こんにちは、スポーツメンタルコーチの鈴木颯人です。
現在、私の総SNSフォロワー数はありがたいことに17万人を超え、日々、全国の多くのアスリートや指導者の方々から切実な相談メールが届きます。その数ある相談の中で、競技レベルや年齢を問わず、圧倒的に一番多い質問があります。
それは、「浮き沈みする気持ちとどう向き合えばいいのか?」という切実な悩みです。
アスリートの皆さんなら、一度は経験があるはずです。調子が良い時は自信に満ち溢れ、どんなプレーも成功する気がする。しかし、ひとたびミスをしたり、調子が悪かったりすると、途端に気持ちが深く沈み込み、次の一歩を踏み出すのが怖くなる。特に、日々の練習の成果が試される「試合の結果」に、私たちの心は大きく左右されがちです。
私が直接メンタルサポートをしているトップレベルの選手たちであっても、当然のように気持ちの起伏は存在します。「一流選手は常に心が安定している」というのは大きな誤解です。厳しい勝負の世界で生きている以上、結果に対して心が揺れ動くのは、人間として、そして本気で競技に向き合っているアスリートとしてごく自然な反応なのです。起伏が全くない人など、この世にそうそういません。
しかし、ここで多くの人が陥りがちな「大きな勘違い」があります。それは、気持ちの波が激しい状態を「自分はモチベーションに問題があるんだ」「気持ちが弱いからだ」と自己否定の材料にしてしまうことです。
【コラムの著者】鈴木颯人

一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会 代表理事
慶應義塾大学健康情報コンソーシアム 会員
メンタルトレーニング推進国会議員連盟 所属
プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら
【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから
【著書】
・弱いメンタルに劇的に効くアスリートの言葉(三五館シンシャ)
・一流をめざすメンタル術(三五館シンシャ)
・モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術(KADOKAWA)
・最高のリーダーは「命令なし」で人を動かす(KADOKAWA)
・メンタルコーチが教える潜在能力を100%発揮する方法(KADOKAWA)
・親が変われば子どもが変わる(三五館シンシャ)
・うちの子のやる気スイッチを押す方法教えてください(かんき出版)
・アスリートの心を磨く言葉と魂を揺さぶる絶景(PIE International) 他多数

気持ちの波は「モチベーション」の問題ではない
気持ちが落ち込んだ時、多くのアスリートはモチベーションの上げ方や、やる気の高め方について書かれた本を読んだり、動画を見たりして解決しようとします。しかし、それで根本的に解決したという話は殆ど聞きません。
なぜなら、心理学的な観点から見ても、「気持ちの浮き沈み」と「モチベーション(動機づけ)」は全く異なるメカニズムで動いており、別々に分けて考える必要があるからです。
モチベーションとは、目標に向かって行動を起こし、それを維持するための「日々の行動活力」です。自己決定理論という心理学の理論において、モチベーションは「それが好きだからやる(内発的動機づけ)」や「目標を達成したいからやる(外発的動機づけ)」といった、行動のエンジンとなる部分を指します。
一方で、気持ちの浮き沈みというのは、「起きた出来事(結果)に対する感情的な反応」です。つまり、モチベーションというエンジンがどれだけ大きくても、目の前の「結果」に対する捉え方が偏っていれば、感情は激しく上下してしまうのです。やる気があるからこそ、負けた時に深く落ち込むとも言えます。
したがって、浮き沈みする気持ちの根本的な原因は、「自分の感情が、自分ではコントロールできない『結果』に過剰に依存し、左右されている」という事実に気づく必要があります。結果に対する認知的評価(物事をどう捉えるか)を変えない限り、どんなにモチベーションを高めても、この苦しみからは抜け出せません。
結果に心が支配される心理的メカニズム
