メンタルの疲労を防ぐ休息の力【アスリートの心を支える休養法とは】
“休息”は、アスリート・スポーツ選手として活躍されている方にとって自己管理の基本と言えるでしょう。
健康面の影響がパフォーマンスだけでなく、選手生活全体にも影響を及ぼす場面を目にしてきた方もいると思います。
しかし休息の重要性を理解しているにも関わらず、いざ取り組もうにもなかなか一筋縄ではいかず困る方も少なくありません。
背景にはあらゆるアプローチが存在するものの、個人にあった方法が選択できていないことや期待できる効果を理解できていないといった点が存在します。 そのため、何から取り組めばわからず良いのか困ってしまう方も多いでしょう。
そこで、この記事ではメンタルの管理方法として耳にすることの多い「休息」について、アメリカの学生アスリートのトップ層に対して行われた研究を元に、アスリートのメンタルの健康状態に与える影響を解説します。
【このコラムの著者】
休息とは
そもそも「休息」と言われて具体的に何をすれば良いのかあまりピンとこないという方も多いのではないでしょうか。 そこで、ここでは休息を「フィジカルの休息」と「メンタルの休息」に分けて具体的な方法や特徴を解説します。
フィジカルの休息
フィジカルの休息とは「睡眠をとる」「なるべく体を動かさず安静にする」「軽いストレッチやりくらぜーション」といった身体の負担を軽減し、体力の回復を目的とした休息です。
肉体面の動きを抑えることを重視しており、「昼寝などの短い睡眠」や「呼吸を整える」といった、短時間行うだけでも効果を実感しやすい即効性を有しているという特徴を有しています。
また、目的や目標として設置されるものには、疲労感や倦怠感といった他者が目で確認することの難しい定性面のものも存在しますが、中には心拍数や血圧といった数値で把握することが可能なものも存在します。
メンタルの休息
メンタルの休息とは「趣味の時間をとる」「瞑想・マインドフルネス」といった手段で心の疲労を回復し、ストレスを軽減しメンタルの安定を取り戻すことを目的としています。 考えていることや感情を整理することを目的としていることが多い点が特徴です。
また、ストレス軽減に直結しやすい「感情を安定させること」や「不安感を解消する」といった効果が期待できます。
そのため、実際には状況が大きく変化していない場合であっても、感情面からのアプローチによってパフォーマンスの向上につながることもあります。
ただし、個々人の特性やバックグラウンド、その人の直面している状況などの要素に応じて、適切かつ効率的な休息の手法は千差万別です。 そのため、メンタルの休息を最も適した手法で行うためには専門家のアドバイスやコーチングを取り入れることが効果的でしょう。
大学生アスリートのトップ層から判明した休息のメンタルに与える重要性
ここでは全米大学体育協会(NCAA)の最高峰ランクであるディビジョン1に所属する女子アスリート179名を対象にフロリダ州立大学の行った研究「Psychological Rest in Student-Athletes: Relationships Between Sport Demands, Mental Rest, Depressive Symptoms, and Well-Being(Caviedes et al., 2023)」を元に、休息がメンタル状態やウェルビーイングに与える影響について解説します。
学生アスリートのトップ層が感じている感情面の負荷と休息の関係を調査
この研究ではNCAAのディビジョン1に所属する女子アスリート179名に対して行われたもので、平均年齢は20.01歳で携わっているスポーツは「陸上競技」「サッカー」「バレーボール」「水泳」「テニス」「ゴルフ」「体操」「ボート競技」などを個人競技、団体競技ともに含まれていました。
また、研究の参加者全員がシーズン中で、練習や試合に集中しており休息の取りづらい期間に行われました。 この研究の目的はアスリートが競技環境で直面する身体的・心理的負担に休息がどのように役立つかを明らかにすることです。
特に「メンタル面の休息」が「抑うつ状態」、心身の健康状態である「ウェルビーイング」の関係性にどのように影響しているのかを分析しました。
具体的にはフィジカル・メンタルの負荷を計測する「DISQ-Sport」、抑うつ症状の評価を行う「CES-D」、ウェルビーイングを評価する「MHC-SF」といった質問票と合わせて独自の質問項目を用いて、心理的休息感や休息体験を評価しました。
