大舞台で魂のパフォーマンス、アラナ・スミス選手
アメリカ代表のアラナ・スミス選手は、2021年東京オリンピックにてスケートボードの競技で出場しました。アメリカのスケートボード界でオリンピックの切符を取るのは非常に大変だったことでしょう。
しかし演技が始まっても”ただ滑るだけ”を貫き、自身のありったけの魂の思いをアピールするパフォーマンスを行ったアラナ・スミス選手。
今回は、彼女がなぜ技を一つも出さなかったのか、このオリンピックという世界の大舞台でアラナ・選手が伝えたかったものは一体何なのか?ということにスポットを当ててお話していきます。
目次
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Xゲームの最年少メダリスト、アラナ・スミス選手
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男性スケーターと技を競ったアラナ・スミス選手
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”ノンバイナリー”として臨んだ東京オリンピック
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今後求められる多様な選手に対しての対応
Xゲームの最年少メダリスト、アラナ・スミス選手
2000年生まれのミレニアムベビーであるアラナ・スミス選手。アメリカのアリゾナ州出身で、幼い頃からスケートボードを始めました。元々は、父の趣味であったダートバイクの大会に出場していたアラナ・スミス選手。しかし、TVで見たXゲームにて女性スケーターが滑っている様子に魅了されると両親にスケートボードをしたいと何度も頼み込んだのです。
これがスケートボードを始めるきっかけとなりました。高校入学時には、プロのスケーターになったアラナ・スミス選手。その持ち前の運動神経で12歳の頃からすでにプロと混じり技を競い合うほどの活躍をしていました。女性スケーターとして、540度の角度で宙返りする”540マックツイスト”という大技を成功させたのもこの12歳の時であるアラナ・スミス選手。
2013年にバルセロナで行われた”Xゲーム”では、史上最年少で銀メダルを獲得し、世界ギネスにも認定されました。そして、2015年にカルフォルニアで行われた世界最高峰コンテストである”ガールズコンビプールクラシック”では、見事優勝を果たしたアラナ・スミス選手。女子スケートボード界において、バク転をした最初であり唯一の選手なのです。
男性スケーターとも技を競ったアラナ・スミス選手
アラナ・スミス選手にとって転機となったのは、スケートボード界最高のスケーターの座が決まるとも言われるほどの大会”SLSナイキSBスーパークラウン・ワールドチャンピオンシップ”だったのでしょう。プロとアマチュアが同時に競い合う大会であり、チャンピオンシップと約360万円の賞金がプレゼントされるものです。
しかし、アラナ・スミス選手にとって重要だったのは、この大会の特徴”女性スケーターも男性スケーターと同じ舞台で技を競い合うものでした。今までにそんな機会など訪れることはなく、当時14歳のアラナ・スミス選手も「信じられない。女性が出場できるようになって嬉しい。これから女性スケーターの活躍の場も広がる」と喜びました。
そしてこの頃から”スケートボードを楽しむ”と決めていたアラナ・スミス選手は「好戦的な人もいるだろうけれど、私たちは楽しみたくてここにいる。いつも勝ち負けにこだわっているわけではない」とそのスケートボードに対する強い思いを話していたのです。
”ノンバイナリー”として臨んだ東京オリンピック
幼い頃、スケートパークに通い始めたアラナ・スミス選手。思っていたより多くの女性スケーターがいたことに当時とても驚いたそうです。しかし世間では”女性がスケートボードをすることを快く思わない男性”がいることを肌で感じてきたアラナ・スミス選手。女の子だからという理由でいじめられていたことや「スケートは、女子のスポーツじゃないからやめろ」と言われた経験さえあると話しました。
そんな男女差別のようなものを受けてきたアラナ・スミス選手だからこそ世界に伝えたかった思いも人一倍強かったのでしょう。2021年東京オリンピックに出場したアラナ・スミス選手は、”ノンバイナリー”としてこの国際大会に臨みました。世界中の人に見てもらえるまたとない数少ない場面で、初めて魂をこめたパフォーマンスを行ったのです。
ノンバイナリーとは、男性と女性どちらにも分類されることのない第3の性別のことです。アラナ・スミス選手は、この第3の性別である自身を”she、her”ではなく”they、them”という代名詞を用いていて認めてもらいたいと願ったのです。胸やスケートボードも裏にこの”they、them”と記し世界に発信しました。文字として記すだけでは強いアピールにならないということもわかっていたのでしょうか。
そしてアラナ・スミス選手が14歳の頃にも話していた「楽しみたい。勝ち負けにこだわっているわけではない」という思いもあったためなのか、始まった競技では、”ただ滑るだけ”ということにこだわって技を一つも繰り出さないパフォーマンスを行いました。
しかし、終始その笑顔が輝いていたアラナ・スミス選手。世界中の人に”知ってもらう”そして”考えてもらう”ということが、このパフォーマンスで見事に成功したのだと思います。
今後求められる多様な選手に対しての対応
性同一性障害であり第三の性とも呼ばれる”ノンバイナリー”であることを公表されているアラナ・スミス選手。現代は、さまざまなことで多様性が求められている社会です。特に東京オリンピックでは、LGBT系だと公表した選手が、160以上いました。そのうち3人がアラナ・スミス選手のように、ノンバイナリーまたはトランスジェンダーであると公表しています。これは、リオで行われたオリンピック時の3倍の人数だそうです。
何よりもアラナ・スミス選手に感銘を受けたのは、やはり競技中に技を一つも繰り広げなかったことです。ただ滑っているだけ。オリンピックという場所で”性”について語るその姿勢というのが、同じ境遇で悩む人に勇気を与えたのは間違いありません。オリンピックに出てメダルを取ることだけが全てではないという姿勢を強く感じました。LGBTや性同一性障害など性に対して悩む選手たちが多くいることが、数字として見たことで今回改めて分かりました。これからは、彼らへのメンタルケアもより一層求められる分野となっていくことでしょう。
今回は、スケートボードのアラナ・スミス選手にスポットを当ててお話ししました。スポーツに限らず、どの分野においても女性に対して差別的な言動や考えがあることは、非常に残念なことです。しかし差別と区別の境目、人それぞれの感じ方や捉え方も違うことから非常に難しい問題でもあります。
現段階では、スポーツ界もまだノンバイナリーのアスリートをどのように報じることが一番自然で適切なのかまだ確立されていない状況であり、これからもさまざまな議論がされるでしょう。
参考記事
https://www.google.com/amp/s/www.vice.com/amp/ja/article/7x7xv9/first-womens-street-skating-world-championships
https://fineplay.me/skate/2778/
https://search.yahoo.co.jp/amp/s/www.vogue.co.jp
https://www.ellegirl.jp/sports/athletes/a37230943/alana-smith-non-binary-olympian-21-0812/
https://news.livedoor.com/lite/article_detail/20607388/