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ジャーナリングでアスリートは何が変わる?研究から見えてきた可能性

ジャーナリングは、アスリートとして日々の練習や試合に臨む方にとって、心を整えるためのシンプルな方法と言えるでしょう。 アスリートやスポーツ選手の中には不安や緊張がプレーに影響した経験がある方もいるのではないでしょうか。 頭では理解できているつもりでも、「気持ちが乱れて集中を欠いてしまう」という場面もあるでしょう。 解消する方法は数多く存在しますが、自分に合った取り組みを選べなかったり、何から手をつければ良いか分からない、という悩みは決して珍しいものではありません。 そこでこの記事では、アスリートのメンタルやパフォーマンスの向上方法の一つとして注目される「ジャーナリング」について、方法や日記との違い、近年の研究成果とともに解説します。

【このコラムの著者】

プロスポーツメンタルコーチ/一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら

【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから 

スポーツメンタルコーチ

ジャーナリングとは

「ジャーナリング」とは頭に思い浮かんだ思考や感情を紙やノートへ書き出す行為のことです。 書くという行為を通じて心を落ち着かせ、自己を客観視するという点から「書く瞑想」とも呼ばれます。 整理されていない、乱雑な状態の思考を文字として外に出すことで、自分の内面を可視化し、心の整理やストレス軽減を図る手法です。

 

ジャーナリングと日記の違い

ジャーナリングとよく混同されやすいものに「日記」が挙げられます。 ジャーナリングと日記の最も大きな違いは「記す対象」です。

 

日記は主に「出来事」を記録するために行うため、いつ、どこで、何をしたかという時間軸的な記録を重視します。

 

一方、ジャーナリングは出来事という枠組みを超えて「なぜそう感じたか」「どのような思考が浮かんだか」といった心の動きや特定の感情の道筋を探る要素に重きを置いています。

 

また、行う目的という側面からも、日記は日々のルーティンとして「記録」が中心になることが多いのに対し、ジャーナリングは気づきを得るための「手段」として用いられることも違いの一つと言えます。

 

もちろん、日記に感じたことを記載する場合もありますが、あくまで記録や出来事に付随した形で記すことが多いため、ジャーナリングでしか得られない気づきや発見があるでしょう。

 

アスリートには紙やメモによるジャーナリングがおすすめ

ジャーナリングはスマホやタブレット、PCといったデジタル媒体でも可能ですが、アスリートにとっては紙のノートに書く方法がおすすめです。

 

こうしたデジタル媒体でもジャーナリングは可能ですが、特にアスリートの生活環境には紙媒体が適しているのではないでしょうか。

 

例えば、ランニングやトレーニングを行う場所へスマホやタブレットを持ち込みにくい場合もあるでしょう。

 

紙媒体であれば、手につく場所に嵩張らずに用意でき、汚れや衝撃によって壊れる心配も要りません。

 

また、思いついた瞬間に直感的に書き込めるという面でも紙媒体は優れています。

 

メモアプリなどを立ち上げるより手間も少なく、浮かんだ感情をそのまま残せます。

 

加えて、トレーニング後など集中しにくい状況でも通知やメッセージに気を散らされず、自分の気持ちに集中できるという面も紙ならではの利点と言えるでしょう。

 

ジャーナリングを行うコツの一つは、なるべく自然に不安を感じない、落ち着いた環境で行うことです。

 

ジャーナリングを行う作業自体に、不安や気を紛らわす要因がある場合は排除することで効果を高められるかもしれません。

ジャーナリングとメンタルケアの関係性

「書く瞑想」とも呼ばれるジャーナリングは思考や感情の整理になります。

 

しかし、実際に続けることでどのような良い影響があるのでしょうか。

 

ここでは、そんなジャーナリングの「心と体のバランスを整える手段」としての利点を解説します。

 

うつや不安の解消

「不安な状態」や鬱のような落ち込む気分が激しい時は、思考がまとまらない状態や取り留めなく思い浮かんでしまう状態になることがあります。

 

このような場合、物事の優先順位や、大事なものを分別することが難しくなってしまうことも珍しくありません。

 

