アスリートにも重要、ポジティブな感情へ導く”心の安全基地”
『強いメンタルを持っている』と自負している人でも厳しい日常を無防備に過ごしていると心の病に陥ることがあります。特に日々タイムや成績にシビアに向き合うアスリートは、注意が必要。ネガティブな感情に流されず、軽やかに過ごすことが理想的です。財力や地力、体力など持っていれば、安心なもの。しかし忘れてはならないのが”心の安全基地”です。不安や恐怖を感じた時、いつでも逃げ帰れる場所。今回は、心の安全基地とはどのようなものなのかお話します。
目次
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挑戦のための”心の安全基地”
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幼児期に形成される"愛着"
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"愛着障害"の特徴と注意
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4つのポイント、”克服へのセルフケア”
挑戦するための”心の安全基地”
子供に対する親(または代わりとなる養育者)を意味する”心の安全基地”。アメリカの心理学者であるメアリー・エインスワースが唱えた”人間の愛着行動”に関する概念です。
幼い子供が『心地よい』と感じる約束された環境を指します。1歳を過ぎ自分の足で歩けるようになると歩き回り、目を離せない危なっかしい時期。しかし自分の力で探索し、外の世界を理解しようと懸命に成長を始めている大切な時期でもあります。
この時期は、好奇心が強いながらも不安や恐怖も大きいです。しかし親という”心の安全基地”があることで安心することができます。一人で探索して不安を感じたら”親のところに戻ってくる”という行動を一つずつ繰り返しながら外の世界と触れ合い、やがて自立へと繋がっていきます。
このように子供と親との信頼関係によって育まれるのが”心の安全基地”です。”喜んで迎えてもらえる”と安心して帰れる場所があるからこそ探検できるのです。もちろん思春期を迎えると友達や恋人などに夢中になりますが、人との出会いや付き合いに緊張や傷つくことは避けられないものです。心にダメージを受けた時でも”ありのままの自分を受け入れ、どんな自分でも許されると安心できる場所”がある限り立ち直ることができます。
そしてまた外の世界に飛び出し、新たな出会いへと繋がっていきます。もちろん大人になっても仕事や社会での人付き合いは、神経をすり減らすものも少なくありません。それでも弱音を吐き出す場所があることで「また頑張るぞ」と意欲が湧いてきます。”心の安全基地”は挑戦するために必要不可欠なものなのです。
幼児期に形成される"愛着"
勇気や自信、安心などを与え感情をポジティブにしてくれる”心の安全基地”はメンタルが疲れても休息を取ることが出来る心の拠り所です。手に入れるために必要なのは、安心できる人の存在。子供は社会的、精神的発達を正常に行うために少なくとも一人の養育者と親密な関係を維持しなければいけません。
養育者とは、親など身の回りの世話をしてくれる人。養育者との親密さを維持出来なければ、子供は社会的、心理学的に問題を抱えるようになると言われています。子供が特定の人に対して持つ情愛的な絆を愛着と呼びます。”愛着が湧く”をいうように使用され、愛がることや慣れ親しむことで意味される言葉です。
心理学で精神分析として確立されたのが愛着理論です。幼児の愛着行動は、例えばお腹が空いて泣くことで不安や気持ちを表現します。生後3ヶ月までに誰が養育者か理解し、6カ月頃から2歳までの期間には養育者に愛着を示すと言われています。
1歳頃からは、愛着を示す人を安全基地として認識し始めるそうです。そして養育者の反応が愛着行動の発展を促し、個人の感情や考えを作り上げると言われています。そのため6ヶ月から1歳半までは、愛着が形成される特に重要な時期なのです。
"愛着障害"の特徴と注意
愛着や安全基地が、うまく形成されなかったことで生じるのが”愛着障害”になります。あくまで心理学用語ですが、5歳以前の子供が発症する時に限り愛着障害と称されます。
