ボクシングを全力で楽しむ世界王者、井上尚弥選手
目次
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6歳で交わした”男同士の約束”
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”練習は仕事”という父の言葉
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”ボクシングを楽しむ”強いメンタル
6歳で交わした”男同士の約束”
神奈川県出身で6歳の時にボクシングを始めた井上尚弥選手。「どうすれば尚弥選手のように育つのか?」と聞かれると真剣に考え込むという父の真吾さん。しかし”幼い頃からの努力の積み重ね”や”本人が素直についてきたから”など漠然としたことしか伝えられないと言います。
父親として井上尚弥選手にボクシングをやらせたいと思ったことは、一度もないのは意外です。自身も2戦2勝の功績を持つアマチュアボクサーでした。脳や肉体に与えるダメージがある特殊なスポーツ、そして厳しい減量の辛さ経験を考えると「自分の愛する子供が傷つく姿を見たいとは思わない」と親としての気持ちもわかります。
真吾さんがボクシングを始めたのは、井上尚弥選手がまだ2歳の頃で弟の拓真さんもお腹にいるという環境だったといいます。そんななかで『明成塗装』という塗装会社を立ち上げました。親方として事業をやりくりする忙しい日々のなか”それでも強くなりたい”と時間を見つけては、一人練習に励んでいました。
ある休日、一人で練習していると「僕もお父さんと一緒にやりたい」と言ってきたのが当時6歳の井上尚弥選手でした。まだ話す言葉も乏しいながらも表情や目でその真剣さは伝わってきたそうです。
ボクシングは、甘いスポーツじゃないということや「ボクシングに嘘をつきたくないから一生懸命やっているんだ。尚もボクシングに嘘はつかないと約束できるか?練習がどんなに辛くてもやり通せるか?」と聞くと「うん。お父さんと一緒にやりたい」と顔を真っ赤にして答えたそうです。真剣さが伝える話です。
真吾さんはこの時『でも』や『だって』という言い訳は禁止だと言いました。子供とはいえ『他人のせいにしない。自分で決めた以上責任を持ってもらいたい」という思いがありました。この日交わしたのは、親と子ではなく男対男としての真剣な約束になりました。この時の井上尚弥選手の背丈は、真吾さんの腰にも満たないものでした。
そんな頃から親子で一緒に練習の日々が始まります。いつしか弟の拓真さんも3人一緒に練習するようになっていました。小さな拳で日が暮れるまで打ち合っていた幼い兄弟は、周りから見ると遊びや趣味に思われていたかもしれません。しかし、真吾さんは真剣でした。6歳の子供であっても真剣に取り組む息子たちに、親として彼らにできる練習を考えて共に一生懸命に向き合ってきたのです。
”練習は仕事”という父の言葉
スポーツの競技によっては、幼少期の練習方法として技術を身につけることよりも”身体を大きくすること”や”基礎体力をつけること”を重要視するという指導者も多いです。しかし大人になると一度頭で理論的に理解してから、体で覚えようとします。
これに対し子供の頃だと頭よりも先に体で覚えるため、飲み込みが早いのかもしれないと考えたのが真吾さんでした。ボクシングにおいては、尚更「細かい技術も子供の頃に教えた方が良い」と考えました。実際に技術を一つ積み、スパークリング大会でフェイントを出しました。すると子供ながら達成感を得てとても喜んだと言います。次に、そのフェイントからストレートを出せるようになると子供達はさらに喜び、練習も楽しんで頑張るようになったのです。
真吾さんとの日々で成長した井上尚弥選手は、中学校3年生の時に行われた15歳以下の全国大会で優秀選手賞を受賞します。高校に進学後も1年生でインターハイ、国体、選抜の高校三冠を達成しました。3年生で世界選手権ベスト8、高校7冠も達成。プロになると6戦目で世界王座、国内最速記録となる8戦目で2階級制覇を達成すると世界ボクシング界の年間MVPも獲得しました。16戦目で3階級制覇も達成。ボクシングの聖地であるラスベガスでの試合でも見事に勝利しました。コロナ禍のため無観客で行われながらも『一億円の価値がある試合』と話題の試合となりました。
2歳の時からトレーニングに打ち込む父の姿を見てきた井上尚弥選手。父は、息子達を名のあるトレーナーに預けるか悩んだ時期もあったそうですが「親子二人三脚で世界チャンピオンを目指す」と井上尚弥選手が口にしたと言います。
そんな父、真吾さんの言葉で胸に刻まれているのは”練習は仕事”という言葉だそうです。小学校高学年の時から常に言われてきたこの言葉。当時はまだ理解できなかったようですが、徐々に分かるようになっていきました。そして父の言葉を理解すればするほど”練習は仕事”という日々の姿勢が、どれだけ大切かを噛み締めるようになったそうです。
自分がやっていることが好きじゃないとそこまで追い込めないもの。「ボクシングが好きだし強くなりたい」そこまでモチベーションを上げるために、井上尚弥選手にとって必要な言葉だったのでしょう。
”ボクシングを楽しむ”強いメンタル
本番のようにKOを狙うつもりで臨むのは「練習でやっていないことは試合では出ない」という井上尚弥選手。メンタルというものは、どんなスポーツをする上でも非常に重要になってきます。ボクシングともなれば尚更です。
素晴らしい才能を持ち、モンスターと称される井上尚弥選手でさえ「スパークリングでできていることが試合でできない」という時期があったそうです。そのために追求した自分のスタイルが練習から全力で向き合うことでした。
「スパークリングでも”相手を倒す”と試合と同じ気持ち」で練習することで克服できたのです。怪我の心配もあるためスパークリングを全力でする選手の方が珍しいそうです。そして技術的な試行錯誤やフィジカルなトレーニングも日々積み重ねていきました。このように練習で全力を出し切ることで、井上選手なりに不安を払拭したのです。
普段から自分を追い込み練習することが”楽しむ”という気持ちでリングに上がるために必要だと気づいた井上選手。練習から試合まで、そして試合の時間も全てを目一杯”楽しんでいる”という感覚を大事にしてこれているからこその結果があるのだと言えます。そして、父と約束したあの日から積み重ねてきた努力の日々が、彼のメンタルをここまで強固なものにしたのかもしれません。
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