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「自分の人生を良い方向へ変えてくれた一番の理解者」

荒賀龍太郎さんにとってスポーツメンタルコーチとは

日本発祥のスポーツであり長い歴史を持つ武道「空手」。この競技の組手種目にて日本の先駆者として長年活躍してきた選手がいます。それが東京オリンピック銅メダリストの荒賀龍太郎さんです。5度の全日本選手権優勝と2016年世界選手権優勝をはじめ、日本だけでなく世界最高峰の舞台で数々のタイトルを獲得。
世界屈指と言われる素早い動きから繰り出す鋭い「突き」が持ち味で卓越したスピードで次々と得点とっていく姿から「スピードドラゴン」という呼び名のつく荒賀さんですが、その大活躍の裏側にはたくさんの苦悩と困難を乗り越えてきた経験がありました。

そして、そんな彼の競技生活を支えたのがスポーツメンタルコーチングでした。今回は過去の競技経験や現在の活動内容を含めて荒賀さん本人にとってのスポーツメンタルコーチという存在、また彼の担当スポーツメンタルコーチであった鈴木颯人さんとの今までの歩みについて尋ねます。

目次

  • 空手を始めたきっかけから世界を獲るまでの軌跡
  • 競技人生を変えたスポーツメンタルコーチとの出会い
  • スポーツメンタルコーチングで変わった競技生活と自身の考え方
  • 現在の活動と自身の目指す空手のスポーツシーンの姿

空手を始めたきっかけから世界を獲るまでの軌跡

 

-荒賀さんが空手を始めたきっかけを聞かせてください。

 

元々、両親が空手の道場の先生だったこともあり、物心ついた時には道着を着て空手をしていました。両親からは3歳から始めたと言われていますが、個人的には正直いつ始めたのかは覚えていません。僕は三兄弟で全員空手をしていたので、もう生活の一部に空手があるような感じでしたし、小学生の頃も学校から帰ってきたらそのまま道場に行っては練習をするような環境でした。

 

競技としては幼少から始めており、幼稚園児の時は地元亀岡市で行われていた幼児向けの大会、小学生の時は京都府の大会がどちらも1年に1回だけ開催されていたので出場していました。でも当時は大会での勝ち負けよりも、空手を通じてできた同年代の友達と一緒に練習や試合をしたり遊んだりすることが楽しくて空手を続けていました。

 

-競技で本格的に世界のトップを目指し始めたタイミングはいつ頃でしょうか?

 

小学生を対象とした空手の全国大会が初めて開催されたのは、僕が小学5年生の時だったのですがこの大会の小学校5年生の部で優勝し初代王者となりました。その時に日本一になった嬉しさと共に湧き上がってきたのが、自分がこの競技でもっと高みを目指すことができるという自信でした。

 

また元々、父親が第一回の世界選手権の日本代表だったこともあり、小さい頃から世界の舞台について聞かされていたので、小学校の卒業文集には当時は想像もできていなかったですが世界チャンピオンになると書いた記憶もあります。

 

そして僕が中学2年生の時に、6個年上の姉がメキシコで開催される世界選手権へ出場することになり一緒に観に行ったことも僕が世界一を目指す大きなきっかけになりました。その大会で姉が優勝して世界チャンピオンになったのですが、自分の中で今まで漠然としていた世界チャンピオンという目標が、自分の姉という身近な存在によって達成されているところを見て自分にとっても明確で具体的な目標になりました。

 

-世界を獲れると感じ始めたターニングポイントは何でしょうか?

