失敗やミスは絶対にダメ?アスリートが陥る完璧主義の罠
スポーツを頑張る選手の心を支える仕事を2011年からしてます。 スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
これまで、本当に数多くの選手をサポートしてきました。競技を始めたばかりで夢を追いかけるアマチュア選手から始まり、今では世界を舞台に戦うオリンピック代表選手や、厳しい勝負の世界に身を置くプロアスリートまで、幅広い層のサポートを行っております。
これまでに1万人以上のスポーツ選手と接してきましたが、その中で必ずと言っていいほど頻繁に話題になるのが「完璧主義」についての悩みです。スポーツにおいて、メンタルをいかにコントロールするかは勝敗を分ける極めて重要な要素ですが、特にこの完璧主義という性質は、アスリートの心に良くも悪くも多大な影響を与えます。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

なぜアスリートは完璧を目指してしまうのか?
一般的に、アスリートは完璧を目指す生き物です。 日々、肉体の限界を超えるような辛い練習や、精神を削るようなハードなトレーニングを黙々とこなすことができるのは、心の底で「完璧を目指すことこそが、最高の結果に繋がる」と強く信じているからです。だからこそ、常に自分自身の理想の姿を思い描き、妥協することなくさらなる高みを目指して努力を続けることができます。
完璧を目指す競技の代表例といえば、フィギュアスケートやダーツ、ボウリング、さらにはゴルフなどが挙げられます。これらの競技は、たった1度の失敗や小さなミスが、最終的な順位やスコアに直結し、致命的な影響を与える競技特性を持っています。プロの世界であれば、その1つのミスが文字通り人生を左右すると言っても過言ではありません。 だからこそ、常にノーミスで完璧な演技やプレーを目指すのが、スポーツ選手の宿命とも言えるでしょう。
しかし、失敗が許されないというプレッシャーは、何も今挙げたような個人競技に限った話ではありません。野球やサッカー、バスケットボールといったチームスポーツでも全く同じことが言えます。
たとえば、野球においてバッターは「7割は失敗する(アウトになる)」スポーツだと言われています。サッカーでも、放ったシュートがゴールに決まる確率は10%程度あれば優秀だと言われることがあります。しかし、そのような確率論を頭でどれだけ理解していたとしても、いざグラウンドやピッチに立てば、選手は無意識のうちに「完璧でありたい」「絶対に決めたい」と強く願うものです。
失敗を許せない心に潜む心理学的な理由
この「失敗やミスを絶対に許せない」という痛切な気持ちの背景には、強烈な完璧主義が潜んでいます。
そして何よりも忘れてはならないのが、「自分のたった一つの失敗によって、チーム全体の勝敗に悪影響を与えてしまうかもしれない」という責任感の重さです。チームメイトや監督、そして応援してくれる人たちの期待を裏切りたくないという心の表れでもあります。だからこそ、失敗やミスを完全になくし、チームに最大限の貢献をしたいという純粋な気持ちが、いつしか過度なプレッシャーとなり、空回りする焦りへと生まれ変わってしまうのが普通なのです。
心理学の視点から見ると、このような完璧主義が行き過ぎた状態は「全か無かの思考(白黒思考)」と呼ばれる認知の歪み(物事の捉え方の極端な癖)を引き起こしやすくなります。つまり、「100点満点(完璧)でなければ、0点(大失敗)と同じだ」と極端に考えてしまう状態です。
この思考パターンに陥ると、ほんのわずかなミスをしただけでも自分を激しく責め立てるようになります。すると脳の扁桃体が過剰に反応して不安や緊張を増幅させ、結果として筋肉が硬直して普段通りのパフォーマンスが発揮できなくなるリスクが高まってしまうのです。
完璧になれない葛藤と向き合う
完璧を目指そうと懸命に努力しても、人間である以上、決して完璧にはなれない。 「完璧は目指すべきなのか?それとも、もう完璧は諦めた方がいいのか?」 多くの選手がこの矛盾に直面し、相当な葛藤を抱え、深く悩むことになります。だからこそ、完璧を目指しても理想に届かず、苦しむ選手が後を絶たないのです。
