慢心を捨て”100%出し続ける人間”へと導く、黒田剛監督
目次
快挙を打ち立てた”黒田剛監督の才能”
北海道札幌市出身の黒田剛監督。登別大谷高校(現在の北海道大谷室蘭高校)から大阪体育大学に進学し、学生時代はサッカーに励みました。卒業後、自身はプロ選手になることができなかったものの指導者としてサッカーに情熱を注いでいくことを決意しました。
大学卒業後に星野リゾートのコーチに就任し、当時は社会人としてホテルマンの勤務もこなしていたそうです。翌年に青森山田高校のコーチを務めることになった黒田剛監督は、さらにその翌年監督に昇格します。
就任当初は、今のように強豪校どころか部員も20名ほどでした。それでも就任後すぐに全国高校選手権に出場を果たしました。常連校としてほぼ毎年のように全国大会に出場し、就任から5年でベスト4に導くことを達成。
そして就任から8年、プリンスリーグ東北で優勝を達成するとこのリーグを8年連続優勝するという快挙まで成し遂げていきました。就任から11年で全国総体で初優勝に導き、全国大会の常連校として他のチームから追われる側のチームへと成長させました。そしてついに就任22年で全国高校選手権で初優勝を果たしたのです。
”初の優勝監督にしたい”選手生命を断たれた息子の思い
家族に対しても大きな影響を与えた黒田剛監督。長男である黒田凱(がい)選手も青森山田高校に入学し、師として父の指導を仰ぐことを望みました。
しかし運命は残酷なもので足に負った怪我で4度の手術を繰り返し、サッカーをプレーすることはあまりできなかった4年間。それでも仲間を鼓舞し、マネージャーとしてチームそして父を支える裏方に徹することを決意したのでした。
故障が原因で競技を諦めることになった黒田凱選手がサッカーに関わるというのはとても辛い状況でした。しかし「父さんを優勝監督にしたいという気持ちは誰よりも強かった」と話しました。この思いが実り、見事に青森山田高校は初優勝を果たしました。
自身のSNSにも「自分達の代で父を初の優勝監督にしてくれてありがとうございました」と仲間や関係者に感謝の思い、最高の出会いだったと青森山田高校への感謝の気持ちを綴っていた黒田凱選手。日本一が決まった瞬間やメダルを手にした瞬間には、嬉しさはあったものの涙は出てこなかったそうです。しかし父である黒田剛監督と抱き合うと溢れる涙が止まりませんでした。
この時間は父、黒田剛監督にとっても涙が溢れた瞬間でした。「サポートとか本当にありがとう。大学に行ってもがんばれよ」と言葉を交わしたそうです。短い時間ながら4年間の全てが詰まった互いの思いが、痛いほど通じ合った素晴らしい時間。
サッカー選手人生にピリオドをうった黒田凱選手は、大阪体育大学に進学を決意しました。父である黒田剛監督と同じくサッカーに携わることを目指すことを願ったのです。
勝つことで生まれる”慢心”
”いつでも青森山田のサッカーを目の前の相手に対して100%やり切る”という思いで選手たちと戦ってきた黒田剛監督。波に乗ったゴールラッシュの試合では、8ゴールを挙げて失点0という試合もあるほど脅威的な強さを示してきました。
スコアだけを見ると”完全勝利”と捉えて満足してしまいがちの結果ですが、そんな試合の中でも「相手を押し込めている状況でも2本のシュートを許してしまった」とチームとしての課題を探すのが常勝チームの指揮官らしさです。
打たれたシュートが枠内シュートであれば尚更、今後失点に繋がりかねない場面を想定して練習を重ねます。負けた試合では反省点を次回へ繋げようとしますが、勝った試合では深く考えないチームも多いです。
しかし「勝った試合でこそ何が問題だったのかを考えることが大切。常に学習材料を見つけて日々の練習に落とし込んで次の試合に入る」と話す黒田剛監督。”勝てば官軍”などの油断は、一切感じられません。”勝つことで生まれる慢心”こそが最大の敵であると強く語りました。
「一番怖いのは勝ち続けること」今まで習慣づいてきた細やかな部分が省略されてしまうと感じるそうです。”やれて当たり前”という気持ちを削ぎ落とさなければ、日々の練習で甘さが出てしまいます。練習でできないことを試合ですることはできないもの。”練習は試合のように。試合は練習のように”その強い思いがなければ、ここ1番の大切な場面で最高のパフォーマンスを発揮することはできません。
青森県の地区大会で22対0で勝利するという記録を残した時にも徹底した姿勢を貫いた黒田剛監督。この大勝にSNSでは「無慈悲すぎる」ちょっとやりすぎではないかという批判的な意見が目立ちました。
しかし「相手がどこであろうと100%の思いでぶつからないと相手にも失礼だと思う。横綱であっても一瞬でも気を抜いたら15戦全敗してしまうこともあるかもしれない。だからどんな時でも持っているものを100%出し続ける習慣が大事なんです」と話しました。
たとえ安全圏と言われる点をとっても勝負は最後まで何が起こるかわかりません。ダラダラするわけでなくとも少しでも気が緩むだけで一気に逆転されてしまうこともあるのが真剣勝負の強さ。
まだプロではなくメンタル的なものが出てしまいやすい学生のチームだと尚更のことです。そして試合で力を抜くことは、相手に対してのリスペクトに欠ける行為でもあるのです。
目標は”勝つこと”だけではない
”試合に勝つこと”だけを目標ではないと話す黒田剛監督。妥協せず、課題意識を持って取り組んでもらいたいと指揮官として望むそうです。スポーツは時に人を魅了するものです。しかし流行りや見せ方を重視すれば、出来上がるものは短期的で非常に脆いものでしかありません。
目指すのは”横に積んでいくブロック”です。上にも積みながら横にも積んで広げていくことでより強固なものとなります。しかし、横に積むという作業が最もストレスというメンタルが重くのしかかるものです。個人のスキルやメンタルはもちろんチームとしての組織力も必要となってきます。
スポーツは勝負事であるため勝った負けたは付き物です。それでも負けた時には全員ですぐに立ち戻り、共有できるポイントを持つ作業を続けてほしいと考えるのだそうです。
巣立っていく選手は、プロとなったり社会人となる選手それぞれですが、どんな進路に向かってもサッカーを通して身につけた経験を活かせるように”100%の力を出し続けられる大人”に成長してほしいという思いで指導しているのです。
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