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苦境にいる人を見て疲れるのは脳神経が原因?思いやりのメカニズム

みなさんは「苦境にいる他人の境遇に共感して自分も疲れてしまった」という経験はありますか。チームでプレイを行う競技に取り組まれている方は、個々人のメンタル管理がチーム全体のパフォーマンスに及ぼす重要性を特に理解されていると思います。ただし、相手の気持ちになって親身になるあまり自分も共感して疲れてしまうことがあります。

 

 

一方で、

「あの人はいつも周りを気にかけているが疲れてしまわないのだろうか」

 

と感じることもあるでしょう。

 

周囲に目を配ることのできる人間になるためには何か特別な工夫が必要なのでしょうか。そこで、この記事では「思いやりによる疲労の個人差が生まれる理由」について解説します。メンバーのメンタル管理でチームにとってさらに貢献したいと考えている方はぜひ参考にしてみてください。

「思いやり」によって生じる疲れ、共感疲労とは

相手の心情や状況を察するあまり自分も疲れてしまったという場合は「共感疲労」という状態になっている可能性があります。

 

ここではそんな共感疲労について詳しく解説します。

 

共感疲労とは

共感疲労とは他者の辛い状況に共感しすぎてしまうことで自分自身が精神的な疲れを感じるようになる状態のことを指します。

他人の悩み事を聞いているとき、痛ましいニュースを耳にしたときなど、自分以外の人の境遇を案じ、痛みに共感した際に苦痛や疲労感を感じた経験があるという方もいるのではないでしょうか。

 

共感疲労は苦境にいる他者の感情に精神的に近づき、苦しみを理解しようとしたことで経験する苦痛や疲労です。

 

共感疲労が起こると

  • 疲れが抜けにくくなる
  • 何事にもやりがいを感じにくくなる
  • 気が短くなる
  • 注意力の低下
  • 不眠
  • 不安

などの症状が現れることがあります。

 

共感疲労は感受性の高い人や強い使命感を持っている人に陥りやすい傾向にあると言われます。

チームで取り組むスポーツにおいては、組織における自身の役割を強く意識しすぎると、かえって苦しさを感じるようになってしまうことが多いのかもしれません。

特に、チームメンバーのメンタルケアを少人数で担っている場合など、共感疲労に陥りやすい要因が存在する場合には注意しましょう。

 

共感疲労と燃え尽き症候群は違う?

 

共感疲労は往々にして、症状や感じやすくなる状況について「燃え尽き症候群」との類似性を指摘されることがあります。

燃え尽き症候群とは、ある物事へ意欲的に没頭して取り組んでいた人が心身の極後な疲労により、まるで”燃え尽きたように”意欲を失ってしまう状態のことです。

多くの場合、生活に支障をきたすほどやる気が起きにくくなり、慢性的なストレスから発生するという共通点などから、うつ病の一種と考えられることもあります。

 

共感疲労に「燃え尽き症候群に陥っているのではないか」と感じることや周囲から指摘をされることもあります。

共感疲労と燃え尽き症候群には、症状や発祥の要因となるものなどに多くの共通点が存在します。

混同されることも多い2つの状態ですが、違いがあるとすれば共感疲労は精神的な疲労を感じることに対して燃え尽き症候群は心身どちらにも疲労を感じることが多いという点でしょう。

 

この2つの状態の区別をつけることはさして重要ではなく、周囲の支えとなる人が細かい症状や背景となる要因などの情報をできる限り把握してあげることが重要なのではないでしょうか。

思いやりの生じやすさには個人差が存在する

思いやりによる同情は時に共感疲労を生じてしまうこともある行動です。自分の不利益を顧みず他人のために行動する利他的な行動に対して懐疑的な目を向けられることもあるのではないでしょうか。

 

実は、近年の研究では思いやりの生じやすさには個人差が存在することがわかってきています。ここではそんな思いやりに個人差が生まれるメカニズムを解説します。

 

思いやりは、ある神経領域のたんぱく質量に比例する

Neural correlates of compassion – An integrative systematic review(Novak et al.2022)では1985年から2020年までの思いやりとMRI画像における脳の活性化の状態を紐づけた論文のメタ分析を行いました。

 

特に、脳の構造や機能と思いやりの状態の関係を研究した35本の論文について体系的なレビューを行っています。

 

この結果、左下前頭回の眼窩部分、右小脳、両側中側頭回、両側島および右尾状核において思いやりと頻繁に相互作用を及ぼしている神経領域が存在していることがわかりました。

また、思いやりの低い人はこれらの領域における神経活動が低いかたんぱく質の量が少ないということがわかりました。

 

これらの思いやりの活性に及ぼす因子は意思によって変化させることができるものではありません。

そのため、思いやりの生じやすさとは、工夫や意思で変わるものではなく、その人が元からもつ才能、天性の性格と考えることができるでしょう。

共感疲労や感情疲労の原因となる思いやりの生じやすさには個人差がある、疲れることは自然なこと

人によっては思いやりで行動を起こすことに対して理解を得にくいことがあるかもしれません。

 

ただし、個々人で思いやりに差があることは当然のことです。また、同様に思いやりによって行動する人の割合も異なることから、共感疲労など精神面での疲れやすさに差が出ることも自然なことであると考えることもできるでしょう。

 

自分が助けてあげるつもりで悩みを聞いていたはずが、自分も疲れてしまったからといって思い詰める必要はありません。むしろ、それだけ相手の目線に立って親身に考えることができているという証拠でしょう。

 

周囲のメンタル面を気にかける際は、自分に精神的な余裕のある範囲で行うようにすると良いでしょう。

 

さらに学びを深めたい方へ

よりスポーツメンタルについて学んでみたいとお考えの方や、学んだことを実践しながら成長したいとお考えの方はこちらも併せてご覧ください。

 

 

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【このコラムの著者】

プロスポーツメンタルコーチ/一般社団法人日本スポーツメンタルコーチ協会
代表理事 鈴木颯人

プロ野球選手、オリンピック選手などのトップアスリートだけでなく、アマチュア競技のアスリートのメンタル面もサポート。全日本優勝、世界大会優勝など圧倒的な結果を生み出すメンタルコーチングを提供中。>> 今も増え続ける実績はこちら

【プロフィール】フィリピン人の母と日本人の父との間に生まれました。生まれた国はイギリス。当時から国際色豊かな環境で育って来ました。1歳になる頃には、日本に移住しました・・・。>>続きはこちらから

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