 

高校2年生の時に世界選手権のジュニアの部へ出場して自身初の世界大会で優勝という結果を収めることができました。この経験から自分の空手が世界に通用するという自信が付いたのですが、空手は世界選手権が2年に1回のスパンで開催されるため、次の世界選手権出場が2010年の大学2年生の時となり、初めてシニアの部での参加となりました。カテゴリーが上がったということもありますが自信満々で出場したにも関わらず、ジュニアの頃とは打って変わって全く通用せずそこで改めて世界との差を感じました。

 

その時の悔しさから本格的に世界を獲るにはどうすれば良いかを考え始め、世界一になることを視野に入れてトレーニングするようになりました。それから2年間しっかり練習して2012年の大学4年生の時に再度世界選手権へ出場したところ、決勝に勝ち上がり準優勝で大会を終えることができました。その時に「本当に世界一まであと一歩のところまで来ているんだな」という感覚を掴みました。

 

-そのように感じてから世界一を獲るまでの経緯を聞かせてください。

 

大学を卒業して、社会人になったのを機に国際大会に出る回数を増やしました。なぜなら海外選手は日本人と比べると試合の時のスタイルも感覚も全く違うので、その海外のスタイルに適応する必要があると思ったからです。当時はそこまで国際大会に出る日本人選手もいなかったので「どうしてそんなに海外の大会に出るの?」と周りから言われることもありましたが、僕にはしっかりとした根拠を持って海外を転戦していました。

 

海外転戦を重ねる中で自信や力が付いてきて国際大会でも優勝できるようになったのですが、そんな中で迎えた次の2014年の世界選手権ではまた準優勝という結果だったんです。その結果を目の当たりにした時に自分と相手のスキルにはほとんど大差が無いのにも関わらず、自分があと一歩勝ち切れないのは精神的な部分の強さが足りないことが原因になっていると感じました。

 

それからメンタル面に注目してスポーツメンタルトレーナーをつけることにしました。当時は颯人さんとは別の方に見てもらっていましたが、スポーツメンタルトレーナーをつけてメンタルを強化したことで、2年後の2016年の世界選手権でようやく優勝することができたので結果を含めて身を持ってメンタルの大切さを感じました。

競技人生を変えたスポーツメンタルコーチとの出会い

 

-元々スポーツメンタルトレーナーをつけていた荒賀さんが鈴木颯人さんと出会ったきっかけを聞かせてください。

 

2016年の世界選手権で優勝するまでは最初のスポーツメンタルトレーナーの方に見てもらっていて、その年に空手の組手種目が東京オリンピックの正式種目化が決まりました。それから東京オリンピックに向けて更なる成長の可能性を模索するためにトレーナーを変えてみようという話になり、高知県のスポーツメンタルトレーナーさんを紹介していただきました。

 

実際にその方にしばらくコーチングしてもらっていたのですが、直接対面で話し合うスタイルのコーチングが好みだった僕にとって、直接会ってコーチングしてもらうにはあまりにも物理的に遠かったので「ちょっとさすがに(高知までは)遠いです」って言っているうちに2018年の世界選手権がやってきました。

 

この世界選手権は東京オリンピックの選考大会として一番大事な大会だったこともあり、メディアにもすごく注目されていました。僕自身、メディアへの対応をはじめ今までとは異なることが重なったことで、試合への気持ちの持っていき方がうまくいかずパフォーマンス自体も落ちていた中で大会を迎えました。その結果、前回チャンピオンとして迎えた世界選手権で一回戦敗退をしてしまったんです。

 

自分の東京オリンピック出場がまだ決まってない一方で、人生初の一回戦敗退をこの大事な世界選手権で経験したことで色々な感情が湧き上がってきました。ただそれでも自分は世界一を狙える可能性があると強く思っていました。そこで颯人さんのスポーツメンタルコーチングを受けている同じ空手の競技者仲間を通して颯人さんを紹介してもらいました。

 

-実際に颯人さんのスポーツメンタルコーチングを受けることにした経緯を教えてください。

 

2018年の世界選手権で人生初の一回戦負けをしてしまったからこそ、自分の中で「何かを変えないといけない!」という思いが強くありました。

 