「あれも気になる」「これも心配だ」と考えていると、実際には大きな問題ではなく容易に解決できたとしても負担に感じてしまうこともあります。

 

ジャーナリングはこのような場合において、考えていることやその思考に至るまでを書き出すことで、乱雑にばらけていた情報をいっぺんに可視化することができるようになります。

 

書き出された紙の情報を基に「これは大事」「これは今は気にしなくてもいい」と分けていくと、不安な気持ちが軽くなり落ち着きやすくなるでしょう。

 

アスリートとジャーナリングの関係性

アスリートやスポーツ選手として活動している人の中には、試合前に緊張が強まり「失敗したらどうしよう」と考え込んでしまう人もいるのではないでしょうか。

 

また、試合後にうまくいかなかった場面を繰り返し思い出してしまう、という人もいるかもしれません。

 

そんなときはジャーナリングを行うと、頭の中に散らばっている不安や焦りを紙に書き出すことができるようになるでしょう。

 

文字として整理することで「本当に修正すべき課題」と「必要以上に気にしていたこと」を切り分けられ、気持ちを落ち着けやすくなる場合があります。

 

一方で、ジャーナリングはネガティブな気持ちを軽くするだけでなく、ポジティブな気づきを得ることにも役立ちます。

 

たとえば「今思えば、あの人の動きがよかった」「あの時の行動に感謝している」といった成功体験や感情を書き残すことで、自分やチームの成長を実感しやすくなるでしょう。

研究でわかってきたジャーナリングの効果

アスリートがジャーナリングを行うことについて「実際に効果があるのだろうか」と疑問に感じる方もいるのではないでしょうか。

 

そこで、ここではここではアメリカのアサンプション大学で行われた女子クラブバスケットボール選手を対象とする研究「Exploration of the Experiences and Perceptions of Club Athletes Using Mindfulness and Journaling(O’Connell et al., 2019)」をもとに、ジャーナリングがアスリートのメンタルやパフォーマンスにどのような影響を与えるのかを解説します。

 

論文の概要

この研究は、女子クラブバスケットボールチームに所属する学生アスリート8名を対象に行われました。

 

2週間の間「瞑想」と「ジャーナリング」を組み合わせて取り組むプログラムを実施しました。

 

瞑想は瞑想用アプリのスポーツプログラムを利用し、あわせて日々の思考や感情を自由記述形式で紙に書き出すジャーナリングを行いました。 その後インタビュー調査を実施し被験内容を分析しました。

 

個々の性格や状況に依存するものの、ジャーナリングがパフォーマンスにプラスの効果を与えうることが示されました。

 

参加者の中には瞑想を通じて呼吸や集中の効果を実感した選手もいれば、ジャーナリングで気持ちを整理できたと答えた被験者も含まれました。

 

特に「自由に書き出せることがストレス軽減につながった」という声が多く見られ、一方で「義務感として取り組むと逆に負担になった」という意見も報告されました。

 

この論文から見えてくるジャーナリングとアスリートの関係性

この研究から示唆されるのは、ジャーナリングがアスリートにとって「心を整理するためのシンプルな手段」として働く可能性があるという点です。

 

試合前の緊張やプレッシャーを書き出すことで落ち着きを取り戻せたと感じた選手がいた一方で、効果を実感しにくいと答えた選手もいました。

 

また、学業と競技の両立に悩む場面でも、書き出すことで優先順位をつけやすくなったと感じたケースがあり、余計なストレスを軽減する可能性があると考えられます。

 

重要なのは「義務感ではなく自分のタイミングで書くこと」であり、数行でも続けることで集中力やパフォーマンスの安定に寄与するケースがあるということではないでしょうか。

 

紙に書くことで心もプレーも整えよう!

ジャーナリングは紙とペンさえあれば始められるシンプルな習慣です。

 

試合前の不安や練習後の反省を書き出すことで心の整理や前向きな気持ちを取り戻すことにも寄与します。

 

モヤモヤした気分や誰かに相談してもなんとなく解消されない不安を抱えているという場合は、まずは紙とペンを用意してジャーナリングを始めてみるのはいかがでしょうか。

 

参照論文:https://digitalcommons.assumption.edu/honorstheses/107/

 
 
 

 

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