なぜ、私たちは結果によってこれほどまでに心を乱されるのでしょうか。心理学における「コントロールの所在(ローカス・オブ・コントロール)」という概念で説明ができます。
人間は、自分がコントロールできないもの(勝敗、対戦相手の調子、審判の判定など)に意識が向いている時、強い不安や無力感を感じやすくなります。試合中に「打たれたらどうしよう」「ミスをして負けたらどうしよう」と結果ばかりにフォーカスすると、脳はそれを脅威とみなし、交感神経が過剰に優位になります。その結果、筋肉は緊張し、視野は狭くなり、冷静な判断ができなくなります。
あるプロ野球選手(先発投手)の事例をお話ししましょう。彼は一昨年の契約更改で年俸1億円を突破するほどの実力者ですが、かつては試合中の激しい感情の波に苦しんでいました。
先発投手としてマウンドに上がれば、当然、最高の結果を出せる日もあれば、不運な当たりでピンチを迎える日もあります。以前の彼は、前の回を0点に抑えても、次の回で点数を取られると、その「失点という結果」に感情が完全に支配されてしまっていました。
心理学でいう「視野狭窄」の状態に陥り、打者を打ち取ることよりも「これ以上打たれてはいけない」という焦りが先行します。気持ちが乱れれば乱れるほど、失った自信を取り戻そうとして、力任せにボールを投げてしまう。結果的に制球が定まらず、四球を連発し、自ら試合を打ち壊してしまうことが少なくありませんでした。結果に感情が比例し、パフォーマンスの崩壊を招く典型的な悪循環です。
メンタルを整える最強の武器「ルーティン」
そこで、私たちは彼が試合中に気持ちの浮き沈みを改善し、本来のパフォーマンスを取り戻すために、ある心理学的アプローチを取り入れました。
それが、「感情の状態に関わらず、投球直前のルーティン(決まりきった動作)を完全に固定する」ということです。
心理学には「アンカリング」という手法があります。特定の身体的動作(アンカー)を行うことで、あらかじめ設定しておいた特定の精神状態や感情(リソース)を瞬時に引き出すテクニックです。また、今この瞬間の体の感覚に意識を向けることで、過去のミスや未来の不安から脳を引き離す「グラウンディング」の効果もあります。
彼には、打たれて気持ちが沈んでいようが、三振を取って興奮していようが、マウンドでロジンバッグを触る手順、深呼吸のタイミング、足の踏み出し方まで、投げる直前の動作を毎回全く同じにしてもらいました。
このルーティンを固定することで、「失点した(過去)」や「次打たれたらどうしよう(未来)」に向いていた意識が、「今から行う決まりきった動作(現在)」へと強制的に引き戻されます。コントロールできない結果から、コントロールできる自分の身体動作へと意識のベクトルが変わるのです。
その結果、彼は失点後でも感情の波に飲み込まれることなく、冷静に次の1球に集中できるようになりました。パフォーマンスは劇的に安定し、シーズンを通して好成績を残し、見事1億円プレイヤーの仲間入りを果たしたのです。
捉え方を変え、自分だけの「戻る場所」を作る
スポーツにおいて、メンタルの浮き沈みを整えることは、決して「感情をなくすこと」ではありません。湧き上がる感情を否定するのではなく、その波に飲み込まれないための技術を身につけることです。
繰り返しますが、浮き沈みとモチベーションを一緒にしてはいけません。浮き沈みする気持ちが生まれるのは、あなたの人間性が弱いからでも、やる気がないからでもなく、「物事に対する捉え方が、コントロールできない結果へと偏っている」からに過ぎないのです。
その偏りに気づかず、結果ばかりを追い求めていると、本来の自分の力を取り戻すのは非常に困難になります。だからこそ、どんなに心が浮き沈みしても、強制的に「フラットな自分」へと元に戻せるルーティンは、アスリートにとって絶大な威力を発揮します。
あなたがもし今、結果が出ずに気持ちが落ち込んでいるのなら、まずは結果から意識を離し、「今、自分にコントロールできる行動は何か」に目を向けてみてください。そして、心が乱れた時にいつでも帰ってこれる、あなただけの「ルーティン」を見つけてみましょう。それが、真の意味でメンタルを整え、あなた自身のパフォーマンスを最大限に発揮するための第一歩となるはずです。




