日本代表の精神的支柱となった吉田麻也選手
目次
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吉田麻也選手の豊富な経験
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最初ではなく”最後のところ”がメンタル
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黒星から6連勝で掴んだカタールW杯
吉田麻也選手の豊富な経験
長崎県出身の吉田麻也選手は、3人兄弟の末っ子として生まれました。実家は、離島が多く高校に通うのが困難な学生さんのため営んでいた下宿。常に人がいる環境で育ち、2人のお兄さんも7歳と6歳で少し歳の差もあったため、とても可愛がられていたそうです。
サッカーを始めたのは、小学校2年生の頃で小学校6年生に転機がおとずれます。たまたま兄が見つけた名古屋グランパスユース・セレクションの試験を受けてみると見事に合格。70人受けて合格者が4人だけという確率のものでした。小学校6年生を1人で名古屋に行かせるわけにもいかないので、大学生だったお兄さんが一緒に住み生活をサポートしました。
実は、お兄さんもキーパーとしてサッカーをしていたことがあったのです。弟が掴んだプロサッカー選手になるチャンスをそばで応援したい気持ちが強かったのでしょう。名古屋グランパスU15、U18にも選ばれた吉田麻也選手は、チームの中心選手としてキャプテンも務め成長。U18の日本代表にも選ばれ準優勝にも貢献し、順調にサッカー選手としての階段を駆け上がっていきました。
そしてサッカーを続ける傍ら、通信教育で早稲田大学人間科学部に進学し文武両道を貫きました。大学卒業後は、名古屋グランパスに入り念願のプロサッカー選手に。ユースの頃には、すでにコーチから「チェルシーやリバプール、アーセナルの試合を見ろ」と言われてきたという吉田麻也選手。サウサンプトンに移籍することが決まり、プレミアリーグで有名選手とマッチアップし厳しい環境を経験しました。
現在はサンプドリアに移籍し、セリエAでもまた有名選手とのマッチアップで奮闘を見せています。海外でも豊富なサッカー経験を持つ吉田麻也選手が、ディフェンスとして一番大事なことは?と聞かれると「点を取られないこと。点を取られない限り試合には負けない」それを1番に考えているそうです。
サッカーは、ゴールを決める選手がどうしても注目を浴びてしまうのは否めません。しかし、野球のように点取り合戦が容易にできる点の入り方でもありません。吉田麻也選手が話す通り「いかに点を取られないか」というのが重要になってくるのです。
特にセンターバックというポジションは、1、2試合で結果が出ることはあまりなく1、2ヶ月からワンシーズンと長いスパンで見てやっと結果が伴ってくるもの。我慢が必要となる献身的なポジションです。
このポジションの特徴は「失点に絡むことが多い」ということもあり、ミスは必ず起こり得るものです。開始5分で失点し気持ちが折れてしまって残りの85分を低調なまま終えるのか、それとも失点したところからキックオフだと気持ちを切り返すことができれば、残りの85分で良いパフォーマンスができるかもしれません。
そのため「浮き沈みの波を高いところでキープできるように」ということを心掛けているそうです。良い意味で”切り替えが早い機転の効く考え”は、たくさんの経験を得た吉田麻也選手ならではのものなのでしょう。
最初ではなく”最後のところ”でメンタル
”麻也”という名前には”麻のように揉まれれば揉まれるほど強い男の子に育って欲しい”という両親の思いが込められているそうです。実家が下宿をしていたため、たくさんの人がいる環境で育った吉田麻也選手。名古屋グランパスユースに入ることになり、名古屋での生活が始まりました。
しかし、兄と2人になったことが寂しくて”親や友達が恋しくなった”とホームシックにかかり一人泣き明かすこともあったそうです。「子供の頃に一人でいた記憶がない」環境からいきなり変わるのは、大変辛い経験だったでしょう。吉田麻也選手の良い意味での「冷静さ」は、この12歳の時から徐々に身についたのかもしれません。
「成功するまでは帰れない」そう12歳の少年時代に強く思ったそうです。子供の頃から豊富な経験をしてきたため鍛えられたメンタル。しかし、メンタルと一言でいっても「大舞台で緊張しないメンタル」「いつもの自分でいられるメンタル」「相手が誰であろうと揺るがないメンタル」「怪我でも我慢して戦えるメンタル」とたくさんあります。
「最初にメンタルを持ってくるのは好きじゃない」と話す吉田麻也選手。90分の試合では、残りあと1分のところで勝敗を分ける事もあります。毎週いくら良いトレーニングを積んでも、週末の試合で一番良いコンディションを持ってこなければいけないのがサッカー選手。
「最後のあと一歩踏ん張れるかどうか、相手より前に行く気持ちが出てくるかどうか」ここでメンタルが試されます。中学生の時にお菓子を食べない、炭酸のコーラを飲まないと心掛けてていたそうですが、海外の選手は普通に食べているのに日本人との差はどうしてもついてしまいます。
黒星から6連勝で掴んだカタールW杯
結果的には、2位通過でカタールW杯出場を決めた日本代表。しかし初戦は、まさかの黒星スタートとなったオマーン。どちらがホームなのか、わからないくらい追い込まれていたことを「負けるべくして負けた」と表現した吉田麻也選手。
2試合目の中国戦は、何とかもぎ取れた勝利でした。しかし、3試合目のサウジアラビア戦でも2敗目を喫しました。4試合目、W杯に出るためには、勝つことが必須とされたオーストラリア戦。強敵オーストラリアに執念で勝利し、5試合目のベトナム戦、6試合目のオマーン戦、7試合目の中国戦、8試合目のサウジアラビア戦と勝利。
この5連勝で、手応えは感じているものの「全部終わってから判断してほしい」と話した吉田麻也選手。やはりここでも”最後のところ”でメンタルが試されるのです。9試合目、チーム全体で終始気迫十分で勝利したオーストラリア戦。2敗目を喫してから6連勝でカタールW杯出場を決めました。
気持ちを聞かれると「ほっとしてます。これでもう少し代表でプレーできるな」と安堵した表情の吉田麻也選手。内田篤人選手からのインタビューでは、試合前の円陣キャプテンとしてどんな声を掛けたのかと聞かれ「(今まで)勝ったことがないアウェイ(オーストラリア)で必ず勝って出場を決めようと話した」と言いました。とにかく「本当に嬉しい」と話した目に光ったのは汗か涙か。
結果は全て過程の積み重ねで生まれるものです。全ては結果論です。しかし、その結果論を語る際に、自分がどんな過程を歩んでこれたか?言葉にすることはできますか?サッカー界隈では言語化という言葉がよく聞かれますが、言語化すべきところはどんな過程や準備ができたか?それに尽きます。準備の質、日頃の質の大切を感じ取ることができました。
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【このコラムの著者】