”開き直り”で達成した3度のトリプルスリー、山田哲人選手
スポーツ選手としては、華奢な体付きである山田哲人選手。パワーではなくスウィングのスピードを武器としたバッティングで打率3割、30本塁打、そして50mを5秒07という足の速さで「30盗塁」”トリプルスリー”の偉業を達成しました。
この偉業をなんと3度も成し遂げた東京ヤクルトスワローズの山田哲人選手について今回は、お話しします。
目次
-
武術家の父が育てた山田哲人という”野球”選手
-
メンタルの強さは、気負いしない”開き直り”
-
何年も結果を出し続けることが”一流”
武術家の父が育てた山田哲人という”野球”選手
兵庫県出身の山田哲人選手は、幼い頃から空手やサッカー、水泳や体操などのさまざまなスポーツを習い、華奢な体付きながらその運動神経は素晴らしいものでした。特にサッカーでは、大会の得点王になったこともある山田哲人選手。小学校2年生の頃に野球を始めると、すぐに頭角を表しチームの主力に成長しました。
そんな山田哲人選手を育てた父の知規さん、実は野球経験がありません。しかし、武術の高校チャンピオンになり警察官として勤務していました。息子の野球での才能に可能性を感じたため、仕事の合間には、練習や試合に付き添いました。目まぐるしいほどの忙しさだったと思います。
バッティングに「瞬発力が必要」と考え編み出した独自の練習方法は、至近距離から投げたバトミントンのシャトルをバットで打ち返させるというもの。形は違えどシャトルは、特に芯で捉えないとラケットであっても飛ばないため、それをさらにバットで打つというのは、よく考えついたものです。
野球の名門である履正社高校への入学が決まると家族で学校の近所に引越しするなどのサポートもしました。1年の秋からベンチ入りし、2年の夏には2塁守としてレギュラーを掴んだ山田哲人選手。秋には守備でも認められ、ショートのレギュラーになりました。
迎えた最終学年の春、大阪大会そして近畿大会で優勝。夏の甲子園にも出場し、履正社高校の甲子園初勝利に貢献しました。3回戦で惜敗しました。
2010年のプロ野球ドラフト会議では、東京ヤクルトスワローズ、オリックス・バッファローズの2チームから指名を受け抽選の結果、ヤクルトスワローズに入団した山田哲人選手。「ヤクルトは、一番行きたい球団だった」とのことで、父と息子の大きな夢は、まず一つ叶ったのでした。
メンタルの強さは、気負いしない”開き直り”
山田哲人選手の代名詞として浸透した言葉といえば、2015年の流行語ともなった「トリプルスリー」でセリーグ優勝に導いた山田哲人選手。福岡ソフトバンクホークスの柳田悠岐選手と共に、2002年の松井稼頭央選手以来、13年ぶりの快挙でした。
シーズンを通してよく打った印象ですが、もちろん不調もありました。そんな打てない時にも、とにかく塁に出ることを意識し、出塁率は4割以上をキープ。出塁すると盗塁を狙い得点につなげるのです。もちろん調子が良い時は、ヒットやホームランも量産。そんな山田哲人選手は、バッターボックスでどんなことを考えて集中しているのでしょうか。
「ここで打たなきゃ」とか「このランナーを返したら同点だ」とかそういったゲームの流れなどを打席では一切考えいないのです。あまり考えると緊張するため”開き直る”という考え方にたどり着いたという山田哲人選手。
どんなに良いバッターでも3割しか打てない”10回の打席で7回はアウト”と言われているのが野球。「返せなくて当たり前」もちろん諦めているわけではないのですが「出塁できなくても別にいいか」というその開き直りが、気持ちをリラックスさせて一球一球に集中できるようになるそうです。
一般的にマイナスのイメージを感じる”開き直り”という言葉です。もちろん相手の選手も素人ではなくプロの投手、そして優勝争いともなると球団を代表する素晴らしいピッチャーばかりが相手です。打席ごとに頂上決戦を見るかのようでファンはワクワクしますが、打席に立つ選手は、平常心を保つだけでもその精神力はかなりのものです。
そんななか「絶対打つ」のではなく「打てればいいな」という”開き直り”は山田哲人選手にとって丁度良いのだそうです。幼い頃の野球選手は、並はずれた運動能力、抜群のセンスを持っていてエースで4番、キャプテン。プロ野球界に入団する選手、活躍するのはそんな選手ばかり。ここまで辿り着くまでにそれこそ血の滲むような努力、練習を積んできました。
もちろん、プロに入ったからといって努力や練習が必要ないというわけではありません。しかしここまでくるとあと必要なものは、メンタルなのです。そのメンタルの強化は、どんな一流アスリートにとっても難しいものです。
例えば「絶対打つ」と強いメンタルで打つ選手が多いなか、山田哲人選手のような”開き直り”の考えは、少数派なのかもしれません。これが「正しい」これは「間違っている」というのは誰にも分からないながらも、結果を出さないと評価されないのがプロとしてお金を稼ぐ選手の宿命。日本野球界で唯一「トリプルスリー」という偉業を3度も達成した結果を残している山田哲人選手の”開き直り”は成功だったと言えるのでしょう。
何年も結果を出し続けることが”一流”
平成生まれのプロ野球選手として最多本塁打を獲得した山田哲人選手。東京オリンピック、セリーグ、日本シリーズと2021年は全て優勝で締めくくり、この上ない一流選手といっても過言ではないでしょう。しかし、誰もが認める名実ともに一流の仲間入りをしても「僕も一流になりたい」と話す山田哲人選手。
厳しいプロの世界ではみんな一流選手、そんな中でもさらに山田哲人選手が考え、目指す”一流選手”とは、イチロー選手、青木宣親選手のような選手だと言います。
「一流とは彼らのように何年も結果を出し続けること」まず試合に出続けるためには、絶対にしてはいけないものが怪我。メンテナンスや日頃の食生活なども必要となるでしょう。そして、山田哲人選手が大切にしているものは「体幹」。打球を力強くより遠くに飛ばすには、体幹を鍛えることが必須なのです。
また、体幹を鍛えることは守備にも役立ちます。体幹が鍛えられていれば、無理な体勢でも取った球でもダブルプレーにすることもできるのです。ぶれない強い体やバランスもまた体幹で身につくため怪我もしにくくなります。技術的な難しいトレーニングでなくても、誰でも簡単にできる腹筋で十分だそうです。
しかし、この地味な体幹トレーニングは、実力がつくほど見落としがちになってしなくなってしまうトレーニング。しかし「体幹」というものは、どの種目をするアスリートでもあるか無いかでそのパフォーマンスが大きく左右されるほど大事なものです。幼い頃からあらゆるスポーツをこなしてきた山田哲人選手は、元々優れているのかもしれませんが、プロになってもその体幹トレーニングの大切さを理解していることも一流である証なのでしょう。
今回は「ミスタートリプルスリー」と称される山田哲人選手についてお話ししました。優勝を祝福する父、知規さんに「まだまだこれからやな」と話した山田哲人選手。まだ開幕して間もないながらもすでに4本もの本塁打を記録。「去年は、走れなかったので今年は走ります」と意気込んでいる山田哲人選手は、4度目のトリプルスリー達成となるのでしょうか。
そして「ゴールデングラブ賞も取ってみたい」と守備に対する抱負も話しています。まだ30歳、今後も山田哲人選手にしかできない偉業達成を期待しております。
【このコラムの著者】