反応型アタッチメント障害(反応性愛着障害)”と”脱抑制性型大人交流障害”の2つの種類に別れます。愛着障害のある子供の特徴として代表的なものは、髪の毛を抜いたり爪を噛んだりなどの自傷行為。これらの行動は、他の精神疾患でも起こりうるので愛着障害とは見分けにくいものです。しかし不眠や食事をしっかり摂れない、体調不良になりやすいなど身体的に影響が出てくることもあるため注意が必要です。
しかし、さらにエスカレートすると理由もなしに嘘をつき、他人に危害を加える他害行為をおこすこともあります。大人を試すような行動をするなど心理的な障害の特徴とも言える行為が目につくようになるのが特徴です。
特に2種類のうち反応型アタッチメント障害(反応型愛着障害)の場合は、他人を必要以上に警戒する傾向にあります。周囲に対して無関心気味で周りを気にせず、黙々とひとり遊びすることが特徴です。
具体的には、他の子供と交流しない、人を避けるような行動をとる、喜怒哀楽を表現しないなどです。感情を表現しないながらも人の言葉に傷つきやすく、ちょっとしたことでも落ち込んでしまうのでより注意が必要になります。
もう一方の脱抑制性型大人交流障害の場合は、全く逆となり見知らぬ人やあまり会うことがない人に対して必要以上に接しようとする傾向にあります。周囲の気を引くために大袈裟な行動をしたり、協調性が乏しく他人と一緒に行動できないなどが特徴です。
具体的には、誰にでもしがみつこうとする、過剰なわがままを言う、謝ることができないなどです。エスカレートすると暴力的な行動を取ることもあるため、こちらの愛着障害にも注意が必要です。大人になってからの愛着障害では、感情をうまくコントロールできない、思考が100か0になりやすいなどの情緒的なものです。
また程よい距離感が分からず極端に相手の顔色を伺う、パートナーと情緒的な関係を築けないなどの対人関係におけるものなど問題を抱えやすくなるのも特徴です。
愛着障害の場合は、子供の頃の環境が要因となるため、薬物による治療は行わないのが一般的です。少しでも可能性を感じたら気軽に精神科や心療内科、またはカウンセリング機関への相談をすることでうつ病などの早期発見に繋がるのです。
4つのポイント、”克服へのセルフケア”
愛着障害の可能性がある時、自分自身でできるセルフケアのポイントは大きく分けて4つあります。
まず1つ目に”心の拠り所を作ること”です。
精神的にストレスを感じた時や疲れた時に”安心して休める環境”を作ります。具体的には何でも話せる人やありのままでいられる場所を見つけること。読書や音楽など心を落ち着かせられる環境作りをすることで愛着障害が緩和され、克服することに繋がります。
2つ目に”困り事を整理すること”です。
『自分自身がどのような時、どのような場面で困るのか』『困っている要因はあるのか』をなるべくわかりやすく整理することができれば心が軽やかになります。
3つ目に”無理に関わろうとしないように心掛けること”です。
愛着障害があることで他人の目が気になり、悪化すれば被害妄想にも繋がります。『距離感が難しい』と感じたら無理して付き合おうとせず、最低限の付き合いに留めるように心掛けます。
最後に”話せない時は聞き役に徹すること”です。
人付き合いのなかで雑談などのタイミングがありますが、うまく話せないと感じたら悩まずに聞き役に徹してやり過ごします。テンポよく話している相手にも自分自身も言葉を発する必要はありません。相槌を打ちながら相手の話しを聞くことで自分自身も冷静になれ、相手も安心できます。聞き上手になることを心掛けます。医学的に子供の障害とされながらも大人になってから悩む人も多い愛着障害ですが、適切な対処をすることで克服へと繋げることが可能なのです。
今回は、心の安全基地についてお話しました。幼少期に形成される愛着が大きく関係します。うまく形成されないことで愛着障害に陥るとコミュニケーション不足などメンタルにも大きな影響を及ぼします。しかし気軽に相談できる機関や自分自身でできるセルフケアもあるため、克服することも可能です。
心の安全基地があることでメンタルも安定し、良い結果が期待できます。今後もアスリートの皆様を応援し、パフォーマンス向上への手助けとなる情報を発信し続けていきます。