初優勝した2016年の世界選手権まで一緒にやってきた最初のスポーツメンタルトレーナーさんは、セルフイメージを上げることや自分にとことん向き合いながら日々の行動を変えていくことの大切さを教えてくれました。今となってはこの経験があったからこそ今の自分がいると思うのですが、ただ当時やっていた月一のセッションが自分にとって泣いてしまうほど辛い内容だったんです。

 

その経験から一度「スポーツメンタルトレーナーさん無しでも良いんじゃないか?」と考えた中でトレーナーさんを変えたら世界選手権で失敗してしまったので、改めてスポーツメンタルトレーナーさんが必要だと思う中で颯人さんを紹介してもらう流れになりました。

 

-颯人さんのスポーツメンタルコーチングを受けてみていかがでしたか?

 

実際初めて颯人さんと会ってみて感じたことが、颯人さんのコーチングは自分の話を聞いてくれて引き出してくれるスタイルで、今までとは違って「怖い」とか「しんどい」と思うことが全くなかったということです。

 

またすごい良かったのは、颯人さんから「自分自身がネガティブになるのは何も悪くない。ただネガティブなことを思った時には何かポジティブなことを付け加えればプラスマイナスゼロになってメンタルを保っていけるんじゃないかな」って言ってくれたことです。

 

その言葉を聞いたときにすごく気が楽になった自分がいて、「ネガティブなことを言っても良いんだ」って思えたことが安心して颯人さんになんでも相談できるようになったきっかけです。そんなことから今まで自分自身に向き合っては厳しく当たってきた僕にとって颯人さんのコーチングのスタイルがピッタリだったんだなって感じています。

 

スポーツメンタルコーチングで変わった競技生活と自身の考え方

 

-颯人さんのスポーツメンタルコーチングを受けてから競技成績やメンタル面の変化はありましたか?

 

2018年世界選手権の一回戦で負けたこともそうなんですが、颯人さんのコーチングを受ける前は国際大会に4つくらい出ていた中で全部メダルに絡めない状態が続いていました。

 

その背景の一つとして、2016年の世界選手権の優勝から2018年世界選手権まで常にメダル争いに絡んでいて、東京オリンピック金メダル候補と言われ続けていたことがあります。僕自身、2016年からオリンピックまでの4年間「ずっと優勝候補であり続けることってどういうことなんだろう?」と思っていましたし、初めて空手がオリンピック競技になった一方で日本発祥のスポーツが母国開催ということで更に注目されるようになり僕を取り巻く環境が大きく変わりました。

 

それを機にメディアの数も増えて取材も多くなる中で、注目されている自分がインタビューで答えた「こういう練習をしています」ということが、「その通りやらないといけない」という使命感のような感情に変わって自分のパフォーマンスを落としている感覚がありました。

 

そこでこういった理由からメディア対応が苦手ということを颯人さんに相談したところ、そういう場面のメンタルの整え方など自分では思い付かなかった物事の捉え方を色々教えてもらった中で、自分は試合相手に集中できておらずメディアや周りの見る目にばっかり気が散っていた事に気づかされました。

 

-4年間も東京オリンピックの金メダル候補と言われ続けていたのが重荷だったんですね。

 

はい。その時に「もう一回自分に矢印が向くようにするにはどうしたらいいですか?」って颯人さんに聞いたのをよく覚えています。回答として瞑想をお勧めされたので、実際に瞑想を始めると徐々に自分に矢印が向くようになり、心の底から「自分のために競技をしよう」と思えるようになりました。

 

もちろん「日本のため、応援してくれている人たちのために」という思いも大事ではありますが、「競技をするのは僕自身なので自分のためにやる」という根本的な部分を改めて思い出させてもらいました。それからは自分のために頑張ったことが周りの人たちのためになるという考え方に変わり、そのマインドセットになってからは出場した大会全てでメダルが獲れるようになっていきました。

 

-その後はずっと絶好調で東京オリンピックを迎えられたのでしょうか?

