メンタルを変えたいなら、まずは日常の言葉を変えよう
スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。私は現在、年間で1000人以上のスポーツ選手のメンタル面をサポートしています。
これまでサポートしてきた選手の中には、引退間際だった柔道選手が全日本の舞台で見事優勝を果たしたり、同じく引退を考えていたソフトボール選手が自己最高の結果を出したり、ある陸上選手がオリンピックという大舞台で自己ベストを更新したりと、数々の劇的な変化を目の当たりにしてきました。
彼らはいかにして「崖っぷちのメンタル」から這い上がり、最高の結果を引き出すことができたのでしょうか。私がスポーツメンタルコーチングを行って9年目のキャリアになりますが、一貫して大切にしているものがあります。
それは、日々の生活や競技の中で使う「言葉」です。メンタルを変えたいのであれば、まずは自分が発する言葉を変える必要があります。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

多くのアスリートが抱える「本番での不安」とその心理的背景
日々現場に立っていると、本当に多くのスポーツ選手がメンタル面において深い悩みを抱えていることに気づかされます。その悩みの多くは、
- 「大事な試合でベストパフォーマンスが出せるか不安だ」
- 「緊張しすぎて実力を全く発揮できない」
- 「練習通りの本来の力を素直に出せれば絶対に勝てるはずなのに」
といったものです。
心理学的な視点から見ると、こうした試合前の強い不安や緊張は、プレッシャーによる「闘争・逃走反応」と呼ばれる交感神経の過剰な働きが原因です。適度な緊張は集中力を高めるために必要ですが、過度な緊張は視野を狭くし、筋肉を硬直させ、思考をネガティブな方向へと引っ張ってしまいます。
「失敗したらどうしよう」という不安が頭をよぎることで、脳は失敗を避けることばかりにエネルギーを消費し、本来のパフォーマンスを発揮するための運動指令がスムーズに体に伝わらなくなってしまうのです。
根性論の限界と、私自身が経験したどん底の野球人生
私自身、不安や重圧に苦しむ彼らの気持ちが痛いほどよくわかります。なぜなら、私自身もずっと野球をしており、同じような苦しみを味わってきたからです。
野球を通じて多くの素晴らしい経験をさせていただきましたが、決して順風満帆ではありませんでした。周りの仲間や指導者、コーチ、監督からは常に「お前はメンタルが弱い」と揶揄され続けるスポーツ人生でした。当時の私のポジションはピッチャー。野球における花形のポジションであり、試合の勝敗や結果を大きく左右する重要な役割です。
調子がいい時は本当に素晴らしいピッチングができるのですが、一度歯車が狂うと悪い状態が延々と続きました。プレッシャーに押しつぶされ、終いにはキャッチャーミットめがけてボールを投げることすらできず、ストライクが全く入らない状態に陥ってしまったのです。当時はまだスポーツ界に「イップス」という言葉は浸透していませんでしたが、今振り返れば間違いなくイップスそのものでした。
そんな私の不調をみかねて、周囲は
- 「もっとメンタルを鍛えろ!」
- 「お前は根性がないからだ!」
と精神論をぶつけてきました。最後には「試合前に気合いを入れてやる!」と強烈なビンタをもらってマウンドに登るような、そんな時代でした。しかし、心理学的に見れば、恐怖や罰による指導は、一時的に行動を抑制させることはあっても、自発的なパフォーマンスの向上には繋がりません。
むしろ「失敗すれば怒られる」という学習性無力感を生み出し、萎縮するだけの結果に終わります。当然のように、私は野球というスポーツに対して面白いと思えなくなり、次第に大好きなはずの野球が嫌いになりかけていました。
一人のコーチとの出会いが生んだ「心理的安全性」と転機
そんな自分を変える、人生の大きなキッカケとなったのが一人の臨時コーチの存在です。この臨時コーチは、従来の指導者のように怒ることも、大声で叱ることもありませんでした。ただ純粋に、野球の楽しさを思い出させてくれたのです。
ピッチャーという重圧のかかるポジションだけでなく、ファーストや外野のポジションも守らせてもらい、「ああ、野球って本来こんなに楽しいものだったんだ」と思い出すキッカケを与えてくれました。近年、組織心理学の分野で「心理的安全性」という言葉が注目されていますが、まさにそのコーチは「失敗しても怒られない、自分の居場所がある」という心理的安全性を私に与えてくれたのです。
人との出会いや環境の変化によって、ここまで自分のメンタルが劇的に変わるという経験をさせてもらいました。だからこそ、
- 「好きなスポーツをずっと好きなままでいたい」
