け、こう語っています。
挫折は過程。最後に成功すれば、挫折は過程に変わる
さらに、バスケットボールの神様、マイケル・ジョーダン氏の有名な言葉。
私は失敗を受け入れることができる。誰でも、何かに失敗するものだ。しかし、私は挑戦をしないことは受け入れることはできない。
彼らに共通しているのは、誰かに言われたからやるのではなく、成功も失敗もすべて「自分で引き受ける」という強烈な当事者意識です。自ら決断したことだからこそ、どんなに苦しい練習にも耐えられ、敗北を味わっても再び立ち上がることができるのです。
お互いを補完し合い、アスリートの未来へ繋ぐ
繰り返しになりますが、「スポーツメンタルコーチに向いていない=メンタルサポートの仕事自体に向いていない」というわけではありません。
アスリートを支えるという目的は同じでも、アプローチの仕方が違うだけです。
メンタルトレーナーが選手の「武器」を増やし、メンタルコーチが選手の「内なるエンジン」を点火する。お互いの立場で、それぞれの得意な領域を活かし、いいところを上手に補完しあえたら、それが本当の意味でアスリートの輝かしい未来に繋がっていくと私は確信しています。
これからアスリートのメンタルを支える仕事を目指す方は、ぜひ一度、ご自身の内面と向き合ってみてください。
あなたは、前に立って「教え、導きたい」ですか?
それとも、後ろから「寄り添い、支えたい」ですか?
一人でも多くの支援者が正しいポジションにつき、一人でも多くのアスリートが救われる世界になることを祈って。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。