 

いいえ、実は違うんです。自分に矢印が向くようになってから5大会ぶりに国際大会で準優勝できたりと「まさにこれからだ!」という感じだったのですが、そのタイミングで前十字靭帯断裂という大怪我をしてしまいました。

 

でも怪我したことで思いっきり自分に矢印を向けないといけない状況になったのも僕にとって大事な経験でした。颯人さんは怪我で気持ちがガーンと落ちていた時も相談に乗ってくれて、前十字靭帯修復の名医を探しては紹介してくれたりと色々なサポートをしてくれました。正直、僕としては大怪我をしたことで「うわ、終わった。」と思っていましたが、颯人さんは諦めずに「じゃあ次はこうしていこう!」という僕の歩む道筋も作ってくれて、「これだったら行けるんじゃない?」というポジティブな意見で僕を引っ張ってくれました。この経験は僕と颯人さんの信頼関係を深める大きな要因でしたね。

 

大怪我してから1大会は休みましたが、またその2ヶ月後のアジア選手権に復帰し銅メダルを獲ることができました。自分としては一回諦めていたところを颯人さんに支えてもらいましたし、また試合できる喜びも味わさせてくれたのでその後の4大会は全部メダルが獲れました。そしてその良い調子を保ったまま2020年に東京オリンピックの日本代表選手に内定して1年後の本戦に臨むことができました。

現在の活動と自身の目指す空手のスポーツシーンの姿

 

-東京オリンピックを最後に現役引退を決めて次のステップに挑んだ理由を聞かせてください。

 

僕の中では元々世界選手権で優勝したら辞めるつもりでいたんです。この目標を立てたのは20代前半の時でしたが当時はオリンピック種目でもなかったので。。でも僕が優勝した世界選手権の年にオリンピック種目に入り、自分が代表に決まったのでおのずとまだ続けなければいけない状況になりました。

 

今となっては東京オリンピックまで続けて良かったなと思っていますが、正直当時の自分はあと4年現役を続けないといけないというの辛い思いも半分ありました。そのため東京オリンピックを自分の競技生活の集大成にしようと決めたんです。

 

もちろんその終わりが近づいていく中で「今後はどうしていこう」という迷いもありましたが、東京オリンピックを終えた時に自分が感じた素直な気持ちを大事にすることにしました。8月にオリンピックが終わって12月に世界選手権があり、もちろん周りからは「いけるんじゃない?」という意見もあったんですけど引退を後押しした出来事がありました。

 

僕の父親は自分が試合で負けるとすごく怒ったり、世界選手権で優勝しても「おめでとう」の一言も言わないくらい厳しい人だったのですが、そんな父親へオリンピックを終わった直後に電話をすると「お疲れ様」と言ってくれて、その後も自分の今後の競技活動についてではなく次の世代への指導についてアドバイスしてくれたんです。そんな今まで聞いたことが無かった父親の言葉に自分の中でもスッと肩の荷が下りた感覚もありました。

 

-元々東京オリンピック以前から引退する予定だったんですね。

 

そうなんです。でも実は東京オリンピックが終わってからも現役を続けるのかどうか迷っていました。そこで颯人さんに相談すると「じゃあコインを投げてその表裏の出た方で決めよう」という突拍子もない提案をされました(笑)そして実際にコインを投げてみると、現役を続けて世界選手権に出るというコインの表面が出ました。その時に颯人さんに合わせて言われたのは「少しでも気持ちが競技を続けたい方に揺らぐのなら続けよう」ということでしたが、競技を続けたいという思いに揺らがながったので素直に競技を引退することを決めました。

 

そこでじゃあ競技を辞めて何がしたいのかを考えた時に、「僕は空手のおかげで人として成長できたし、その成長があったからこそこういう成績を残すことができた」っていうことを伝えていきたいという思いになりました。

 

