利他主義者の多さは強さに関係する?運動パフォーマンスとの関係性
目次
- 利他的行動、利他的な人とは
- 利己的な人と利他的な人の決定的な違い
- 利他主義者の多いホッケーチームは得点率も高い
- 強さは優しさの中に存在する、利他的な人であふれたチームは全体的な運動パフォーマンスも高い
利他的行動、利他的な人とは
利他的行動とは、自己犠牲を顧みずに他人の利益を考え行動することです。具体的には「寄付」や「ボランティア」などの行動が挙げられます。また、このようなもの以外にも些細な「自分よりも先に順番を譲る」などの行為も利他的行動と言えます。
ヒト以外の動物は他人に利他的行動を行わない?
利他的行動はヒトだけでなく、さまざまな動物において行われています。ただし、多くの動物では利他的行動を行う対象は家族に限定され、ヒトだけが直接的な見返りの期待できない、血縁関係がない他者へも利他的行動を行うとされています。
本来、自分が損をし、赤の他人が得をする利他的行動は生存・子孫繁栄においてはマイナスな要因であり、進んで行うことに疑問を感じる方もいるのではないでしょうか。しかし、実際に人間は他人へ自分の身体の一部を分け与える「献血」や「臓器ドナー提供」、自分の資産を分け与える「募金」などの利他的行動を行います。
こうした利他的行動をする方の多くは行動に対する「見返り」や「お返し」は求めていません。なぜ、ヒトがこのように赤の他人への利他的行動を行うようになったかは、これほど進歩した生物学においても説明できない”謎”であるとされています。
利己的な人と利他的な人の決定的な違い
利他的な行動は一見すると自分にとってメリットのない、非生産的・非効率的なことのように感じる方もいるのではないでしょうか。ただし、利己的な人と比べると実は利他的な人こそ強い精神性を保持していると考えることもできます。
利己的行動を行なっている人は、自身の利益を優先するあまり他人を羨ましく思うことや、時には憎んでしまうこともあります。こうした行動を繰り返すと周囲に仲間が増えず、孤独を強く感じるようになることも多いようです。
特に、困窮した状況で手を差し伸べてくれる人がいないと精神的に受けるダメージは計り知れないでしょう。一方、利他的な人は同じ志を持つ人や近いコミュニティの人との良好な関係を構築しやすいため、一時的にアウェイな状況や困難な場面に陥ってもすぐに救いの手を差し伸べられやすいです。
このように利他的な人こそ困難を乗り越えやすいことが多く、結果的に幸福感を感じやすくなることが多いと考えることができるのではないでしょうか。これはスポーツなどの競技においても言えることであり、特にチームでプレイをする競技の場合は仲間の支えなくして逆境を乗り越えることは非常に難しいのではないでしょうか。
こうした考えからも利己的であることは、チーム全体にとっても重要なことなのではないでしょうか。
利他主義者の多いホッケーチームは得点率も高い
ニューヨーク大学スターン経営大学院の行なった研究There’s No “I” in Team: Altruism as a Predictor of Team Success in the National HockeyLeague(Stevens et al.2018)では、実際のナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)において利他主義者の多さが成績に影響を及ぼす要因であるということがで説明されたそうです。
この研究では選手をそれぞれ「タフ」「技巧派」「利他主義者」に分け、得点に対してこれらの選手を要因として主成分分析を行いました。この結果、利他主義者を多く含むチームでは得点や目標の達成率が高いことが浮き彫りになりました。また、同時に得点に繋がるプレーの多い利他主義者の選手は他の選手と比べて年棒も高い傾向にあるということも示唆されたそうです。
ホッケーは「氷上の格闘技」とも呼ばれ白熱することも多いスポーツですが、こうした競技ではチーム全体を俯瞰し気にかけてあげることのできる選手が多いほど成果が出やすいということがわかりました。利他主義者の多さが良い結果をもたらすという傾向は、ホッケーにかかわらず多くのチームスポーツにおいても同様の傾向がみられそうです。
激しいスポーツであればなおさら、「周囲への気配り」を意識して行なってみてはいかがでしょうか。
強さは優しさの中に存在する、利他的な人であふれたチームは全体的な運動パフォーマンスも高い
利他的な考えが当たり前になっているチームでは「相手の状況を把握すること」が無意識で行われているのではないでしょうか。
成果としての本質的な強さは「他者を打ち負かすこと」ではなく「仲間を最高のパフォーマンスへ導き合うこと」と考えることもできます。
自身のことだけでなくチーム全体の状況を把握することは、一見すると直接的な成果に繋がらないようで、実は成果に大きく影響する重要なポイントになります。“単に個々の運動パフォーマンスが高い寄せ集めチーム”ではなく、”お互いに気遣うことができるチーム”こそ真の強いチームと言えるのではないでしょうか。
もし、自身のチームの成績が伸び悩んでいると感じる場合は、今一度、自分が仲間と自分の優先順位を見直してみると解決の糸口が見えてくるかもしれません。
参照論文・There’s No “I” in Team: Altruism as a Predictor of Team Success in the National HockeyLeague(Stevens et al.2018)
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