侍ジャパンが最高の教科書、アスリートのための”心理的安全性”
目次
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理想的環境である”心理的安全性”
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良いチームを作る”効果的な5つの要因”
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”最高の心理的安全性”を発揮した侍ジャパン
理想的環境である”心理的安全性”
心理学用語の”サイコロジカル・セーフティー”を日本語に表したのが、心理的安全性。アメリカのハーバード大学で組織行動学研究していたエイミー・エドモンドソン教授が提唱した概念で、世界で最も影響力の高いビジネス思想家50人にも選ばれた経験を持つ人物です。
心理的安全性とは、職場やスポーツなどのチームで誰に何を言っても人間関係が壊れることなく、非難などされることのない環境を指します。チーム内においてチームメンバーの一人一人が、自分の意見や考えを躊躇せずに発言や行動できる安全な場所ということです。
通常なら大人数の中にいると他者の反応に怯えたり、恐怖や不安を感じてしまうものです。それでも羞恥心などを感じることなくメンバーが、チームに安心感を持てている状態は理想的なものです。”チーム内で自分らしく過ごせる状態”そして”チーム内で何の抵抗感もなく、安心して何でも言い合える状態なのです”。この心理的安全性が成り立っているチームは、目標とする達成度(チーム成果)が高いことがわかっています。
逆に心理的安全性が不足していると『無知だと思われる不安』『無能だと思われる不安』『邪魔をしていると思われる不安』『ネガティブだと思われる不安』という行動特性が現れ、メンタル面で不安を抱えやすくなります。メンタルを安定させ、パフォーマンスを向上させるために率直に何でも言い合える理想的な環境”心理的安全性”が必要なのです。
良いチームを作る”効果的な5つの要因”
Google社が実施した社内調査『プロジェクト・アリストテレス』がきっかけで注目され始めた心理的安全性。高い業績をあげ、それを維持できたチームの条件を突き止めるのが目的のプロジェクトでした。
調査の結果明らかになったのは『生産性が高いチームは、心理的安全性が高い』ということです。そして効果的に”良いチームを作る5つの要因”が見つかりました。
まず1つ目に”心理的安全性”です。心理的安全性の高いチームのメンバーは、他のメンバーに対して非難されるリスクを恐れずません。そのため、積極的な質問や斬新なアイデアを出し合うことができます。
2つ目に”相互関係”。信頼関係の高いチームのメンバーは、クオリティの高い仕事でも時間内に仕上げることができます。チームで過ごす中で「このメンバーなら引き受けたことは最後までやり通してくれる」と信頼しあえることがメンタル面で安心を与えるためです。逆に信頼関係の低いチームのメンバーは、ネガティブに責任転嫁するなどスムーズに仕事が進まない要因にもなり得ます。
3つ目に”構造と明確さ”。良いチームは、目標を達成するまでのプロセスをチームの個々のメンバーが理解しています。個人とチームのどちらの目標であっても短期的なものと長期的なものを設定し『有効となる意思決定やプロセスがある』と感じられる環境を作ることが大切です。
4つ目に”仕事の意味”。良いチームを作るためには、仕事そのものや成果に対しての目標意識を感じられる環境を作る必要があります。『チームのためにできることを精一杯している』とチームのメンバーが意義を感じている環境が理想的です。
5つ目に”インパクト”。『自分の行っている行動には意義がある』とチームメンバーが感じられるかが重要です。そしてチームの心理的安全性を高めるためにエイミー・エドモンドソン教授が推奨している簡単な取り組みもあります。仕事は、実行の機会ではなく”学習の機会”と捉えること、”自分も間違う”ということを認めること、”好奇心を形にし積極的に質問する”ことでした。個人が意識して取り組む事でチームとしてのパフォーマンスを向上させることができるのです。
”最高の心理的安全性”を発揮した侍ジャパン
WBC優勝で『最高の”心理的安全性”の教科書だ』と称された侍ジャパン。最高の結果を残した強さの秘密は、チームの心理的安全性が高かったことです。
侍ジャパンが、押さえていた心理的安全性の2つの特徴は”構造”と”対話”。チームの目標やメンバーに期待する役割、評価基準を”構造”としていました。
栗山英樹監督が一切ブレることなく、チームの目標としていたのは、『世界一(優勝)』。出場する限り優勝を狙うのは当たり前のことに思えますが、選手を一層奮い立たせた準々決勝イタリア戦の前日会見での栗山英樹監督の”目標の伝え方”が評価されています。
「子供にも大人にも夢や元気、勇気を与えることができるならば、侍ジャパンとしての意味がある。だから世界一を目指す」。この言葉は、侍ジャパンの選手たちに『ただ試合に勝つことだけではなく、社会的に影響を与えるのだ』と心に刻まれたのです。
もう一つの特徴が”対話”でした。「今のチームは、みんなとコミュニケーションをとりながらやっている」と話したダルビッシュ有投手。2009年のWBCのチームメンバーは自分のことだけやっていたそうです。
選手陣の団結について質問を受けた今永昇太投手は「冗談も言い合える家族のような存在。時には弱さを見せ合える関係性」と答えていました。
メンタルの強さが求められるアスリートにとって”弱さは見せられない”と感じてしまうものです。しかし侍ジャパンでは『自分の弱さを見せても馬鹿にされたりしない』そんなメンバーだったのです。率直に”チームで対話”することでお互いを高め、チームの勝利に貢献できる環境が作られました。
日本ハムファイターズの監督時代から『若手からベテランまで毎日隙あらば一対一で話をしようと試みる監督』と言われていた栗山英樹監督。そんな彼から「一人ひとりの選手と対話するタイプ」と評価されたのが大谷翔平選手でした。
「(大谷翔平選手と話すことで)選手は、何の不安もなくプレイできるんじゃないか」と感じていたそうです。そんな栗山英樹監督が侍ジャパンではなく、”ダルビッシュジャパン”と話したこともありました。それだけダルビッシュ有投手のリーダーシップが大きな影響を与えていたのです。
今回は、心理的安全性についてお話しました。Google社が約4年もの年月をかけて調査した結果、明らかになった良いチームを維持できる要因。そして優勝、世界一を成し遂げることができた侍ジャパンが見せた”構造と対話”をぜひ実践していただきたいと思います。