今まで僕が世界一を目指していた時は、空手は日本発祥のスポーツでありながらも組手では日本人選手が海外で苦戦している現状がありました。僕はそんな現状を打破するために、自分が国際大会に出て外国人選手たちに勝つことで日本人は強いというのを証明したいと強く思っていましたし、それが自分の現役を続けているモチベーションの一つでした。

 

でも年月を重ねていく中で僕の周りの日本人選手も力をつけてきて、海外でも結果が出るようになったので世界も日本が強いと認めるようになりました。その変化を肌で感じる中で今度は自分が次世代のために貢献したいと思い始め、東京オリンピックを境に気持ちが変わったことが現役引退の決定的な要因です。

 

-スポーツメンタルコーチングを通して培ったもので今の活動に活かされていることはありますか?

 

やっぱり新しいことにチャレンジする不安はもちろんありますが、自分が苦手な講演会などもやらせてもらっている中で緊張することもよくあります。この緊張は空手をやっていた時とは違う緊張感ではありますが、現役の時に大会前にやっていた同じ対処法を実践することで心のバランスを保って挑戦し続けています。

 

現在、大学生の監督としても活動している中で、自分のことではなく教えている選手たちを取り巻く問題に対してどういうアドバイスをしたら良いのか、またそのような状況で自分が感じるイライラなどのマネジメント方法について颯人さんによく教わっています。そういう意味では今でも勉強させてもらっていて、今までは競技における自分個人についての向き合い方でしたが、現在は相手との接し方を学ばせてもらっています。

 

また僕が開催しているセミナー時には子どもたちからメンタル面の質問もあるので、自分がやってきたことや颯人さんのコーチングを通じて得たことを伝えています。このように競技時代に学んだことや培ったことが、次のキャリアでも活かされているのはありがたいですし、そのおかげもあって自分が思い描くキャリア像に向けて少しずつ形になってきていると感じています。

 

 

-荒賀さんがご自身の活動を通して目指している空手のスポーツシーンの姿について聞かせてください。

 

まずは空手の普及を最優先にしていきたいという思いがあります。最近は子どもたちが減っていたりとまだまだマイナー競技であるのが現状です。でも僕自身はこの空手を通じて成長できたので今の子どもたちにも同じ経験をしてもらえるように空手に触れられる機会をもっと増やしていきたいと思っています。

 

また僕が感じているのは、現在空手をしてる子どもたちも活動のピークが小学生までになっており、中学・高校を経て大学生や社会人になるとこのスポーツを辞めてしまうということです。僕は彼らが社会人になっても続けてもらえるように勝負としての空手の楽しさや、逆に勝ち負けだけじゃない空手のスポーツとしての素晴らしさも経験してもらいたいと思っています。

 

その一環として、先日僕が主宰している大会の2回目を開催したのですが、今回は海外から選手を呼んで子どもの頃から国際交流ができるような場を提供しました。僕は子どもたちの視野を広げたり色んな刺激を与えることで日本の空手業界に何か起きないかなと思いこの体験を企画したのですが、実際に幼稚園児とか小学生の子どもたちが英語を話せないにもかかわらず、国籍を超えてお互いに笑いながら追いかけっこしている場面を見た時にこれが僕の目指すべき空手のスポーツシーンなのかなと強く感じました。

 

一方で自分は空手の組手においてはまだ国内唯一のメダリストなので、今後英語を学びもっと海外へ出て活動したり、コーチとしても資格取得したりともっと色々な経験を積んで成長していくことで日本の子どもたちのために貢献していきたいと思います。

 

 

-荒賀さんの思う空手の魅力についてもう一度聞かせてください。

 

空手は対人のスポーツということもあって、選手同士の間合いがありその中で繰り広げられる駆け引きや心の読み合いから、一瞬の隙を狙って迫力のある技を決めていくのが競技としての魅力だと思います。また個人競技でかつ道具を使わず自分の身体一つで相手と対峙しないといけない競技なので、自分との向き合うことが大事でそういう部分でも心の成長を無くして選手としての成長はないと思っています。

