勝つために貫いた”孤独を恐れない姿勢”、落合博満氏
目次
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捨てきれなかった思いが導いたプロへの道
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孤独を恐れない姿勢
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”勝てば官軍、負ければ賊軍”という監督への評価
捨てきれなかった思いが導いたプロへの道
日本プロ野球史上において唯一三冠王を3度達成し、最高の右打者の1人と称された落合博満氏。秋田県出身で駄菓子屋を営んでいた両親のもと、7人兄弟の末っ子として生まれました。
新聞で丸めて作ったボールを棒で打って遊び、小学校4年生の時に野球を始めました。中学1年生の時には、エースで4番を務めるほどの才覚を現しました。3年生の時に地区大会で決勝進出を果たし、惜しくも準優勝。しかし決勝戦で90メートル超えのホームランを打ったことで注目を浴びたため、県内の野球名門校から推薦の話をいくつも受けました。しかし卒業後は就職することを心に決めていたため、秋田県立工業等学校の建築家に入学。野球部に入学するとすぐに4番でエースになりましたが、右肩を壊して野手に転向します。
その後、元々練習嫌いだったことや上級生からの体育会系の風習に嫌気がさしたことから練習に行かない日々が続きました。それでも野球の実力を評価されていたため、大会直前にはチームに入り”練習サボりの大会前復帰”の入退部を8回繰り返す異例の野球部員だった落合博満氏。学校自体にも嫌気がさし不登校がちになると月に100本見るほど好きだった秋田市内の映画館で時間を過ごしました。しかし木製のバットで電柱を打ったり山の中での素振りなど練習を続け、野球に対しての情熱を持っていたのです。それは電柱に穴が開き、電気が消え苦情が出るほどの練習量からわかります。
就職と決めていた進路でしたが、野球部の部長に勧められて受けた東洋大学野球部のセレクションで特大ホームランを連発し見事に合格。高校卒業前から背番号と内野手のポジションを与えられるほど入学前から高評価を受けますが、またしても後輩が雑用をすることや先輩を立てるといった風習に直面したことで合宿を抜け出します。そして入学式を前に大学を中退。秋田に戻り、アルバイト先で興味を持ったボウリングのプロボウラーを志すようになった落合博満氏でしたが、やはり野球への思いもあり草野球も続けていました。
高校時代の恩師である野球部部長に進路相談すると社会人野球・東府中のセレクションを受けるよう勧められ、見事に合格。アマチュア野球世界選手権の日本代表にも選ばれるほどの功績からプロ野球のスカウトの目に止まるようになりました。こうしてドラフト会議で指名を受けたロッテオリオンズに入団が決まり、プロ選手への道を歩み始めたのです。
孤独を恐れない姿勢
選手としても監督としてもこれ以上ないほど素晴らしい功績を残した落合博満氏。しかし球団関係者やフロント企業、マスコミや一部の野球ファンから嫌われたことでも知られます。その理由の一つが”俺流”と称され、基本的にダンマリとして多くを語らないその姿勢。”なぜ語らないのか、なぜ俯いて歩くのか、なぜいつも1人なのか?”そんな疑問ばかりがついて回った不思議な監督でした。
まず監督に就任した時に「全ての選手にチャンスがある」と話し、1人の選手も戦力外にすることはなく”今ある戦力で一年目のシーズンを戦うことを宣言した落合博満氏。選手一人一人にしっかりとチャンスを与えようとしたのです。しかし翌年には、13人もの選手に戦力外通告を言い渡し、7人のコーチとの契約解除。1年かけて選手コーチを含めた全員を戦力となるかならないかを自らの目で冷静に見極めていました。
監督就任時、中日ドラゴンズのオーナーから求められたものは”勝てるチーム、常勝軍団”でした。勝つという目標に対して”信頼や繋がり”といった感情を一切捨て去るのが落合流であり「ドライな人間性」だと言われます。2007年の投手交代劇がその典型的なものでした。優勝への王手がかかる重要な日本シリーズの一戦。”日本シリーズで初となる完全試合の快挙”が掛かった先発投手の山井大介氏を9回に交代という決断を下しました。
結果的にマウンドを受け継いだ岩瀬仁紀氏が抑え切り、見事に勝利。野球ファンなら期待するようなドラマチックな感動や個人の名誉も監督としては、視界に入れてはならないのです。賛否両論が渦巻いた決断を「これまでウチは日本シリーズで負けてきたよな。あれは俺の甘さだったんだ。負けてわかったよ。それまでどれだけ尽くしてきた選手でもある意味で切り捨てる非情さが必要だったんだ」と話した落合博満氏。
例え正しい決断であっても万人受けするのは、非常に難しいことです。まして賛否両論が飛び交う決断では尚更のこと。理解されずに孤独を突き進む強さを持った指揮官の思いは、8年かけて選手たちにも浸透していきました。どんな状況に置かれても自身の仕事をやり通すプロフェッショナル集団へと生まれ変わりました。
浅尾拓也氏と岩瀬仁紀氏への投手リレーがその一例で、敵チームのファンには「浅尾が出てくるまでに点を取らなければ勝てない」と思わせるほど完璧だった二人のリリーフ。落合博満氏の”孤独を恐れない姿勢”は、野球ファンはもちろん野球に興味がない人にとっても”心に突き刺さる”素晴らしいものなのです。
”勝てば官軍、負ければ賊軍”という監督への評価
選手、コーチ、スタッフへの労いとシーズンの総括を語った落合博満氏。「選手、コーチ、スタッフには感謝の言葉しかない。本当に1年間よくやってくれた。ありがとう。全員に100点をあげていいと思います。この画期的な優勝を誇りに思ってほしい」と話しました。
日頃は、本音をストレートに話すことを不得意とする落合博満氏の精一杯の言葉に当事者たちも感慨深かったことは間違いありません。しかし続けて口にした自己採点は、非常に厳しいものでした。「監督は0点です。ちょっとした油断というか、採点ミスで日本一を逃してしまったからです。だから0点。プロは100点か、ダメなら0点しかないんです。来年は100点を取れるように頑張らないと」と話したのでした。
選手としても監督としても輝かしい記録を残してきた落合博満氏は、これまで自信とプライドに溢れる言動をインタビューや取材で繰り返してきたのです。謙虚と美徳という日本社会に置いて決して順応しているとは言い難いものでした。そんな彼がリーグ優勝を果たしながら、自身を0点と厳しく評価し、選手たちを100点と高評価するなどとても珍しいものでした。
またその後のインタビューでは「どうやって来年日本一になるか考えている。来年もこのままなら最下位もある。個々のレベルアップと補強が必要です」監督に就任した初年度には、現存のメンバーで勝つことを目指し、今は”補強が必要だ”とはっきり考え方を変えてきたのは、もちろん”勝つため、常勝軍団を作るため”です。
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