どれだけ過酷な練習を積んでも、どれだけ新しい技術や戦術を学んでも、私たちスポーツの世界において「100%常に完璧でい続ける人」は絶対に存在しません。 どれほど世界を熱狂させる素晴らしい選手であっても、必ず失敗はやってきます。あのイチローさんだって、サッカー界の至宝であるメッシやクリスティアーノ・ロナウドだって、数え切れないほどのミスを経験してきました。
しかし、「人間なのだから失敗して当然だ」という事実を頭(理性)ではわかっていても、心(感情)で理解し、本当に受け入れるのは全く別の次元の話になります。なぜなら、多くのアスリートは「完璧を目指さないこと(=自分に妥協すること)を一度でも許してしまったら、選手としての成長がそこで止まってしまうのではないか」という強い恐怖心を抱いているからです。
メンタルを安定させる「メタ認知」の力
だからこそ、私はスポーツメンタルコーチとして、完璧主義という呪縛に苦しみ、身動きが取れなくなっているアスリートにある具体的なアプローチをお伝えしています。
それが、「完璧主義のメリットとデメリットを明確に理解すること」です。
心理学的には、自分の感情や思考を客観的に観察する「メタ認知」の能力を高める作業になります。これらを理解し、俯瞰して見ることで、極端な思考のブレをなくし、メンタルの安定を作っていくことができるのです。
そこで選手の皆さんにぜひチャレンジしてほしいのが、完璧主義を目指すことで得られる「メリット」と「デメリット」を、ノートに箇条書きでいいので書き出すというワークです。頭の中で考えるだけでなく、実際に紙に書き出すことで「外在化(エクスプレッシブ・ライティング)」という心理的効果が働き、自分自身の完璧主義という目に見えない重圧を切り離して客観視しやすくなります。
そして、特にデメリットを書き出したら、そのデメリットを感じたときにどう対処するか、あらかじめ「対策(コーピング)」を考えておいてほしいのです。
苦しい時は自分を許す「セルフ・コンパッション」
例えば、私がサポートしているあるフィギュアスケート選手の話をご紹介します。彼女に完璧主義のデメリットについて尋ねたところ、こんな回答をしてくれました。
「完璧を目指せば目指すほど、自分の心が苦しくなることです」
そこで私は、「じゃあ、そのデメリットを感じて心が苦しくなったときのための対策ってなんだと思う?」と問いかけました。 すると彼女は、「鈴木さんのメンタルコーチングを受けることですね!」と笑いながら話してくれました。それは少し冗談っぽく話してくれたのですが、それ以外にも非常に素晴らしい対策を自ら導き出していました。
それは、「心が苦しいと思ったら、そんな自分を許す」であったり、「苦しいのは、自分がさらに高みを目指して挑戦しているサインなんだと思って、ありのままの自分を受け入れる」というものでした。
これは心理学でいう「セルフ・コンパッション(自分への慈悲)」と「リフレーミング(意味づけの転換)」という非常に効果的なメンタルコントロールの手法です。失敗やミスをした自分を厳しく罰するのではなく、大切な親友に接するように自分を思いやる。そして、苦しみを「成長への証」としてポジティブな意味に変換するのです。
完璧主義との上手な付き合い方
このような形で、決して「完璧を目指すこと」自体が悪いと否定するのではなく、完璧を目指して心が苦しくなった時の「心の逃げ道(対策)」を事前に論理的に準備しておくことにしたのです。 その結果、彼女は本番の試合はもちろん、日々の練習でも失敗やミスを過度に恐れず、思い切った演技ができるたくましい選手へと育っていきました。
私が主催するセミナーでは、こうしたメンタルを整えるための具体的な仕組みや、科学的な理由に基づいたトレーニング方法をお伝えしております。また、ブログやコラムでは、中高生の皆さんにもスッと心に落ちるような、わかりやすい言葉や例えを使って情報発信をしております。
完璧主義は、決してあなたを苦しめるだけの敵ではありません。正しい付き合い方を知れば、あなたをより高い次元へと引き上げてくれる強力な武器になります。 当記事が、少しでも皆さんの豊かなスポーツライフにお役に立てたら幸いです。
最後までお読み頂きまして、本当にありがとうございます。




