アスリートの不安・緊張対策に有効な「認知的再評価」リアプレイザルとは?
今回は、第一戦で活躍するアスリートとは切っても切れない縁である、緊張や不安への対策として有効な、「認知的再評価」、リアプレイザルに関して、海外論文をもとに紹介していきます。
緊張で本番に弱いと感じるアスリートから、プレッシャーで押しつぶされそうになる感覚を抱えるスポーツマンまで簡単に応用可能で、パフォーマンス向上に期待ができる内容となっておりますので、是非参考にしてみてください。
目次
- 緊張を落ち着かせる深呼吸
- 認知的再評価「リアプレイザル」とは
- ハーバード・ビジネス・スクールの研究結果
- 緊張や不安は悪い事ではない
緊張を落ち着かせる深呼吸
「明日の試合は絶対に負けられない」「ここで決めれば逆転」など、プレッシャーと常に戦うアスリート。また、スポーツのみではなく、日常生活でも、「大勢の前でのスピーチ」や「大事な面接前」など人間であれば必ず感じる緊張感。緊張を抑えるため、一般的な対策として使われているのが、深呼吸です。
誰でも簡単に出来て、効果の高い方法として多くの人に利用されているのは、周知の事実でしょう。非常に便利な深呼吸は、不安で眠れない夜や、短時間で気持ちの高ぶりを抑えるのには有効ですが、長時間し続けられないのが悩みの種です。
認知的再評価「リアプレイザル」とは
そこで、深呼吸に変わる、不安・緊張対策として認知的再評価(リアプレイザル)という方法が、現代のスポーツサイエンス界では注目されています。これは、文字通り、物事の見方を変え、同じ身体反応を認知的に再評価する方法です。
簡単に例えると、緊張を抱える本番前という状況をネガティブに捉えるのではなく、「心拍数を上昇させ、身体は本番に向けて準備している」といった具合で、認知的に状況をポジティブに変化させていきます。
実際に多くのアスリートが、プレッシャーのかかる場面の前は、不安でなんだか落ち着きがなく、筋肉が少し痙攣している感覚まである状態を経験しているのではないでしょうか。
このような場面で多くは、一旦落ち着こうと深呼吸しますが、一時的な効果のみで、また落ち着きが無くなってしまいます。そのため、本番前での深呼吸は、あまり持続可能な有効性をキープできません。
ここで、認知的再評価(リアプレイザル)を利用し、筋肉のわずかな痙攣や心拍数の上昇など、自然に起こる身体反応を「再評価」していきます。
身体反応を「緊張や不安の現れ」「落ち着かせよう」と考えるのではなく、「いま、身体はパフォーマンスを上げるため、心拍数を上げ、血液を全身に送っている」「エキサイティングな試合に向け、自分はワクワクしてきている」など認知的(メンタル的)な捉え方を変えてみましょう。
簡単で手軽に出来る認知的再評価(リアプレイザル)ですが、気になるのがその効果です。そこで、スピーチを控える数百名の被験者に対して行った、ハーバード・ビジネス・スクールの有名な研究を見てみましょう。意外にも認知的再評価の科学的効果は大きいようです。
ハーバード・ビジネス・スクールの研究結果
まず、被験者たちに緊張している時、どのように対処するのが良いかを答えてもらいます。被験者たちのほとんどは、一般的に使われている方法と同様に、「自分を落ち着かせることが有効だ」と答えました。
つまり、被験者たちは、「緊張によって起こる気分の高ぶりや身体反応は、深呼吸などで落ち着かせ、取り除くべきだ。」と考えていたことになります。
その後、実際に被験者にはオーディエンスの前でスピーチをしてもらいますが、その際に緊張対策として、2つのグループで別々に行動を取ってもらいます。
- 1、リラックスのため「落ち着け」と自分に言い聞かせる。
- 2、不安な気持ちを受け入れ「ワクワクしている」と認知的再評価を行う。
この実験の結果、2の認知的再評価を行ったグループは、主観的な自信の度合いが上昇し、1のグループより、スピーチをより長く行う傾向にありました。さらに、スピーチを聞いていたオーディエンスからの評価も認知的再評価を行ったグループの方が高く、より有能に見え、説得力が高いという印象を与える事に成功しました。
緊張や不安は悪い事ではない
要するに、大事な試合前や本番前に、緊張や不安は悪いもので、取り除くべきと考えるより、ワクワクするポジティブなものと認識を変え、認知的再評価を行う方が、主観的なメンタルの状態が変化し、実際のパフォーマンスの向上にも繋がりやすいようです。
心拍数の上昇など、緊張時に現れる自然反応は、身体が興奮し、ワクワクしている状態でも現れる反応です。そのため、ネガティブで受け身な解釈から、ポジティブで自発的な捉え方に変えてみるだけで、脳の働きは変化します。
緊張や不安は、自然な現象です。取り除くべき悪い事ではなく、最大のパフォーマンスを発揮するための身体からのサインと捉えてみましょう。
参照文献・https://www.apa.org/pubs/journals/releases/xge-a0035325.pdf
さらに学びを深めたい方へ
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【このコラムの著者】