「教えない」のに全国制覇。畑喜美夫氏の「ボトムアップ理論」とは?自ら考え動く選手の育て方
目次
練習よりも「考える時間」。「ボトムアップ理論」とは?
「ボトムアップ理論」が具体化されたのは、畑喜美夫氏が広島観音高校に赴任し7年が過ぎた頃でした。 従来のスポーツ指導は、監督が絶対的な指示を出す「トップダウン」が一般的でしたが、ボトムアップはその逆のアプローチを取ります。
「教えない」からこそ、選手は育つ
ボトムアップの最大の特徴は、「生徒たちに考えさせること」です。 技術や戦術を指導者が先に教えてしまえば、生徒は言われた通りに動くだけのマシーンになってしまいます。そこで畑氏は、あえて「教えない指導」を実践しました。
例えば、「攻撃はどうする?」「守備はどうする?」と大まかなテーマだけを投げかけます。
すると生徒たちは、「自分たちで何とかしなければ」と必死に考え、本や映像で学び、議論し始めます。下に小さなグループを作り、全員の意見を吸い上げながらチームの方向性を定めていく。これがボトムアップ(下意上達)の仕組みです。
練習時間を半分にして、全国へ
畑氏は、毎日行っていたグラウンドでの練習時間を半分に減らし、残りの半分を「生徒だけで話し合う時間(ミーティング)」に充てました。
「練習量が減って勝てるのか?」と不安に思うかもしれません。
しかし、結果は劇的でした。導入2年目で県3位、中国大会初出場などを達成し、最終的には全国制覇を成し遂げたのです。
サッカーのようなチームスポーツでは、個々の技術練習以上に、「戦術の共有」や「意思疎通」が勝敗を分けます。
自分たちで考え抜いた戦術だからこそ、選手たちは本番で迷いなく動けるようになったのです。
「ステキに育てる」が勝率を上げる理由
畑氏には、「生徒たちをステキに育てたい」という強い信念があります。 その象徴が、「整理整頓」への徹底したこだわりです。
神は細部に宿る
「部室が汚いチームは、試合でも勝てない」 畑氏はそう考え、部室の整理整頓や、靴を揃えることを徹底させました。「神は細部に宿る」「神様は綺麗好き」という言葉を伝え、心の整頓を促したのです。
すると不思議なことに、ピッチ上でも変化が起きました。
ラインを意識するようになり、パスやポジショニングの雑さが消え、ミスが激減したのです。
24時間をデザインする
畑氏は選手たちに「24時間をサッカー選手としてデザインする」と説いています。
朝起きて布団を畳むこと、学校での振る舞い、それら全てがサッカーにつながっています。
技術だけで勝負が決まるなら、才能ある選手を集めたチームが常に勝つはずです。
しかし、勝負の神様は、運やフェアプレー精神、日頃の行いといった「目に見えない部分」も見ています。
人間教育によって勝率が1%でも上がるなら、それを徹底する。それが畑氏の流儀です。
選手・監督の両方で「全国制覇」達成の畑喜美夫氏
これほど画期的な理論を生み出した畑喜美夫氏とは、どのような人物なのでしょうか。
華々しい選手時代と、怪我による引退
広島県出身の畑氏は、東海大一高校時代に静岡県選抜として国体2位、U17日本代表にも選出されました。
順天堂大学へ進むと、4年生で関東選手権、総理大臣杯、インカレの「三冠」達成に貢献。まさにエリート街道を走っていました。
しかし、卒業後は腰の怪我を理由に現役を引退。故郷・広島で公立高校の教師となる道を選びます。
指導者としての快進撃
指導者となってからも、その手腕は発揮されます。 初めて赴任した廿日市西高校では、広島大河FC(中学部)を指導し、クラブユース全国6連覇に導きました。
その後、広島観音高校では、初の全国大会出場、ベスト16、ベスト8と着実にステップアップし、ついに全国高等学校総合体育大会で「初の全国制覇」を達成しました。 現在は、31年間勤めた教員を退職し、人材育成や組織構築のプロフェッショナルとして、全国で講演活動などを行っています。
まとめ
今回は、畑喜美夫氏と「ボトムアップ理論」についてお話ししました。
畑氏の目的は、単にサッカーで勝つことだけではありません。 「99.9%の選手はプロにはなれない。だからこそ、社会に出た時に活躍できる人間を育てる」 この想いが根底にあります。
自分で考え、周りと協力し、答えを導き出す能力は、AI時代と言われる現代社会で最も必要とされる力です。 スポーツ指導者に限らず、部下の育成に悩むビジネスパーソンも、この「ボトムアップ理論」を取り入れてみてはいかがでしょうか。
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【このコラムの著者】