- 「野球を心から楽しみたい」
という自分自身の本音に従い、ピッチャーを辞める決意をしました。
無意識のメンタル変化と、言葉の重要性
投手という過度なプレッシャーから解放された私は、心に余裕が生まれ、次第に「言葉」にも大きな変化が起きました。無意識のうちに、前向きでポジティブな言葉を発するようになっていたのです。
気持ちが前向きになり、メンタル面が非常に充実していたのを今でも鮮明に覚えています。以前は嫌いで仕方がなかった厳しい走り込みでも、自ら進んで力を出し切るようになりました。それは「努力しなければならない」「頑張らなければならない」という義務感ではなく、「楽しいからやっている、もっと上手くなりたい」という純粋な思いへと変わっていたからです。高校最後の1年間は、まさにフロー状態と呼ばれるような、高い集中力と充実感の中で過ごすことができました。
この経験から、心の充実と体の充実は深く繋がっていることを身をもって体験しました。だからこそ、日々の気持ちのあり方が本当に大事だと確信しています。そして、その前向きな気持ちを作り出し、脳にスイッチを入れるキッカケになる「言葉」こそが、メンタルに絶大な影響を与えるのです。現代のスポーツの世界では、メンタルを強化するトレーニングの一環として、自分が発する言葉をコントロールすることが不可欠となっています。
否定形の言葉は身を滅ぼす?「諦めない」の裏に潜む心理学の罠
私自身が現役時代に自分に言い聞かせていた言葉の一つに「諦めない」というものがありました。諦めない限りは夢は続くと思うし、諦めない限りはそこに可能性が残ると思っていたからです。この考えには、多くの人が共感してくれると思いますし、今の時代でもスポーツの現場では「最後まで諦めない」という言葉が頻繁に使われています。
しかし、スポーツメンタルコーチとして脳科学と心の仕組みを深く勉強していく中で、どうやらこういった「〜しない」という否定形の言葉のパターンは、メンタル面において非常にマイナスに働くことがわかってきました。
その理由の一つが「カリギュラ効果」と呼ばれる心理現象です。人は「〜してはいけない」と禁止されると、逆にその禁止された先の行動が気になってしまい、無意識にやってしまうという性質を持っています。例えば、「絶対にここを見ないでください」と言われると見たくなってしまったり、テレビでピー音が流れるとその隠された言葉が余計に気になったりするものです。
さらに重要なのは、「脳は否定形を正しく認識できない」という事実です。脳科学や認知心理学の分野では「シロクマ効果」としても知られていますが、例えば「ミッキーマウスを絶対に思い浮かべないでください」と言われたら、あなたの脳は勝手にミッキーマウスの姿をイメージしてしまいますよね? 否定するためには、まずその対象を脳内でリアルにイメージしなければならないからです。
そして、私たちは脳でイメージした通りに、身体が勝手に動き出してしまう「観念運動作用」という仕組みを持っています。目の前で酸っぱそうなレモンを食べている人を見ただけで、無意識に唾液が溢れてくるように、イメージした通りに体は反応してしまうのです。
つまり、「諦めない」と何度も自分に言い聞かせる人は、脳内で常に「諦めている自分」を強烈にイメージしてしまっているのです。その結果、無意識のうちに諦めが早い選手になりやすくなってしまいます。それを自ら体現してしまっていたのが、過去の私だったのだと思います。これは高いパフォーマンスを追求するスポーツ選手にとって、かなり致命的な問題です。
感覚から理論へ。言葉を味方につけて最高の結果を
今となってはそれらすべてが良い経験となり、私の指導の糧となっていますが、同じように苦しむ選手を一人でも減らしたい、言葉に対してもっと敏感になってほしいと強く願うばかりです。そのための啓蒙活動としてSNSで発信を続けた結果、現在ではフォロワー数が15万人を超えるまでになりました。
きっと、多くのスポーツ選手が「言葉とメンタルには大きな繋がりがある」ということに、無意識のレベルでは気づいているはずです。しかし、それがなんとなくの経験則であったり、感覚的に「ポジティブな方が大事だ」と思っているだけの選手がまだまだ多いのが現状です。
だからこそ、そういったフワッとした感覚だけでなく、しっかりとした心理学や脳科学の理論に基づいて、「なぜその言葉を使うべきなのか」を理解して実践できるスポーツ選手、そしてオリンピックなどの大舞台で活躍できる選手を一人でも多く育てていきたいと考えています。
言葉を変えれば、脳のイメージが変わり、行動が変わり、結果が変わります。心からイキイキと大好きな競技に打ち込み、最高の笑顔を見せてくれるスポーツ選手を、これからも全力で増やしていきたいと思います。