参加者は直近2週間で感じた感情面で負担に感じた体験や、休息の質についての報告をしました。
特にこの研究では、チーム内での葛藤やプレッシャーや、ネガティブな感情のコントロールができているかという点に着目していました。
休息の取れているアスリートや抑うつ状態が軽減しウェルビーイングが向上
研究の結果、休息を取ることがアスリートのメンタルヘルスにおいて極めて重要であることが示されました。 特に、メンタルでの休息が十分に得られることで抑うつ症状が軽減し、ウェルビーイング(メンタルフィジカル双方の健康)が向上する傾向が確認されました。
一方で、感情的な負荷、特にチームメイトやコーチとのネガティブに感じる関係性や状況は、メンタル面で休息感を著しく低下させました。
こうした休息を実感しにくくなる状況はストレスや疲労を増幅させる要因となります。
また、適切な心理的休息を確保することは、心身のバランスを保つ上で欠かせません。
この論文で、休息を通じて競技から離れる時間を持つことや、感情面での負担を軽減することを目的としたサポートを受けることが重要であると述べています。
また、同時にコーチや心理サポートチームは、アスリートに対して効果的に休息を取れる環境を整えるといった、心身の健康を維持するための直接的な支援を行うことが望ましいと結論付けられています。
アスリートにとってメンタルに効果的な休息をとるには
ここでは論文において効果的であるとのべられている休息の取り方について解説します。
競技から完全に離れる期間を作る
休息を効果的に取るには、一時的なものであっても競技について完全に忘れる時間を持つことが重要であると述べられています。
例えば、自由時間を趣味や家族との交流に充てることで、競技から完全に切り離されたリフレッシュを実現できるでしょう。
また、競技場やトレーニング施設などから離れて普段と異なる環境で過ごすことも大切です。 自然の中やリラックスできる空間で過ごし、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器の使用を控える「デジタルデトックス」も含めて物理的・心理的に距離を置くことが推奨されます。
単調なルーティンを避け、新たな刺激を取り入れる
休息の質を高めるには、単調に感じさせないような工夫を行ってみることも有効です。
例えば、カフェや公園、自然豊かな場所など心地よい環境で過ごすことにより、心身がリラックスし、日常の疲労やストレスが軽減されるでしょう。
また、普段と異なるルートで散歩したり、今まで手にとらなかったものを購買してみるといった日常に些細な変化を生むだけでも新鮮な体験が得られるでしょう。
休息と聞くと大きな準備や予定の変更が必要であると感じる方もいるかもしれません。
しかし、こうした日常を単調に感じさせないような、ちょっとした工夫なら気軽にはじめられるため、おすすめの休息方法です。
効率的な休息を行いたい場合はプロへ相談しよう!
休息はアスリートやスポーツ選手のパフォーマンスと密接な関わりを持っています。
特に、メンタルでの休息を怠ると抑うつ感などの心身ともに不調を生じさせやすい状態になってしまいます。
そのため、適切な休息をとることはフィジカル面だけでなく、メンタルの強さにも寄与します。
休息は種類によっては気軽にできる上、時間や費用といったコストも大きくかけずに行うことも可能です。
しかし、本当に効果的かつ効率的な休息ができているか、自己判断だけでは限界を感じることもあるのではないでしょうか。
特に、バイアスや個々人の性格によって不調を無意識のうちに隠したり無視しようとしてしまうこともあるでしょう。
心理的負担の大きい場合や、スランプに陥っている、休息をとっても改善が見られないといった場合はプロのメンタルコーチをはじめとする専門家の助けを借りることも検討してみましょう。
参照論文:https://jaspr.scholasticahq.com/article/77835-psychological-rest-in-student-athletes-relationships-between-sport-demands-mental-rest-depressive-symptoms-and-well-being