 

「心の成長が大事!」と精神論のように語ってしまうと古い感じがするので好きじゃないのですが、そういった部分が空手で大事なのは間違いないと思います。一方で格闘技でもあるため、技が当たって気絶したり歯が折れたりすることも起きる試合で勝つという恐怖心に自分自身が打ち勝つ必要もあります。自分と向き合ってそのような色々な困難にぶつかっては乗り越えていくところも空手のスポーツとしての素晴らしさだと思います。

 

そして、試合後はラグビーのようにノーサイドで敵味方関係なく称え合うという習慣もあります。そのおかげもあって僕も対戦した選手とは今でも繋がっていますし、空手は物を使わず自分の手足だけを使う競技だからこそ言葉の壁を超えて分かちあえる目に見えない何かが相手に伝わり心で繋がっている部分もあると思います。またその試合の様子を見て称えてくれる観客がいるということも空手の素敵なところです。そういった経験や人との繋がりは選手にとって人生の宝物になると思いますし空手の大きな魅力だと思います。

 

-荒賀さんにとってスポーツメンタルコーチとはどんな存在でしょうか?

 

一番の理解者でありながら自分の心を整理整頓してくれる大きな支えになる存在です。


 

荒賀龍太郎プロフィール

スポーツメンタルコーチ

 

京都府出身の空手家。空手一家に生まれ、両親が道場経営していたことから空手を始め、組手種目にて幼少からジュニア時代にかけて常に国内外で優勝を重ね、負け無しの選手として好成績を残す。その後高校2年生の時に世界選手権の代表に選ばれジュニアの部で優勝、そして全日本選手権では史上最年少の19歳で優勝を果たした。しかしシニアの部に上がったことを機に成績に悩まされメンタル面の強化に着目。スポーツメンタルトレーナーをつけて復調し世界選手権で念願の優勝を果たすも、東京オリンピック代表確定を機に自分を取り巻く環境が変わり成績不振に。何かを変えたいという思いでスポーツメンタルコーチングを選び、再度自分自身との向き合い方を学んだことでまた国際大会でメダルが取れるようになる。その後は大怪我を経験するも競技に復帰し国際大会でのメダル獲得と東京オリンピックでの銅メダルという快挙を達成。東京オリンピック後競技を引退した彼は、次世代の子どもたちのために空手を普及したいという思いから現在講演会やイベントの開催、そしてコーチとして選手の育成にも尽力している。

 

 

【主な大会実績】

2021年 TOKYO2020オリンピック 男子組手75kg超級 銅メダル
2016年  WKF世界選手権 金メダル
2012年から2014年 銀メダル(世界選手権6度出場)
WKF KARATE1プレミアリーグ 優勝10回
2017年 WKF KARATE1プレミアリーグ年間王者(日本男子組手初)
ワールドゲームズ2013 金メダル・2017銀メダル
2014年・2018年 アジア競技大会 2連覇
2013年・2015年・2018年 AKFアジア選手権 金メダル
2007年~2021年 全日本空手道連盟ナショナルチームメンバー(15年連続)
全日本選手権優勝5回(同大会男子組手史上最年少優勝記録保持者=19歳)
2006年~2012年 国体7連覇
2009年・2010年 全日本学生2連覇
2006年~2008年 高校全日本大会(インターハイ、全国選抜、国体) 8冠無敗
 

 

Interview and Edit by 畠山 大樹

 

次回のスポーツメンタルコーチ資格講座のご紹介

 

スポーツメンタルコーチ

 

スポーツメンタルコーチ資格講座は「日本スポーツメンタルコーチ協会(R)」にて発行されている資格です。One Athlete,One Mentale coachの理念を掲げスポーツメンタルコーチの普及に力を入れております。
 

 

 

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